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生まれ変わって救済を望む  作者: 大月 爽
2.全ての始まり
6/26

6.危険地帯だった

すみません。学校という名の監獄にとらわれてました…




 俺が能力を発現させて早くも4ヶ月が経った。

 最近茜も能力を手にし、俺らは全員能力を手に入れた。


 「なぁヒロトー」

 「なにさ彼方?」

 「暇だ」

 「あんなに能力能力騒いでた奴がなにを言ってんのさ」

 

 能力を手に入れてからしばらくが経った。俺は完全に自由自在に能力が使えるし、ヒロトも茜もそうだ。それに俺は無駄に鍛えまくってたオードのせいで能力を一日中使うことだってできてしまうほどだ。

 だがしかーし。使い道がないのだ。茜の能力”再生付与”…怪我を治したり壊れたものを修復するような日頃から使えるような能力はいい。俺らのそれはイマイチ使い道がないのだ。完全に戦闘とか金儲けに特化した能力。ああ、最近銀行の口座の預かり金額が約6億になった。宝くじも涙目だ。


 「だってやることないだろ?」

 「まぁそうだけどさ」

 「だろ?」

 

 俺は部室という名の3-2組の教室の机の1つに突っ伏してヒロトに同意を求める。

 やることがない。これが俺らの最近の悩みだ。いたずらとかしょうもないことはすでにやりきった。そして結構な割合で怒られた。精神年齢だけならすでに28歳の俺だが、精神年齢っていうのは経験によって増えるものだと思っているので中身も外見も14歳だと言っておく。


 「諸君、集まりが悪いようだねっ」

 「あ、部長ー」


 ヒロトの表情が引きつったかと思うと俺の後ろから飄々とした雰囲気を醸し出す声が教室に響いた。ちなみにそれは身長150cm後半の綺麗というより可愛いというべき少女の口から発せられたものだ。

 自他共に認める変人、話さなければ才色兼備。我らが部長だ。本来3年生は受験勉強に勤しむべきなのだが、部長はすでに私立の確約をもらっており、勉強する必要はないと言って引退したはずの部活に未だに来ている。ちなみに今の部長は俺。

 そして部長がそれが当たり前であるかのようにヒロトの膝の上に座った。


 「久しく来てみたというのに、参加人数がたった2人であるとは思いもしなかったぞ」

 「茜は委員会の仕事で遅れ、後輩2人はさっき及川先生に連れて行かれましたー」

 「なるほど。つまり集まってはいたと言い訳をするのだね?」

 「そうですねー」


 すぐに帰ってくるとは思うけど。委員会の仕事もちょっとした校内の見回りだとか言ってたし、後輩2人はプリント運びを手伝わされていただけだからな。


 「で、部長はどうしたんです?」

 「ふむ。この私が来ると悪いことでも?」

 「あ、はい。ないです」

 「宜しい」


 この部で部長に逆らうのは死に等しい。部長の能力は”身体強化”。俺は毎回”身体狂化”に変えるべきだと思っている。その能力の内容といえば、名前の通り馬鹿力とかを出せるようになる能力。神経伝達速度、筋力、動体視力、思考速度…体を何から何まで強化する能力。本当にタチが悪い。能力を使用した模擬戦と称して部長と戦わされて何度死にかけたことか。おかげで体術が上達してしまった。受身だけなら完璧に取れる自信がある。それにちょっと剣術も。

 あと、ついでに言っておくとヒロトは部長にこの上なく愛されている。部長から一方的な訳ではなくヒロトもそんなに悪くないと思っているようだが、TPOを全くわきまえることなく過剰とも言えるスキンシップをとる部長にヒロトの表情が引きつるのは仕方がないとも思う。まぁきっとそのうち慣れるさ。

 

 「えと…大瀬(おおせ)先輩?」

 「ヒロトよ。(はるか)と呼んでくれといつも言ってるではないか」

 「は遥先輩?」

 「呼び捨てで構わんともな」


 俺の目の前で部長はヒロトに粘着しだした。くっ付き出したのではない。粘着だ。一度くっついたら離れない。ヒロトもそこまで嫌そうな顔をしているわけではないが、困り顔なのは事実だ。まぁ年頃の男子が女の子にくっつかれたら普通そうなると思うがな。

