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生まれ変わって救済を望む  作者: 大月 爽
2.全ての始まり
7/26

7.予想に反して

久しぶりに更新です!

ノロマですみません…



 俺らが学校が危険という話をしてから何事もなく2週間が過ぎた。名古屋で起きたテロ事件以来、世界中でぱったりとリベラリズムによるテロが収まっている。俺らの間ではリベラリズムが目的を達成したか何かでテロ事件が収まったんだろうという結論に至った。

 俺の嫌な予感はどこかへ消えていた。


 「結局教室でやってても何も問題なかったですねー、部長?」

 「そうでもなかろう?その結果我々は安心して日常を謳歌できたのであるからな」

 「まぁ確かに…」


 この間俺を不安にさせてくれた仕返しに言ってみたのだが、正論で返されてしまった。確かにそのおかげで多少は安心できたのは事実だ。きっと教室で部活をしていたなら常にドキドキしていなければいけなかったことだろう。

 まぁ是非とも俺の不安を返して欲しいところだが。


 「遥先輩…?俺の足がしびれてきたっていうのは〜…」

 「耐えてくれるとありがたい」

 「ですよね〜。はぁ…」

 「ヒロトもいい加減に諦めなさいよ」


 いつも通り、ヒロトが無気力な目線を部長に向けた。部長は定位置である膝の上に居座っている。ちなみに俺は両肩に後輩2人の重さを感じているところだ。茜がそれらを見て相変わらずの苦笑いを浮かべている。 


 「そういえば彼方、やっぱり英雄軍は何か対策でも立てたのかな?」

 「いや、そんな話は聞いてないぞ。まぁ聞いてないだけだから実際は立ててるかも知れないけど。咲は何か知ってる?」

 「いいえ。咲は知らないです」

 「じゃあもうわかんないな。今度父さんが帰ってきたら聞いてみるか」


 俺もわからなくて、うちの部活で最も情報収取能力に長けている咲が知らないならきっと他は誰もわからないだろう。というか、咲の情報がいつもどこから湧いてくるのかが結構気になるところだ。時折俺でも知らないような情報を持ってくるのだから。きっとすごい情報網でも持っているのだろう。ちなみに幸の方は情報処理能力に優れている。

 

 「さて、では本日の部活動を始めようではないか」

 「やっぱり格好がつきませんねー」

 「いいのだ。では今日の部活動だが…諸君は何かやりたいものはあるか?」

 

 部長から”ない”と言えというようなオーラが放たれている。

 きっとやりたいことでもあるのだろう。部長がこうやって聞くときはいつもそうだ。前回は能力の限界をみたいとか言って俺が気絶寸前までオードを使用させられた。おかげで自分の限界が知れたし、現在のオードの量がわかったが、オードの大量使用はなかなかに辛いものがある。そのせいでその日はぐっすりと眠れたよ。

 …まぁ今回もどうせロクでもないようなことなのだろう。


 「で、部長は今日は何がしたいんですか?」

 「おや、ないのか?」

 「部長が何かやりたいことがあるんですよね。もうそれでいいですよ…」

 「おおっ!そうかそうか。では話そうではないか。この私が望むことをなっ!今日は…」


 部長がそこまで口を開いたところで俺は窓の外、遠くに浮かぶ人影を見つけた。

 その人影は真っ黒いマントのようなものを羽織り、顔には仮面舞踏会でつけるような目元のみを覆う仮面が銀色に輝いている。

 …それは”リベラリズム”の証。リベラリズムがテロや襲撃など、何かしらの事件を起こすときに絶対につけているいわば”正装”のようなもの。これによって自らたちの犯行であるということを世間に知らしめるのだ。

 それをつけた人影…つまりそれは襲撃の合図ということだ。


 盛大な爆音が鼓膜に響いた。


 「ヒロトっ!部長と茜を連れて逃げろ!俺は咲と幸を」

 「わ、わかった」


 俺らが教室から出て、廊下を走り出したところで校内放送が鳴り響く。

 『リリ、リベラリズムのテロが発生しました。すっ速やかに避難してください。くりかえします…』

 冷静に言うように心がけている震えた声が聞こえている。本当は発生場所、避難するべき場所なんかも言わないといけないのだが、それをこんな事態に逢ったことのない生徒に求めるのは酷というものだろう。

 俺は右手と左手に2人の手を握って走る。ヒロトは茜と共に部長に抱えられている。…普段見れば間違いなく噴き出すような構図だが、今はそんなことは言っていられない。階段を駆け下り、上履きのまま校庭に飛び出した。


