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生まれ変わって救済を望む  作者: 大月 爽
2.全ての始まり
4/26

4.宝石屋になれそうだ



 結局俺の生み出しつづけたエメラルドは施設を埋め尽くす程度で済んだ。途中やっと能力の主導権を奪い返したのだ?…この場合は奪い返したなのだろうか?まぁいい。で、創造系能力は作り出すだけだが、俺には操作系能力もあるので生み出された大量のエメラルドをただの原子に戻して空中に霧散させてことなきを得た。

 結局施設に来て数時間と経たないどころか20分で能力を発現し、その暴走で1時間施設をエメラルド漬けにした。金になると思って持って行ってた人ごめん。全部消すわ。


 『あーあー。聞こえてる?』 

 「あ、はい」

 『どうやら無事…っていうか能力を掌握できたみたいだね』

 「みたいです」

 『珍しくこっちが驚かされたよ。あんな体験は二度とできない…っていうかしたくないところだね』

 「あんな豪華な部屋は二度と体験できないと思いますよ?よかったじゃないですか」

 『ははっ…ぜひとも遠慮するよ』


 俺がさっきのお返しに皮肉で返すと苦笑いが返ってきた。

 さて、これからどうすればいいんだ?オードの使いすぎで結構体がだるかったりするんだが。能力を掌握するまでに俺のオードの2/3近くを消費する羽目になったし。


 『さて、自己申告をしてもらうけど翠玉創造と操作であってる?』

 「いえ、げ」


 俺は原子創造と操作と言い直そうとしたが、相当やばい能力だということに気がついた。原子…それはすべての物質の最小単位。つまり今の俺は存在するすべての物質を生み出し操ることができるということだ。やばくない?国に厳重管理されそうじゃない?そんなのはお断りだ。

 能力の偽装は一応犯罪じゃないし、国がちょっと困るだけだし、許してくれるだろう。父さんが前「あの施設は実は国が使えそうな能力者を見つけるための施設なんだぜ?」とか言ってたし。


 『げ?』

 「げ…じゃないです。鉱物想像と操作です」

 『鉱物か〜。じゃあ、金とかも作れちゃう?』

 「あげませんよ?」

 『ちぇっ。じゃあお疲れ様〜。今ドアを開けるよ』


 こんな人がこんな場所で働けていることに疑問を感じるわ。

 俺はベッドに放り投げただけだったカバンを背負い直して部屋を出て、ロッカーから貴重品を取り出してくる。ロッカーから部屋の前を通って戻ろうとすると真っ白い汚れひとつない白衣を着た男が立っていた。見るからに気だるそうな表情を浮かべている。


 「やぁ、彼方くん」

 「ああ、未鏡さんですか」


 死にそうな表情でニヤッと笑い、俺に手を振りながら言ったその声はさっきまで聞いていたあの声だった。


 「お疲れ様」

 「そんなこと言っても金は出しませんよ?」

 「いや、そうじゃないんだ。さっきから君に会わせろってうるさい人がいてその対応に追われているだけでね」

 「は、はぁ…?」

 「単刀直入に言うけど、会ってくれない?」

 「一応能力についてはむやみやたらに言いふらさないってことになってたと思うんですけど…」

 「あれを見えなようにするなら”幻影創造”とかの能力者を連れてこないと」

 「ですよねー」


 さすがにわかってしまいはするだろうよ。

 だが、未鏡さんが言いさえしなければ問題はない。


 「でも未鏡さんが言いさえしなければ問題ないですよね?」

 「正直なところ言っても言わなくても近いうちにバレるよ?」

 「え?なんでです?」

 「財閥の人だから。宝石店の」

 「あー…」


 なるほど。それは確かに俺に会いたがるわな。


 「たまたま近くを通りかかって見ちゃったみたいだね」

 「なるほど…じゃあ、せめて今日はやめてくれません?俺疲れてますから」

 「お?それは会ってくれるってことで構わないんだよね?」

 「まぁ…はい」


 面倒くさい状況に追い込まれてから会うのとこっちから条件を出して会うの。絶対後者の方が利口だ。


 「一応部活は5日間休みを取ってますから俺の家まで尋ねさせてください」

 「わかったよ。じゃあそう伝えておくよ」

 「お願いします」


 俺を雇いたいとかであることを祈る。その場合はいい条件で雇ってもらうとしよう。

 