 俺が助け舟を出す気もなくヒロトの方をニヤニヤしてみていると、教室にさらに人が増える。後輩2人だ。後輩2人は双子だ。今は見分けがつくが、こんなそっくりな双子っているんだなぁ、と初めて見たときから未だに思い続けている。

 

 「ちょっと、箕浦(みのうら)たち、俺を助けてくれないかな?」

 「「イヤです、ヒロト先輩。せいぜい部長に抱き潰されるといいです」」

 「なんで俺に対して毒吐くのさ…」


 見事にハモってヒロトに毒を吐く後輩2人。箕浦(みのうら)(さち)(さき)。そしてその2人は俺の両腕にしがみつく。


 「彼方先輩を取る」

 「ダメです」

 「俺いつの間に所有権を奪われた…?」

 

 こっちは俺にビッタリ。別に好意を抱かれているわけではない。俺を兄として慕っているのだ。…まぁちょっと行き過ぎている感はあるが。理由なんか単純にたまたま外で会ったときに絡まれているのを助けただけ。

それからなぜかこうなった。もしかしたらそれからよく世話を焼いてやるようになったからかもしれない。


 「彼方〜、ヘルプ」

 「無理、こっちも捕まってるから」

 「なぜ助けを求めるのだ?この私が…嫌い、なのか?」

 「い〜えいえいえいえ。まったくそんなことはございませんっ」

 「ならばよかろうに」


 ヒロトは部長の上目遣いにやられてノックダウンした。部長にされるがまま。部長がヒロトの膝の上で抱きつき、ヒロトは諦めた表情でそれを見つめている。内容さえ知らなければそこそこ絵になる映像だ。映画のワンシーンに出来そうなくらいに。

 俺はそっと捕まっていた腕を抜き、後輩2人を近くの椅子に座らせた。後輩2人は椅子に座るとズズッと椅子を俺の真横まで移動させ、俺の肩にもたれかかってくる。


 「まぁいいか…」

 「何がです?」

 「どうしたのです?」

 「いや、なんでもない」


 この空間もなかなかに異質なものだ。女の子4人、男子2人の部活。そのうち1人の女の子は男子1人にベットリ。そのうち2人の女の子は男子1人にベットリ。そのうち1人の女の子は幼馴染。どこの恋愛ゲームなのだろうか?

 ほら、噂をすればなんとやらだ。うちの茜が帰ってきた。


 「おお、茜!遅かったではないか」

 「ええと…ただいまって言えばいいのかしら?」

 「それでいいんじゃないかな?」

 「またこうなってるのね。別に私が寂しいわけじゃないけど」


 茜が俺らの状況を見て顔を背ける。こうやってやる時は構って欲しい時だ。


 「ほら、ヒロトの横が空いてるぞ」

 「ひ、ヒロトはやらぬからな!」

 「俺もいつの間にか部長のものになってたみたいかな…」


 ヒロトがそう言って遠い目をし始めた。

 まぁいつものことだ。さぁ、全員が集まったところで今日の部活動を始めるとしよう。そう思って俺が口を開く前に部長にセリフを持って行かれる。


 「では本日の部活動を始めようではないかっ!」

 「ヒロトの膝の上だと格好がつきませんねー…」

 「それはいいのだ。本日の部活動は諸君らは疲れているようであるし、会話を楽しむとしよう」

 「で、話題はなんです?」

 「英雄軍だ」


 前に説明したと思うがこの世界には能力者の犯罪のための軍がある。それがこの英雄軍と呼ばれる組織だ。能力を持った人間しか入ることはできない世界最高規模の組織。なぜ世界最高規模まで成長しているのかというと、世界規模のテロ組織がいるから。

 リベラリズム(liberalism)…自由主義を意味する名を冠するテロ組織。俺が初めてこの世界で見た氷の柱の映像はこの組織によるものだった。このテロ組織は自分勝手に能力が使いたい、力を振りかざしたいがために、この世界で起きた第三次世界大戦後に出来た国際政府という国際機関に反発する組織だ。俺の父さんはこれと戦って世界中を行ったり来たりしている。まぁ、この世界には空間転移(テレポーテーション)の能力者もいるから日帰りで世界中に行けるが。


