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入った瞬間、思わず目を細めてしまう程に会場の照明が眩しく感じた事は、恋している相手との初対面に高揚する心による目の錯覚だと思う。


私は初めて社交界に出る貴族の子どもらしくもなく、ただセス様の事だけを考えていて、私がまずした行為といえば会場内の何処にセス様が居るのかと目を凝らし探す事だった。

居ない訳は無い。セス様は私より誕生日が早く、彼自身の心的事情の問題で三歳の誕生日以降は彼の父である現国王陛下であるエドワード陛下が出席する社交界には全て休みなく出席しているはずだからだ。

だけど身長のせいでただでさえ人の多く広い部屋では上手く見つける事が出来ない。いや、私はきっと彼の髪の一本でも見えていたなら見つけられる。だから、私の見える範囲には居ないという事だろう。

一度深呼吸し、心を落ち着ける。


「…お父様、まずは陛下へのご挨拶ですわよね。その後に、主催のクラビット公爵へのご挨拶」

「ああ。出来そうかい?」

「当前ですわ」


普通に考えれば、セス様は陛下と一緒に居る確率が高い。だけどゲームで知る限りセス様の心情を考えると、あの方は陛下と一緒に居なかったとしても不思議ではないとも思う。だからどちらの時でも動揺せず臨機応変に対応しよう。

カイン子爵が歩いて行く方に恐らく陛下がいらっしゃるんだろう。私は付いて行きながら人知れずもう一度深呼吸した。

セス様が居なかったとしても、未来のお義父様との初対面。これはこれでとても重要だ。


やがて目的の人物の前まで私を連れて行ってくれたカイン子爵は足を止める。カイン子爵がゆっくりと止まってくれたので、私も余裕を持って止まる事が出来た。

同じ目線で目が合う方は居ない。どうやらセス様は今一緒には居ないらしい。首を反らし顔を上げる。

セス様をこの世に誕生させてくれた、セス様を形作る遺伝子の半分を持つその人は、精悍な顔つきというより穏やかそうな顔つきで、だけど目だけは涼しげな鋭さがある。金色の髪と青い瞳という絵本の中の王子様と同じような色合いは、セス様とほぼ同じだ。

ああ、しかし、それにしても…王様だ。一目見ただけでわかる。王様だと言われなくても見たら、わかる。この人は、国を背負っても笑って立って居られる人だ。大きい。私もこんな人間にならなきゃ。セス様の隣に立つ為に。


カイン子爵が陛下に儀礼的な口上を口にするのを黙って聞きながら、私は目標を見据えるように陛下のお顔を見つめ続けた。


「それと陛下、この子が私の娘のリリアナと申します。リリアナ、挨拶を」


やっとカイン子爵から私を紹介してもらえたので、私は半歩前に出る。


「父よりご紹介に預かりましたイノシー家長女、リリアナ・イノシーと申します。この度は国王陛下とお会い出来、光栄至極にございますわ。僭越ながら、以後お見知りおきを」


片脚を後ろに下げドレスの裾を両手で軽く摘んで頭を下げる。指の先まで美しく見えるように気を遣う。五秒間頭を下げて上げる。陛下への謁見の時なんかだと許されるまで頭を上げてはいけないけど、こういう社交の場では手間となるので充分に頭を下げたら上げてもいいとシャーリーから教えてもらった。

ん? 教えて…もら……あ。し、しまった! シャーリーに教えられたのよりつい固い言葉遣いで挨拶しちゃった!

だ、だって、ゲームでは見た事あったけど実際見たらこんなに圧倒されるような凄い方だとは思ってもみなかったんだよ! オーラにあてられちゃったんだよ…っ! ゲームと現実は違うのは当たり前なんだけど、想像以上で…ど、どうしよう!

いやでも、固い言葉遣いな分にはそこまで問題は……いや、高校の先生が二重敬語はかえって失礼にあたるって言っていたし、今回のもそういう事に近いのでは…? 私、早速セス様のお父様に失礼を働いてしまったのでは…!?