 そこには………”地獄”が広がっていた。


 見覚えのある顔が赤い液体にまみれて転がり、見覚えのある顔が泥にまみれて転がり、見覚えのある顔が黒く焦げて転がり…ひどく臭う何か(・・)が焦げたような匂いがする。

 校庭を赤く濡れた土が覆い、人だったと思われる物が大量に転がっている。

 ひどい吐き気に襲われる。よくやるホラーゲームとは話が違う。俺は口元を押さえる。

 そして、その中心には俺よりも少し小さいくらいの背丈の少年が”リベラリズム”の証であるマントと仮面をつけて立っていた。


 「ああ…まだいたのか」


 その少年は右手を俺らの方向へ向けた。

 俺はとっさにダイヤモンドで分厚い壁を構築し、みんなに叫ぶ。


 「もどれぇえええ!」


 俺の声に冷静さを取り戻したのか、ハッと我に返って来た道を全力で走る。

 後ろで俺の作った壁が砕け散る音がする。その砕けだダイヤモンドの粒を少年に向けて弾丸がごとく飛ばす。青白い閃光が爆音と共に放たれる。

 …雷だ。


 「うぐっ…⁉︎」


 俺は足に熱を感じた。

 いや、熱ではなかった。痛みだ。俺の足を俺が放ったダイヤモンドの破片が貫いたのだ。

 俺はその場にそのままの勢いで転んだ。


 「「彼方先輩っ!」」


 俺に後輩2人が走り寄ろうとした。後ろで再び閃光が放たれる。俺のすぐ前の壁に当たって破片が飛び散る。俺の怪我をした足の上も瓦礫が落ちてくる。なんとも運が悪い。

 このままだと、後輩2人も俺と一緒に共死にだ。俺はもう走れなかった。右足に感覚がない。


 「部長っ!2人を!」

 「…わかった」


 部長は俺の考えをわかってくれたようだ。この状態の俺では部長が抱えていくのは無理だ。瓦礫を退ける時間はない。コツンコツン…という足音がすぐ後ろから先ほどの少年が近づいて来ているのを教えてくれる。

 後輩2人を抱え、そして走り出す。俺を呼ぶ声が遠のいていく。

 ああ、俺は死ぬんだ。数年前の感覚を思い出す。

 耳元で”颯太…”と昔の俺を呼ぶ寂しげな声が聞こえたような気がした。

 …まだ、死にたくはない。


 「往生際が悪いな…早く死ねば楽になれるというものを」

 「悪いな。死ぬのは1回で十分だ」


 地面に倒れる俺の目の前には先ほどの少年が立っていた。 

 その少年は俺の発言に意味がわからないとでもいうような表情を浮かべ、その後何事もなかったように俺に向けて右手を向ける。


 「では…死ぬといい」

 「お断りだっ!」


 俺は青白い閃光より先に少年の目の前に大量の水…それも純粋な水を生み出した。

 できれば”鉱物創造”と言った手前、他の物を人前では作りたくなかったが、この際は仕方がない。雷に当たった水は雷は通さなかったがその熱で蒸発し、俺の周辺を水蒸気で覆う。そこにさらに不純物も混じる水を創造し、俺と少年を水蒸気で覆った。

 この状態で雷を使えばどうなるか?答えは簡単だ。相手の少年も感電する。それがわかっているのか少年は雷を使おうとはせず、俺に向かって歩み寄ってきた。


 「重複で全く異なる物が作れるのか。これは…珍しいな」


 近くまで来たところで少年の顔がかなり無機質な表情であることが伺えた。いったいどんな人生を送ればそんな表情になるんだろうか。その表情に強い恐怖を感じる。

 生を放棄したくなるような寒気が俺を襲う。


 「手駒にするのも…悪くないだろう」

 「くっ…来るなぁあ!」


 少年が俺に向けて手を伸ばした。

 ”怖い”、俺の脳内をその一言が占領した。

 俺は必死で周辺に何かを生み出しては少年に向けて打ち出す。それは1つ1つが砲丸のような大きさで、俺の近くの壁も天井も何もかもが壊れて俺は生き埋めになっていく。オードがどんどん減っていく。

