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セス様とご友人というもうこの時点でも夢のような関係になれた私は、翌日からさらにお勉強にのめり込んだ。

バカだったからご友人になれたとはいえ、最初の醜態が醜態だったから次に会う時には見直してもらい、尊敬出来る所もあると思われたい。それに、こう、現実でセス様とお会い出来たお陰で目標を見据えやすくなってやる気がもりもり湧き上がっているのだ。

私は、こんなにも自分の幸せの為に頑張れる、前向きな自分の事が好きだ。


「あの、もしかしてお嬢様がお勉強を頑張られているのは殿下と結婚なされるおつもりだからですか?」


社交界デビュー以降はマナーのみならず学業のお勉強も見てくれているシャーリーが、お皿に乗ったチョコレートを差し出しながら聞いて来た。

私はチョコレートを一つ口に入れ、思わず笑顔になる。頭を使うから糖分補給とか置いておいておいしいんだよね。食べ過ぎると美容には良くないけど、そもそも高級品だから多くは食べられないのでそんな心配は必要ない。


「ええ、ほら王妃となるなら完璧なぐらいの方がいいでしょう?」


ゲームで主人公かつセス様の婚約者であるレディローズは周囲から完璧令嬢と呼ばれていたし、その座を正攻法で奪い取るつもりの私もそれぐらい呼ばれるようなご令嬢にならなくては。

まあ、私はいくら頑張ったところで幼少期のうちはそこまでは行けないだろうけど、レディローズだって何歳からそう呼ばれていたかはゲーム情報無かったし、普通に考えてゲーム開始時点の十六歳が近くなってからだろうし、それまでに私もそう呼ばれるような完璧な女性になればいいだけだ。私は凡才な人間だけど、セス様の為ならいくらだって頑張れる。

それにむしろ、幼少期からあまりに頑張り過ぎて完璧になってしまうとセス様が私を避けるかもしれないし。


……私は、セス様が王座を継ぐのは当たり前だと思っているけど、皆が皆そうな訳ではない。セス様の兄のニコラスは既に王座を辞退しているとはいえあまりにも出来過ぎた天才で、現在時点でセス様の方が王に相応しいと見抜いているのは恐らく、陛下とニコラスと私ぐらいなものだろう。

そんな状況で過ごしていて、王城でセス様の居心地が良い訳がない。まだ三歳なのに、今のうちから各貴族との繋がりを作り立派な王となろうと社交パーティーに欠かさず出席するぐらいには。

まだ三歳だと油断されて、陰口を聞いてしまったり何なら直接嫌味のような事を言われた事もあるだろう。…お陰で私は嘘を吐けないバカというだけでご友人になれたんだろうけど。

そんなセス様は、ニコラスを彷彿とさせる完璧な人間なんて近くに居て欲しくないだろう。だから私は、王妃として相応しい人間にはなるつもりだけどセス様の前でまでは完璧で居なくてもいい。特に今のうちは。


「…あまり、完璧は目指さない方が……」

「え?」

「…いえ、何でもありません。それより明日は教会に行かれる日ですね」

「ええ、そうね」


セス様との幸せな出会いとご友人になれた事に、またたっぷりと神様に感謝しなければ。馬車で酔わなくなる方法も見つけた私に死角は無い。

勉強を再開しようとした私は、シャーリーが俯き黙り込んでいる事に気がついた。放っておいてもいいんだけど、シャーリーが教えてくれた方がお勉強は捗るからなぁ。

高校で習うような範囲にはまだ行っていないとはいえ、忘れている事もあるしこの世界の歴史や地理や公民なんかの社会科関連はほぼわからない。

シャーリーって義理堅そうだし、今恩を売っておけば私とセス様の恋愛の役に立つかもしれはい。


「さっきからどうしたのシャーリー? 何だか様子がおかしいわよ? 私でよかったら話してみて」


という訳で、私は打算に塗れた理由でシャーリーに笑いかけた。

とはいえ三歳児に普通悩み相談なんてしないだろうなと思っていたんだけど、シャーリーは少しの沈黙の後、意外にも話を始めた。


「…私には、双子の妹が居るのですが」


予想外の出だしに、私はきょとんとしながら前世の妹の事を思い出しかけた。すぐに振り払い、シャーリーの話に集中する。


「妹は優秀で、私よりずっとずっと優秀で、私はどうやってもあの子には敵いませんでした。人には生まれながらに才能という格差が、あります。私は……天才には、届きませんでした」