「リリアナ、か。少し、ニコラスと似ているな」


陛下は内心慌てまくっている心を落ち着けてくれるような優しい笑みをくださった。私はほっとする。

する、けど、しかしその言葉は……。

ニコラス・キャボット。それは陛下の子供で、セス様とは母親違いの兄の名前だ。乙女ゲーム『救国のレディローズ』では、恋愛対象キャラクターの一人となる。その彼と私が似ている、と陛下は仰ったわけだけど…。

ニコラスは天才型で生まれつき初めてする事でも、容量よく何でもこなせるタイプの人間だ。ゲームの都合上、お色気キャラな側面はあるけど別に彼は自ら誘惑して来たりスキンシップが激しい訳ではなく、たいてい事故で主人公がラッキースケベみたいになるのと見た目が色気あるだけだし…こう、少女漫画とかの何でも出来る皆の憧れの年上キャラクターという方が性格や立場的にはしっくり来る気がする。

で、私がそのニコラスと似ていると言われて何で微妙な反応かって…まず、見た目に関してはあの銀髪に冷たい青の目の鋭い印象のイケメンと今のかわいい系美少女な私の外見は絶対似ていないので、これは確実に中身の話だ。そして中身にしても、まだ大して話していない事から性格やらの話ではないだろう。たぶん、私の一連の挨拶が三歳という年齢にしてはそれなりによく出来ていたという事なんだと思う。天才と比べてもらえる程に。

けど、私は努力して頑張ってやっと人より上手く出来る凡才な人間なので、本物の天才と比べられるのはキツいものがある。

ニコラス・キャボットなぁ…あの人はセス様に王位譲る気だし、あんまり表舞台には出ないから今日の社交界にも出ていないと思うんだけど、正直性格的に仲良く出来る気がしないんだよなぁ…。

性格悪いんじゃないんだけど、私と合わなそうというか…ニコラス、身内には優しいんだけどその身内の中に入れるまで仲良くなれる気がしない。セス様のお兄さんだから気に入られるように頑張りはするけどさ。


私はそんな複雑な心境で、陛下とカイン子爵の世間話を聞いていた。カイン子爵は権力には興味が無いようで、陥れられたり陰謀に巻き込まれたりしない限りは目立って駆け引きする気も無く、私も出世の為に色々と画策を強いられないので気楽なものだ。

そろそろ陛下とカイン子爵との世間話も終わりに差し掛かり、陛下はもう一度私を見てしゃがんだ。

この国で一番偉い人が、出世する気が無く…要するに国に対して特別には益をもたらす気の無い子爵の三歳の子供相手に、膝を折ってくれた。当たり前のように。


「もし私の子供、セスを見かけたら良かったら仲良くしてあげておくれ、リリアナちゃん。君達は今回の出席者の中ではたった三人の同年齢だからなぁ」

「はい、是非」


わー!! やったー!! お義父様(予定)から息子様とお友達になっていい許可が出たぞ!! ありがとうございます! 息子さんは末長く、私が幸せにさせて頂きます!!


……ん?

喜びに押し流されて気づかなかったおかしな事に、十秒経ってカイン子爵と陛下の別れの言葉も終わってからようやく気づいた。

たった、三人? どういう事だ? 出席者で同年齢なのは私とセス様だけじゃないのか?

普通、あまり幼いうちから縦や横の繋がりを作り探り合いをする大人の戦場に来させても意味が無い。それどころか、特に私のように三歳そこらの子どもなんて、行くのが嫌だとぐずったり会場で粗相をしたりする方が当たり前だ。

だから私とセス様ともう一人は逆に、こんな場に来ている、来られている時点で普通ではない。


「お父様、王子様のセス様と私と、それ以外にもうお一人同年齢の方が出席していらっしゃるのですか?」

「ああ、というかだからこそリリアナの出席は認められたんだよ」


私はきょとんとし、それからむしろまったく違和感を覚えていなかったこれまでの自分を恥じた。

そりゃそうだ。社交界には招待状が無ければ会場に入れない。なら、私は事前に来る事を許されていたはずだ。カイン子爵だって親バカとはいえバカではない。台無しにされるかもしれないと主催者が不安に思っているようなら、私を出席させたいなんて言葉はすぐに撤回するだろう。