 「チッ…」と小さく舌打ちをした少年が俺から遠ざかっていくのを最後に俺の意識は途絶えた…



 * * *



 『…なた!彼方!』

 「ぅ…うぅ…あ゛がっ⁉︎」


 誰かに呼ばれる声に目が覚めた。体を動かそうとしてそこらじゅうに鋭い痛みが走る。

 俺の視界はすごく狭かった。何かの間から光が漏れているのを感じる。

 …そうだった。俺は生き埋めになっていたのだった。

 体の感覚を確かめる。指は動いている気がする。足は両方とも感覚がない。首はギリギリで動かせる。両目とも見えている。腹の辺りにひどい重みを感じるが、痛みはそこまで強くない。口の中では鉄っぽい味がする。


 「ひどい…状態だな、これは」


 掠れた声が出た。まるで病院にいたときみたいだ。それだけで自分がいかにひどい状態なのかが理解できる。

 相変わらず俺を呼ぶ声が聞こえている。きっと俺を探して捜索しているのだろう。何か合図でも出せればいいのだが、あいにく声は出ないし、動かせるのは指のみ。しかもその指でさえ動かすのがやっとの状態だ。残念ながら俺からの合図は…いや、能力がある。そうだ、何かを作ってみればいい。

 俺は気づかないうちに大量に消費していたオードの残りを振り絞ってエネラルドでできた1匹のカラスを作った。それはほんの数cmしかない小さなもので、残りのオードの量の少なさを実感させられた。それを瓦礫の隙間をぬって飛ばす。誰かが気がついてくれることを祈って。


 『…っ!どこ!どこにいるのよ、彼方!』


 茜の声だ。どうやら俺のカラスを見つけてくれたらしい。俺の頭上の方から声が響いてくる。それに混じって部長たちの声、それと英雄軍と思われる救助隊の声も。

 ガラガラと瓦礫が退けられていく。光が増えていく。ちょっと、眩しいな。


 「「彼方先輩っ!」」


 俺の視界に真っ先に入ってきたのは2人の後輩。悪いことをしてしまったな。目の前で俺を見捨てさせるようなことをさせてしまった。

 瓦礫に半ば埋もれている俺の痛み続ける体に2人がしがみつく。


 「あっがっ⁉︎」

 「「すっすみません」」

 「…いいよ。気に、しないで」

 「どきなさい2人とも。まずは部長にこの瓦礫をどかしてもわらないといけないでしょ」


 後輩2人を押しのけて茜が俺の目の前に現れる。少しずつ体の上の重みが減っていく。きっと部長と英雄軍の人がやってくれているのだろう。

 完全に俺の上から瓦礫が消えた頃には、すっかり泣きはらした目をした後輩2人と目元を赤く染めている茜と心の底から安心している顔をした部長とヒロトが見えた。

 俺の体にそっと手を当てて茜が”再生付与”を施してくれた。ゆっくりと俺の体の傷が癒えていく。


 「みんな、ごめん」

 「はぁ?なんで彼方が謝るのよ!私たちが彼方を放って逃げたから…こうなっちゃって…」

 「部長、さっきはあんな判断させちゃって済みません」

 「それは…この私の力不足が」

 「咲、幸、あんな思いをさせちゃってごめん」

 「「いい…です」」

 「ヒロト、ありがとう。みんなを守ってくれて」

 「俺は別に…」


 みんなの顔を見て思ったのだ。

 俺は弱い。敵を前にして俺は何もできていない。能力発現時の暴走と何も変わらない。

 何が戦闘や金儲けに特化した能力だ。傲慢にもほどがある。全然みんなを守れなかったじゃないか。今回は俺だけで済んだ。それも運よく。

 けど次は?あの少年は俺を手駒にするのも悪くないとか言っていた。もしかしたら俺が生きていると知ったらまた来る可能性がないわけじゃない。それにあの少年は日本人だった。つまりこの国にいる可能性が高い。

 また来ないという確証はどこにある?襲われることがないという確証はどこにある?みんなを守れるという確証がどこにある?

 そんなもの………どこにだってない。


 「次は…みんな守るから。ごめん、ごめん…」


 俺がもっと冷静だったら、他の手もあったかもしれない。逃げようと言い出したのだって俺だ。校庭でダイヤモンドの壁を作ったのも俺で、そのせいで怪我をしてみんなに迷惑をかけたのも俺だ。

 …もっと、強くならなくちゃいけない。能力に頼り切るだけじゃダメだ。もっと強く、みんなを誰一人傷つけさせないために。


 「彼方…あんたが悪いんじゃないのに…なんで、なんで謝るのよぉ!」

 「「彼方先輩っ!」」


 しばらく経ったおかげでほとんど傷の癒えた俺に3人が抱きついた。

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