 「英雄軍、ね…私は最近ちょっと警戒心が足りないと思うわ」

 「ふむ。それは何故に?」

 「だってそうでしょう?リベラリズムのテロをこの1ヶ月だけで3回も受けてるわ。しかもこの国だけで」

 「まぁ、実際けっこう大変らしいけどなー。最近になって構成員が増えたかなんかでテロを起こす周期が縮んだらしいぞ」

 「へぇ…彼方が言うんだからきっとそうなんだろうね。ところで遥先輩降りる気ありません?ちょっと足がしびれてきたんですけど…」

 「男らしく耐えてくれると嬉しいぞ?」

 「ハイ…」


 にっこりと笑う部長の笑顔にヒロトは逆らえなかったようだ。

 だが、事実ここ最近のテロの回数は増えている。しかも規模も大きい。一番最近の事件は1週間前に名古屋市の住宅地一帯が竜巻に襲われたこと、さらにその1週間前は山口でゲームセンターが水没した、その2日前には熊本で岩の柱が公民館を襲った。他の国でも起きているが、他の国も規模が大きくなったせいで対応が追いついていないらしい。その結果、世界中で派遣できる能力者の数が減って被害が増えるという悪循環を及ぼしている。まぁきっと近いうちに対応策が出されて改善されるだろう。


 「まぁ、そんなわけだから近いうちに対策が立てられるんじゃないか?」

 「そうだろうね。きっと英雄軍がどうにかしてくれるさ」

 「諸君、随分と楽観的ではないか?ここ最近でのリベラリズムの攻撃を考えてみよ」

 「かなり大きい被害が出てるとは思いますけど、それがどうかしたんですか?」

 「そう。大きい被害が出ているのだよ。その場所はどうであろう?」

 「…子供が多い?でしょうか」

 

 茜が言ったことを聞き、つい最近俺が父さんと交わした会話を思い出した。山口では”空間転移”を発現したばかりの能力者の行方が分からなくなっており、熊本では”溶岩創造””溶岩操作”を発現したばかりの能力者が殺されたそうだ。名古屋ではわからないが、もしかしたら強い能力を持つ人。それもまだ能力が発症して間もないうちにリベラリズムの手によって誘拐、または殺されているのではないだろうか?


 「俺がちょっと父さんに聞いた話なんですけど、その被害者には強い能力を持つ子供がいたそうです。山口では”空間転移”の能力者が行方不明、熊本では”溶岩創造・操作”の能力者が死亡したらしいです」

 「ほう。それはテロ事件がリベラリズムの人員確保、または将来的に強敵となりうる者の芽を摘むのための隠れ蓑、とでも言うのか?」

 「少なくとも英雄軍はそう考えてるみたいですよ、聞いた話によればですけど」

 「…ねぇ、彼方。あなた、能力は?」

 「”鉱物想創造・操作”だけど?」

 「それ…一般的に強い能力に入ると思わないかしら?」

 「い、いやいや…まさか。第一俺はすでに能力を発現してすぐじゃないだろ」


 すごく…嫌な予感がした。


 「彼方先輩、将来有望ですもんね」

 「その上、被害が北上してきているのは事実ではあるぞ」

 「ぶ、部長まで。やめてくださいよー。みんなして俺を不安にさせるようなこと言うの。今までもなかったんですし、今日突然そうなるわけないじゃないですか」

 「まぁ、それもそうかもしれん。では話を戻すとしよう。諸君は少しばかり楽観的過ぎはせぬか?」

 「だからそれ被害にあった場所に子供が多いってことですよね?」

 「咲よ。この学校、現在の時間の生徒はどの程度いるか知っているか?」

 「確か…部活動約20個が現在活動中です。それらは咲たちを除けばすべて最低20人ほどの部員がいるのです」

 

 つまり最低でも400人ほどが今この学校内にいる。さらに言えばうちの学校はここ周辺の地域でも有数のマンモス校。

 …って、つまり格好の的って言いたいのか部長は⁉︎


 「今、この学校は多くの将来有望となる可能性を秘めた生徒を有する場所なのだよ。それを狙わない話はないとこの私は思うのだが、どうであろうか?」

 「…それってもしかして」

 「幸たちの学校は危険地帯ってことです?」

 「そう言えなくもないよなぁー」

 「今日の部活動はここまでにして帰らぬか?正直なところ、あまりここに居たくないのだよ。酔い亀にでも移動せぬか?」

 「私は賛成するわ」

 「右に同じかな」

 「「幸と咲もです」」

 「じゃあ移動しようぜ?」


 俺らはさっさと教室から引き上げ、亀さんの店にお邪魔することにした。


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