 「じゃあ気をつけて」


 俺は軽く頭を下げ、手を振る未鏡さんと別れて施設を出た。

 施設から家…というかマンションに帰るまでの距離はそこそこあるので車を呼びたいところだが、母さんは夕方まで帰ってこないし、父さんは週に数回しか帰ってこないから無理だ。というわけで車で15分かかった道のりを歩いて帰る。今は夏であるためにかなり暑く、肌がジリジリと焦げるような感じがする。


 「さて、早いところ能力の確認をしておくかな」


 俺は歩きながら右手を顔の前まで上げる。そしてさっきと同じように原子の組み合わせを想像すると、手の上にエメラルドが生み出された。

 同じような要領で石英(SiO2)やダイヤモンド(C)を手のひらの上に想像する。闘病?あんまり戦った覚えはないけど、病院に入院している間に色々と覚えててよかった。俺が好きな宝石は大抵構成まで覚えている。他にも金(Au)やオパール(SiO2・nH2O)など、適当にいろんなものを生み出していく。

 やばい、俺これだけで一生生きていけるわ。絶対金になんか困らないし、その気になれば武器にだってできる。例えば一酸化炭素(CO)を生み出せば相手を一酸化中毒で倒せるし、王水(HNO3+3 HCl)を生み出せば相手を溶かすことだってできる。俺には操作能力もあるからもはや最強だ。

 そんなことを思いながら手のひらの上で生み出したものたちをカラスの形に変えて空に飛び立たせた。


 「一応どの辺にあるかだけは分かるみたいだな…」


 生み出したものは自分の体の一部のような感覚だ。別に五感が繋がっているというわけではないが、大体の位置と周辺の状況は見なくても理解ができた。なんとも不思議な感覚だ。コウモリの超音波のような感覚が一番近いと思う。結構自由自在に動かせるし、見えているわけじゃないけど周囲も分かるから偵察とかに使えるだろう。誘拐犯とかの捕獲とかに役立ちそう。これで作った身代金で受け渡しをすれば確実に犯人を捕まえられる。

 俺、一人で正義の味方が目指せそう。…まぁ、なるつもりはないけど。でも少なくとも仲の良い友達は守りたい。


 そんなことを考えながら手のひらでいろんなものを作っているうちに家に着いた。当面の目標は多くのものを一度に操作できるようになることだろうといったところで落ち着く。カラスを20匹作ったところで俺の思考能力に限界が訪れたのだ。これからはできるだけ多くのものを一度に動かせるようになろう。

 

 「ただいまー…って誰もいないか」


 俺は誰もいないマンションの一室に入った。俺の住む場所は新宿区にある結構高級なマンションだ。3LDKのそこそこなやつ。まぁ両親が有名人っていうかそんな感じなので、かなりの金を持っている。おかげでなに不自由なく生活ができてしまう。

 靴を脱いでリビングに行き、俺はソファーに寝転がる。


 「あー…飯食ってくればよかったな」


 今は13時。ちょっと小腹がすいてきた。別に料理ができないわけではないのだが、するのが面倒。というか、何より冷蔵庫に食材があるかどうかがわからない。

 俺の家族はちょっと変わっている。両親共々かなり高い地位なので、家にいることがかなり少ない。母さんは一応毎日帰ってくるようにはしているらしいが大抵夜遅くに帰ってくるし、父さんに至っては週に3回帰って来られればいいほうだ。おかげで俺は家に一人ぼっちな時が多かった。寂しくなかったと言えば嘘になる。だが、そのおかげで色々と自由にできたので許している。


 「…出かけるか」


 俺は着替えとかを入れていたカバンをそのままソファーに置き去りにし、財布とスマホのみを手に家をでる。幸い、両親がいない間の食事代という名目でお小遣は大量に有り余っている。大体2万ちょっとぐらい。昼飯を食べたらゲーセンにでも寄って行こう。

 俺は近場の居酒屋に向かう。そこは酒飲みなうちの父さんがよく行く場所で、俺も時々帰ってくる父さんと一緒に行っていた。おかげで店主とは仲良くなってるし、こうやってまだ空いていないうちから行っても昼食ぐらいはご馳走してくれる。父さんの腐れ縁がやっている店だそうだ。

 俺は『営業時間PM5:00〜』と書かれた板の付いている扉をガラガラと開けた。中はカウンター席と座敷がある和風な内装。カウンターの向こうにちょっとだけ見えている階段から男がおりてくるのが見えた。男はちょっと癖っ毛の入ったロン毛をオールバックにしていて、身長も173cmとそこそこ。毎回思うがこの人が40歳だなんて信じられない。せいぜい30代前半がいいところだと思う。


