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婚約式典の前に随分疲れさせられたけど、私はセス様にはお義兄様の事も双璧の死神の事も何も言う事なく、今日は天気が良くてよかっただとか、今から婚約式典に私が出るだなんて夢みたいだとか、そんな当たり障りない優しくて幸せな会話だけした。

婚約式典は順調に進んだ。王宮五階バルコニーから下の人間に笑顔で手を振って、幸せな顔をする。

手すりに手をかけて、目を凝らして国民一人一人の顔を見る。中々こうして、平民と触れ合える機会って無いし。触れられてはいないしちょっと遠いけど。

だから、一人一人をよく見て、顔をちゃんと認識する。――あの女の人は、似てるけど違う――私は王妃になるんだから、こういう国民との交流は大事だからね。


いつの間にか随分と手すりに体重をかけるように身を乗り出していた私に腕が伸びた。


「頑丈には作ってあるが危ないだろう」


セス様が言いながら、私を手すりから引き離すように私のお腹に腕を回し軽く押す。

私はそんなセス様に混乱した。セス様の腕に過剰反応し、逃げるように後退してしまう。セス様の口元が困ったような歪んだ弧を描き、だけど何も言わずに別の方に顔を動かされた。


婚約式典はそのまま進み、表面上は一切の滞りなく終わろうとしている。

私は、その間ずっと考えていた。セス様が普通に私に優しい理由を。

だって仕方なく、そうするしかない状況になったから婚約者にした相手に接しているにしては優し過ぎる。

どうしてか考えた。考えに考えた。


そして、気付いた。正確には漸く思い出した。

私はセス様にとって間違いなく、一番の友人だった事を。

今までずっと私は、王になる身として王妃は必要だからレディローズと婚約破棄した以上仕方なく、セス様は私と婚約したのだと思っていた。


違った。そうじゃなかった。

セス様は弱い人間じゃない。あんなにも幼かった頃から王となるため一人で戦っていたセス様が、そんなに弱いはずがなかった。だとしたら、何故私と婚約したのか。

……それって、誰の為だった?


婚約式典が終わる。セス様が最後の挨拶を終え、私に手を差し出す。私はその手を握る。

決められた流れと決められた行動。だけど……。

私は恐る恐るセス様を見上げる。

それに緊張している自分を自覚した事より、私がセス様の目を見るのがあの時以来だと気付いた。レディローズとの最後の日以来。ずっと、さり気なくセス様から目を逸らしてきた。後ろめたさで私がセス様を見られていなかった。


久しぶりに真っ直ぐに見上げたセス様は、私に優しく穏やかに笑いかけていた。

そこには熱も恋情もやっぱり感じなかった。でも、それでも、確かに私に向けられた優しく温かいお心と好意を感じた。

手を繋いだままお城の中を歩く。婚約式典は終わって、私とセス様は後は着替えるだけ。だから少しだけ、時間がある。


「セス様は王となったら、この国をどのような国に導きたいのですか?」


私は気付けば、そんな事をセス様に聞いていた。

今まで、セス様の根幹ともいえる王となる身としての彼の事に私は触れて来なかった。

それはただ、ゲームの主人公が、王ではないセス・キャボットという一人の人間を支えるような恋愛をしていたから、そこに触れる必要はないのだという先入観からそうしていただけだった。聞いてはいけない訳ではない。

セス様はそんな私の突然の質問にもすぐに答えてくださった。


「末端の民まで幸せだと当たり前に思えるような国だ」


そのお言葉は、平民へと降格の罰を与えられたレディローズの事を思えば深読み出来た。だけどそこには深く切り込まず、私は続けて聞く。


「では、どのような王になりたいですか?」


セス様はまた、最初から答えが決まっていないと不可能な程の即答で、こう言った。


「国も、隣に居る者も、どちらも笑わせられるような王になりたいな」


隣に居る者。今あなたの隣に居るのは……。

ボロボロと涙が零れ落ちる。止まらない。だって、全部が繋がった。確信した。

あの時セス様が私と婚約したのは……全部私の為でしょう? 私があの後レディローズを追放しただけのただの子爵令嬢だったなら、学園や貴族内で、私が今とは比べ物にならない程非難されていたのは想像に易い。

セス様はあの時きっと、私の罪を全部知っていた上でそれごと背負って私を助ける為に、手を差し伸べてくださっていた。

レディローズは自らセス様の手を跳ね除けた。それはレディローズにとっても不本意だったかもしれないけど、そうなるとセス様はもう彼女の事は助けられなかった。

でも私を守る事はまだ出来た。自分の一番愛する人を傷つけ散々な嘘を吐かれ、それでも私をセス様は、友人として守ろうと決断してくれたんだ。自分の気持ちなんて二の次で。

あの時、セス様は私に裏切られてそれからレディローズにも裏切られたばかりで。なのに。


セス様は優し過ぎる。私は、この人の隣には相応しくない。

……だから覚悟を決めよう。

私、必ずセス様だけは幸せにします。どんな手段を使ってでも。自分がどんな終わり方をしたとしても。

セスにとっての聖女になります。今度こそ、本当に。


私が笑うとセス様も嬉しそうに笑った。幸せだと思えた。

やっぱり私は、さっきまで幸せではなかったらしい。間違えながらでは幸せとは思えないらしい。

間違いを正したら、今度こそ私は幸せになれる。私の結末は、誰がなんと言おうと、私にとって幸せと思えるものでありたい。

そしてそれは、セス様にとって幸せであるなら他の何もかも一切が、どうでもいいんだ。

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