はぁ。成る程。確かにどれだけ頑張ったところで勝てない相手は居るだろうね。でも、それがトップアイドルやプロスポーツ選手ならまだ仕方ないと思えるけど、双子でしかも妹というのは中々に精神的に辛いだろうなぁ。


「お嬢様には、魅力があります。その笑顔は人を幸せにし、お祈りの時の神聖な空気は見惚れずにはいられません。ですから…完璧になんて、ならなくとも…」


完璧になんてならなくとも、とシャーリーは言ったけど、たぶんそれはシャーリーなりにオブラートに包んでくれたのであって、話からして彼女が言いたかったのは、完璧になんて"なれなくても"いいんだという無理だと決めつけた上での励ましだったんだと思う。

自分の時と照らし合わせて、私を思いやってくれたんだろうな。もしくは、過去の自分を見ているようで平然としていられなかっただけか。

まあ、私にとっては別に理由なんてどっちでもいいし、どうでもいい。


「私は頑張りたいから頑張っているの。それが楽しいから」


シャーリーの目を見ながら、私は心の底から幸せに微笑む。


「より幸せになる為に好きでやっているだけだから、ちっとも苦痛じゃないわ。私、完璧になろうとする理由に負の感情なんて一切含まれていないもの」


嫌な事っていうのは、たいていやりたくないのにやらされているって意識がある事だ。私は、社会に認められると生きやすくて幸せを掴みやすいから、お勉強はその為にすると思っている。

とはいえ、転生する前、前世の私は別にお勉強を頑張ってはいなかったんだけど。だって恋以外の全ての幸せを掴んでいたから。元々幸せだから怠慢になっていた。

今の私も所詮、わかりやすい大きな夢があるからこそ頑張れているに過ぎないと思う。結局ほとんどの人間は、曖昧な動機では全力で頑張れない。目標や餌が無いと。


完璧を目指すのは夢を叶える為のただの手段の一つだから、私はそこまでそれに拘っていない。

私が叶えたい夢は、たった一つだけ。


「だから大丈夫よ。例え完璧になれなくても大丈夫。応援してね」


それ以外の全てはどうでもいい。全部要らない。ただ、私がセス様との未来と幸せに必要だと思った事だけをしている。今も。

微笑んで促すと、シャーリーはまるで眩しいものでも見るような目で私を見た。きっと何か勘違いしているんだと思う。だけどそれでいい。


「はい。…はい」


シャーリーは深く実感するように二度返事した。


「お嬢様は私と違います。お嬢様なら、きっといつでも前向きに、そして最後には幸せになれます。私は、ずっとそんなお嬢様にお仕え出来ればと…思います」


上手く行った。

私が微笑むと、シャーリーも微笑み返した。初めて見たそれに私は少し驚く。


「なんだ、シャーリーって笑えるのね」


私の言葉に、シャーリーの方が驚いたようで自分の顔をぺたぺた触っていた。無自覚だったらしい。シャーリーは無表情でも結構美人だったけど、笑うとより美人だ

よかったね、笑えるようになって。私のお陰だよね?


「シャーリー、ずっと私を支えてね。私にとっては知らないシャーリーの妹よりもシャーリーの方が大切な素晴らしいメイドよ」


私の言葉に、シャーリーは嬉しそうに頷いた。私も嬉しい。


シャーリー、全力を尽くして私の事を幸せにしてね。もちろん私は今も幸せだけど、もっとずっと、これ以上無いってぐらい幸せにして。セス様と結婚出来たら、きっと私はそう思えるから。

この世界でセス様以外の人に優しくするのなんて、そうしてもらう為以外の理由無いんだから。

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