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前回の社交パーティーでは散々な目にあったと見せかけて幸せいっぱいだった。

という話を前回よりは随分と小規模な社交パーティーで会ったメルヴィン君にしたら、そんな面白そうないじめイベントを逃したのかと悔しそうにされた。原因の半分はメルヴィン君と仲良いと思われたせいでもあるのにこいつ……貴様の血は何色だ。

元々作る気がなかったとはいえ、友達が作りづらくなってメルヴィン君と仲良くしているのも公認みたいになってしまったから、人前でもわりと堂々と会話してやったというのに。話し掛けるのもうやめてやろうか。


「メルヴィン君なんてこの先好きになった子に一切相手にされず振られてしまえ」

「呪うなよ」


ケラケラ笑っているメルヴィン君は気にした様子もない。はいはい、ですよね。君程イケメンで頭もいい公爵家のお坊ちゃんは恋愛に困りませんよね。

話すんじゃなかったと、少々機嫌を悪くした私は遠くで大人を相手に談笑し人脈作りを頑張っているセス様の方を見て癒された。セス様の前では私の機嫌は簡単に良くなる。我ながらなんて幸せな生き物なんだろう。

今日もセス様は大人相手に臆する事なく、相手が付き合わされているようでもなくお話しあそばれている。どれだけ学んで教養を身につけたらそうやって大人と話せるんだろう……私は前世の高校生の時も、今も、そんな事は出来ないと思う。年齢よりも覚悟と努力の差を感じる。

うーん、やっぱり私も、十歳そこらの少女達相手にさえ立ち回れずにいる場合じゃないな。

そう内心でまた決意している私に一頻り笑っていたメルヴィン君が、ふと声の調子を笑い混じりのものではなく声を掛けてきた。


「なぁリリアナ、何でお前セス様が好きなの?」


お、語っていいのか? 一時間コースぐらいでいい? と目を輝かせてメルヴィン君を見た私に、メルヴィン君は嫌そうな顔をした。なんでよ。そっちから話振ってきたのに。


「お前、好き好きうるさい割に表面的にしか好きって話しないから、セス様にだけ何でそんなに執着するのか解せないままなんだよ」


理由を説明されてちょっと納得する。そりゃ、おおっぴらには前世とかゲームとか話せないし、周囲から見たら私のこの執着的恋情はあまりに唐突だろう。

うーん、話せない話は置いておいて、私が実際に会って恋をし直した理由を話すか。


「あれだけ背負っているものが重い人もそうそういないのに、それでも人を気遣える人だから、かな」


私はたぶん、セス様の人間性に惚れている。容姿ももちろん好きだし前世も今世も一目惚れではあるけど、その根本的な考え方とか生き方とか姿勢が、どうしようもなく好きだ。

あまりピンと来ていないような顔ををしているメルヴィン君に、私は自分の言葉を補足するように話し出した。


「私とメルヴィン君が話してると年齢とか訳わかんなくなるけど、三歳で人に言われたからじゃなく自分で立派な王子になるために勉強して繋がり作る為に社交界出て一人で動き回っているのって凄くない? 私とメルヴィン君はまだ、自分の娯楽とか快楽とかの為に動いているけど、セス様は違うでしょ?」


あの人は、自分の為というより志で動いている。とんでもない事だ。

メルヴィン君はここまで言ってもきょとんとしながら首を傾げた。


「違うの?」


私はちょっと驚いて、メルヴィン君をじっと見る。

もしかして普通にセス様を見ているだけじゃ、あの人が自分の感情や目先のやりたい事の為に動いているわけじゃない事はわからないものなのか?

私は前世知識でセス様の背景とかセス様の兄のニカ様とセス様の関係とかわかっているから、もしくは単純にセス様を観察し過ぎているからわかっているだけ?

