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二人手を繋いで部屋に戻ると、ナナちゃんが修道服を脱いで下着になっていた。

確実に大変な何かがフィーちゃんと私が長話している間に起こったんだろうけど、私はナナちゃんが幸せそうに笑っているので理由はどうでもいい気がした。

一先ず当面の問題として、自ら修道服を脱いだナナちゃんに同じ服を着せ直すのは気が進まず四苦八苦していたら、ノランが自分の上着を着せて応急処置に近いけど事態は収集した。


ノランとナナちゃんは、まるでお互い昔からの知り合いみたいにお互いタメ口で親し気に話している。転生者のナナちゃんがノランと知り合いなら、前にノランとゼロがゲームと違う所がある気がするって感じたのはナナちゃんのせいということも考えられ……いやでもまあ、隣国の王子と平民の修道女が知り合う機会なんてないか。

それに私も心に余裕が出来たとはいえ、まだ人の事を気にしている場合じゃない。ナナちゃん達の事は今は流しておこう。


そう思った所で、お義兄様が私を真っ直ぐに見ながら近づいて来た。フィーちゃんと繋いでいた手はナナちゃんの騒ぎでもう離れていたけど、お義兄様にも見られてはいただろう。

私はお義兄様が何か言う前に、自分から口を開いた。


「……使命は果たせず、さらには天上する事さえ今の私には難しいようですわ。申し訳、ありません」


腰から九十度上半身を曲げて謝罪する。

お義兄様相手に、ここまでする必要はないかもしれない。だけど、口約束ですら無かった暗に命令された事とはいえ、快諾したのは私。それを破ったんだから謝るべきだと思った。


「お前もお前で、フィーとは違う意味で思い込みが激しいな。私との会話でお前がするべき事を勘違いしたのはわからないでもない。私が同じ立場でもそう考えだろう」


…? お義兄様は何を言っていらっしゃるんだろう。思い込み? 勘違い?

頭を下げたまま困惑する私をよそに、お義兄様は話を進める。


「だが、リリアナ、確かに私はお前の事があまり好きではなかったが……義妹として、多少は情も移っている」

「お義兄様…」


私は思わず顔を上げた。涙ぐむ。さっき泣いたから涙腺が緩んでいるせいだろう。

お義兄様の大きい手が、宥めるように私の頭を優しく叩いた。

もしかしてお義兄様は命令なんて最初からしていなくて、素直に私の事を心配してくれていただけだったのかな?

お義兄様が私に情を移してくれたのは、私の話をよくしていたと言っていたからフィーちゃんのお陰かもしれない。でも少し、ほんの少しだけは、私も頑張ったからだと思ってもいいのかな。努力は必ずしも無駄になる訳じゃなくて、幸せに繋がっているって思っていいかな……?


「少しセスと二人で話して来なさい。お前達は互いに言葉が足りな過ぎる」


そうお義兄様は言って、自分は脇に避けセス様の方に向けて私の背中を押した。

突然の行動に私は驚いて少しだけよろけ、私じゃなかったら転んでいてもおかしくなかったぞと抗議したくなる。…いやまあ、多少情が出来たとはいえ私達はこれぐらいが丁度いいか。

背中を押された先、セス様を見るとセス様も私を見ていた。心配そうな顔に胸が痛くなる。

すぐにでも駆け寄って話したい気持ちはあったけど、でも、私は一度お義兄様を振り返った。

だって背中を押してくれたから。だったら私もって、思うじゃない。


「お義兄様! 運命って、変わると思います!」


フィーちゃんと話して持った、あまりにも小さいけど確かに胸に輝いた希望を、お義兄様にも伝えたかった。

運命は変えられると思うかと聞いた私に答えられなかったお義兄様なら、諦めていないお義兄様なら、きっと運命を変えられる。


「私の人生、挫折の数なんて数え切れないけど! 運命を変える事もとっくに諦めてしまっていたけど! それでも、私はフィーちゃんのお陰でもう一度って思えたから…! たとえこの先やっぱり何も変わらなかったとしても…信じる事は、希望を持つ事は自由だから!」


一度言葉を切り、大きく息を吸い込む。

何度も挫折し運命は変えられないと確信して絶望して諦めた私だからこそ、これは言える言葉だと思うんです。今も明るい未来が約束されているなんて冗談にも程があるような、ただ前を向いただけの私が言うからこそ、響く事ってあるはずだから。


「だから、お義兄様もきっと…っ!」


お義兄様がどんな運命を変えたいかなんて知らない。でもやっぱり私が思う事はあの時と変わらずに、私がもしダメでもお義兄様は変えてくれたらいいって思う。


「……やはり、お前は私に似ているよ」


返って来たお義兄様の言葉に驚いた。だってお義兄様も私にそう思っているとは想像していなかったから。

それだけ言うと苦笑いして、お義兄様は一人で部屋を出て行ってしまった。

肯定された訳でもなく否定された訳でもなく、ぶつけた感情に大きな反応は無かった。でも、それでいいと思う。伝えることが大事だったと思うから。


私は今まで、お義兄様が言った通り言葉が足りな過ぎた。それはセス様にもだけど、お義兄様にも、いや今まで今世で出会った全ての人にだ。

だから、私の言葉を受けてどうするのかはお義兄様自身が考えればいい。


お義兄様が作ったセス様と私が二人で話し合う空気により、私達二人以外の人達皆がお義兄様を追うように部屋を出て行く。

そんな中、エヴァンの腕を軽く拘束の意味で掴みながらメルヴィン君が私に近づいて来た。

勝手に消えようとした事を怒られるのか、それとももう愛想を尽かしたと告げに来たのか、そんなネガティブな感情でまた頭が埋め尽くされていく。私はとにかく先に謝ろうと口を開く。

それより早く、メルヴィン君は早足で私とすれ違った。


「がんばれ」


私の耳元にそんな言葉だけ、勇気だけ残して、メルヴィン君は出て行った。

……全部終わったら、どんな結果になったとしても一番に私はメルヴィン君に会いに行こう。

そしてメルヴィン君には全てを話して、それから伝えたいことがある。


私が全員出て行ったかとセス様の方を見ると、セス様はセス様で何故かノランと話していた。


「王子ってのは無駄に期待掛けられて、そのくせ貧乏くじばっか引かされて嫌なもんだよなぁ」


軽口を叩いて絡むノランに、セス様は何も答えない。ノランは気にしていないように続けた。


「まあでも、そう悪い事ばっかでもねぇぜ? 前向いて格好よぉく歩いてりゃ、幸せなんて勝手に転がり込んでくるもんだ。俺みたいに」


口の片端を上げてにぃっと自信満々に笑ったノランは、最後に私にも聞こえない声で小さくセス様だけに何かを言った。


「ノラ、何やってんの!」


そんな時、隣国王子をあだ名で呼び捨てにするさすがのフィーちゃんの鶴の一声によって、ノランは開けっ放しのドアへと走って行き部屋を出て行った。

ドアがゆっくりと閉まる。私とセス様二人きり。

婚約者なのにこうまでしないと何も話せなかった私達の、本音の話を始めよう。

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