 「亀さん、おはよー」

 「おお!彼方じゃねえか。まぁ座れ座れ。昼飯はまだか?」

 「うん。まだ」

 「よっし。ちょっと待ってろ!すぐなんか作ってやっから」


 その男は深緑色の亀の柄の書かれた和風なエプロンをつけ、俺の目の前に座る。たった今「作ってやる」と言ったのに俺の目の前に座るのは不自然み見えるだろうが、この男も能力者だ。能力は”念動力”。座ったところで後ろでフライパンや包丁が勝手に動き出す。初めて見た時は俺もずいぶん驚いた。


 「で、今日は発現日って聞いてたんだが、ここにいるってことは…」

 「うん。能力を手に入れた」

 「おおっ。で、どうだったんだ?」

 「重複の”鉱物”だった」


 俺は翡翠(NaAlSi2O6)を使って亀の置物を生み出した。ちょっと不恰好だが、そこは許してほしい。

 ちなみに翡翠には『あらゆる成功と繁栄』と言う石言葉がある。


 「おお〜。すげえじゃんか」

 「だろだろ?これあげるよ」

 「おっ。いいのか?」

 「うん。亀さん、亀好きでしょ?」

 「まぁな〜」


 ニッコニッコとしながらその亀の置物を手に取る様は実に嬉しそうだ。

 この男は老月(おいづき)良平(りょうへい)。ここ”酔い亀”の店主。俺の父さんの小学校からの付き合いで、俺もよくしてもらっている。そして生粋の亀好き。亀と名のつくものはなんでも大好きな残念イケメンだ。なのであだ名は亀さん。命名は母さんらしい。ちなみにイケメンなのに亀が好きすぎて結婚はしていない。


 「亀さんの時って暴走どうだった?」

 「ん?俺ん時はだな…裸になったな。着てるものが全部持ってかれたわ。わっはっは」


 思い出して豪快に笑う亀さん。そんなんだから余計に結婚ができなくなるんだと思うわ。


 「結構ひどい目にあったんだな…」

 「まぁな〜。で、彼方はどうだったんだ?どんな目にあったんだ?」

 「え、ええと…施設がエメラルド漬けになった」


 目をそらして俺がそう言うと。一瞬驚いた表情をした後、亀さんがさっきよりもずっと豪快に笑った。


 「わっはっはっは!…なんだそれ!さっきのあれはお前かっ!わっはっはっはは!」

 「そ、そんなに笑うことなくない?」

 「いやぁ、あれは見物のだったと思うぜ?何しろあんなことは今までになかったからな。それにな…」


 未だにちょっと腹を抱えて笑う亀さんはそう言った。まぁ、あんなことがしょっちゅうあったら笑い話じゃ済まなくなるだろうよ。


 「それに?」

 「あんなもん見たら利用したい連中が黙ってないだろうよ。わっはっはっはっは!」

 「いや、それはもっと笑い事じゃないから。つーか、すでに財閥に目をつけられてるし」

 「おお〜。まじでか?どこのだ、それ?」

 「宝石店って聞いたけど」

 「じゃあ白樺家だな。よかったんじゃねえの?あそこの連中はいい奴多いぜ?」

 

 なるほど。亀さんがそう言うなら大丈夫なんだろう。


 「って、なんでまたそんなこと知ってんだよ⁉︎」

 「ここの常連だ」

 「まじか…」


 サムズアップしながら亀さんがにこやかに答えてくれた。ほんと何なんだろう、この店…前は父さんの同僚がいっぱい来たって言ってたし、本当はすごいところなんじゃないんだろうかと最近ずっと思う。


 「さ、できたぞ」

 「じゃあいただきます」


 そう言った亀さんの後ろから3枚の皿とお茶碗が1つ飛んできた。それらには出し巻き卵と枝豆と焼き鳥と炊き込みご飯がよそられている。見ないでもできる亀さんって相当器用だと思う。

 俺は出された飯を食べ始める。やっぱりうまい。亀さんはきっといい主夫を目指せると俺は思っている。


 「じゃあ…俺は…その…財閥…と…」

 「食べるのか話すのかどっちか選ばないか?」

 「…………」

 「食べるのかよっ!まぁ、大丈夫だと思うぜ?彼方1人で宝石店が開けそうだし、むしろ優遇されると思うぞ?」

 「それなら…よかった」


 俺は亀さんの言葉を信じ、ちょっと安心してから昼飯を楽しむことにした。


次は土曜日くらいにあげたい…!

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