あー……でも、メルヴィン君はわからないんだ。それはちょっと、よかった。少し安心した。

一人で背負って一人で立ち過ぎているセス様はやっぱり見ていて不安だけど、そんな人だからあれだけ大人びていても納得出来るし、私は当然前世の記憶があるから大人びていて当然。

だけど、メルヴィン君はセス様や私と比べたら大人びている理由が薄いから、そこまではわからないのならよかった。さすがに自分と考えがかけ離れたタイプの人間の思考まで想像できる程、柔軟ではないんだね。

ふむ、じゃあここはメルヴィン君より大人な私がメルヴィン君の為に、わかっている限りのセス様の気持ちを代弁してあげよう。


「後継者なら天才な兄が居るのに、普通に遊んだり友達作ったり人に甘えたり、そういう子どもらしさ全部王様になるためにこの歳で捨てている人なんだよ。捨てたそういう事をやりたくないわけじゃなくて、自分の優先順位の一番が立派な王様になる事でそれ以外に脇目振れる余裕が無いから、相手が傷つかない為にそうしてるの」

「……いや、本当にそうなら凄ぇけど、気持ちわかり過ぎだろ。お前の妄想じゃねぇの?」


確かに言われてみれば、そう言いたくなるメルヴィン君の気持ちもわかる。

でも、だけど、セス様のそういう気持ちは他でもない私だからこそわかる。感じる。


「たった一つ以外他を見られない気持ちは誰よりわかるの」


私のセス様への執着については多少なり理解しているのだろうメルヴィン君が、呆れ半分にああと納得の声を上げる。


「それにセス様が私と友達になってくださったのは、セス様の邪魔にならなそうだからだと思うし」

「えー……お前はそれでいいのかよ」

「当然。承知の上で愛してる」


むしろ誇らしげに胸を張ってみせた。

私は、セス様が王様になる為のお勉強や社交の邪魔はせずに空気を読める。セス様を誰より大好きだからこそ、セス様の為に一歩下がれる。それが出来なそうな女だと判断したら、セス様はすぐに私を切り捨てるはずだ。

だから私は、セス様にとって邪魔にならずに友達とまだ呼んで構わない人間と今も思われているって事。幸せな話だ。


「でまあ、それだけ一心不乱に王様になる為に生きてるのに、助けても大きなメリットはない子爵令嬢の三歳児が転びそうになったら助けてくれたの。しかもこの前なんて、私が女の子達に囲まれていたら自分の大切な時間を割いても助けてくれたんだよ! 自分に余裕が無くても、人を助けるために手を差し出せるんだよ。それってどれだけ凄い事だかわかる? 表面上優しいだけじゃ絶対出来ない。根本的に人間が出来ている人じゃないと、不可能な事だよ」


恋というそもそも感情的な理由をこうまで言語化出来た私は、実は結構頭が良いのではないかと私はちょっと得意げになった。

まあぶっちゃけ普段からこうこうこういう理由で好きなんて考えてないし、好きと思ったから好きって思考だからもっとバカなんだけど。とはいえ今のが出まかせってわけでもなく、理由を突き詰めて言語化しようとして考えた結果だから、それもまた本心ではあるけれども。

どうだセス様は格好いいだろうと自慢するようにメルヴィン君を見て、感想を聞かせろと視線で訴える。メルヴィン君は少し面倒臭そうな顔をしたけど、ちょっと考えるように黙ってから口を開いた。


「話聞いてると、セス様のイメージ変わるな。きれいで女の子の憧れの王子様ってより、影で泥臭く努力してる部下に信頼される上司っぽい」

「あー、人に誤解されやすいところとか、確かに。いや何でそんな上司とか部下とかの感想をメルヴィン君が持てるの? おかしくない? 年齢偽ってる? 実はもう働いてる?」

「うちは家業が金融だから、家で上下関係色々見せられるし」


ああ、それに加えて人間観察が趣味なせいでメルヴィン君はそんな大人っぽくなったわけね。はいはい。


「あ、待って。女の子じゃないと思って安心して話してたけど、メルヴィン君の顔はかわいい……ちょっと、セス様に惚れないでよね」

「誰が」


本気で嫌そうに睨まれたので、私は安心してメルヴィン君の頭を撫でた。すぐに払いのけられた。


「もっと成長したらお前の手なんか俺の頭に届かなくなるからな」

「ふっ……はいはい」


メルヴィン君はたぶん、そんなに身長大きくならないよ。というゲーム知識は教えないであげた。

まあ、私という異物が居る上、セス様と将来結婚するのが私になる(予定な)以上、本当に完全にゲーム通りにこの世界が進んで行くかはわからないし、もしかしたらバタフライエフェクトみたいに私が居る事で何かがどうにか作用してメルヴィン君の背が伸びる可能性も……無いかなぁ。さすがに無いかぁ。かわいそー。

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