なら、私がすんなり来られたのはつまり主催者が私を参加させてもいいとすんなり了承したのと同意義だ。


「そのお方って、」

「リリアナ、クラビット公爵だ」


それはクラビット公爵を見つけたカイン子爵が、今から挨拶するから私語は慎みなさいというたしなめだったんだけど、同時に答えでもあった。

クラビット公爵と公爵夫人の逆隣、そして下には、私と目線が合う一人の小さな男の子が居た。女の子と見まごうような愛らしい顔をした白髪赤目の見た目は年相応の少年。かわいらしい、三歳の子ども。

メルヴィン・クラビット。『救国のレディローズ』、恋愛対象キャラクター。まさかこんなにも早く会う事になるとは。


カイン子爵と共にクラビット公爵に近づく為歩いていると、クラビット公爵より先に、小さな子どもの目が此方を向き、そして鋭く輝いた。

その瞬間、私は理解する。こいつのお陰で私はすんなり此処に来られたんだろうなと。つまり彼は私とセス様のキューピッドだ。本人にその気は無くても。


カイン子爵とクラビット公爵、それからクラビット公爵夫人が話し始めた一方で、私とまだ名前は聞いていないけどまず間違いなくメルヴィンだろう男児はまるで目で戦っているように視線を合わせていた。

もしかしたら私に予備知識があるせいでの思い込みかもしれないけど、まるで探るように私を見る目はおよそ一般的な三歳児のするようなものじゃない。これでは私と同じ境遇で中身大人ですと言われても違和感が無い。

ああ、早熟な天才って怖い。…私、天才キャラってなんか怖くて好きじゃないんだよね。この世界、というか『救国のレディローズ』には天才キャラがいっぱい居るし、その中で考えるならメルヴィンは怖い方ではないけど。

ふと、大人が自分達の事に触れず話しているのに痺れを切らしたのか、メルヴィンだろう男児が一歩前に出て私に近づいた。


「メルヴィン・クラビットです。初めまして、リリアナ嬢」

「初めまして、メルヴィン様」


ああ、やっぱりメルヴィンだよね。知ってた。

社交の場において、先に名前を言われた場合はそれで合っているという意味を込め名前を名乗り直さなくていい。本当はもう一言二言続けると尚良いんだけど、メルヴィン君とそんなに仲良くしたい訳じゃないし、何ならさっさと会話を切り上げたいので三歳児ならこの程度許されるだろうとたかを括って黙り込んだ。

しかし、そんな私の希望も虚しく、メルヴィン君は私を見ながら子どもらしくない含みのある笑みを浮かべる。

…まあ、私の名前を紹介される前に言えている時点で、無理な希望なのは重々承知していたけど。


「父上、僕、彼女と少し二人でお話ししたいのですが」

「はは、何だメル。かわいい子だからって興味でも湧いたか?」

「あはは、そうですね。興味。はい、ありますね」


私は一見和やかなクラビット父子の会話を、笑顔を貼りつけて聞いていた。私が反対したところで仕方ないし。

一方、親バカ娘大好きなカイン子爵は凄い顔で二人のやりとりを見ていて、それにクラビット公爵夫人が笑いを堪えている。なんて微笑ましい光景だろう。しかし…。

カイン子爵、安心して。メルヴィン君の言う興味は確実に、そういう意味じゃない。


「では、リリアナ嬢。お嫌で無ければ少しテラスででもお話し致しませんか?」

「ええ、喜んで」


これ三歳児同士の会話としてはどうなんだろうと思いながらも、私は仕方なくメルヴィン君の差し出した手を取って大人達から離れるように歩き出した。

社交辞令として仕方ないとはいえ、初めて手を取られるのはセス様が良かったなぁ。と、将来かわいい系イケメンになる国内有数の権力を持つ次期公爵を相手に不遜な感情を抱く。

いやー、でもしょうがないよね。私、セス様以外は本当にまったく全然、恋愛対象じゃないし。てか、前世で十六歳まで生きた記憶あるのに三歳児相手に恋とか、セス様以外には有り得ないわぁ。セス様はセス様だからいいけど、セス様以外だったら稚児趣味じゃんショタコンじゃん。せめてもう少し大きくなってからじゃないと。セス様以外は。


そのように、私は前世の世界では乙女ゲームの恋愛対象キャラクターだった少年に手を引かれながらもまったく乙女の気配を見せる事は無く、むしろちょっと面倒臭いし私はセス様を探しに生きたいのになぁと辟易していた。

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