3.やっちまった
俺が転生してから11年。つまり、ついにその日がやってきたのだ!
実に長かった。ひじょーに長かった。だがついにその日を迎えたのだ。明後日は俺の誕生日。能力の発現は誕生した瞬間から48時間前後だといわれている。
「彼方、準備はいい?」
「うん。大丈夫だよ母さん」
「じゃあいってらっしゃい」
俺は今とある建物にいる。ここは能力が発現する時期になると入ることが義務付けられている施設だ。その理由については後々説明しよう。何より今の俺は気持ちが高まりすぎててやばい。早く発現しろ俺の能力!
内心ものすごくワクワクしながら、俺は母さんと別れて受付の場所に向かう。きっとこのあとは母さんはそのまま仕事に行くのだろう。
「ようこそ、能力発現補助施設へ。ご予約はされていますか?」
「はい。えーっと…これで、いいんですよね?」
俺はICカードを受付の人に手渡す。
「銅彼方さんで間違いありませんね?」
「はい」
「では、こちらへどうぞ」
自分の名前に間違いがないことを確認すると、受付の人が受付の横から出てきて俺を案内してくれる。ちなみに俺のこの体の名前は銅彼方だ。”銅”って書いて”あかがね”らしい。珍しい苗字だ。
無駄に広い真っ白な廊下を進み、1つの部屋に案内される。そこは20m四方の真っ白い壁で覆われた直方体の部屋で、その上部には換気用の空調設備。内部を見るためのかなり分厚いガラスが壁にはめ込まれている。壁の一部には能力発現時の自己申告により、その能力に対応したものと食べ物などを運び入れるための穴がある。その穴は全て機械によって制御され、人がもいなくても勝手に動かす事が可能…らしい。これらはこの施設に来る前に自分でパソコンで調べた情報だ。
この施設は能力が発現した時の危険を防ぐための施設。
「貴重品は自分で管理をお願いします。能力の発現時の被害を心配されるのであればロッカーに預ける事をお勧めします」
「じゃあ、お願いします」
俺はスマートホンを除いた電子機器と財布をロッカーに預ける。手元に残ったのは今着ている服と着替えるためのものとタオルやシャンプーなんかを入れたカバン。
能力。それは14歳になる48時間前後に発現する人知を超えた力。発現時には能力者の意思に関わらず暴走し、場合によっては周辺地域にただならぬ被害を及ぼす事となる。
「では施設の説明をいたしますね。この場所は空調設備と出入り用の扉、搬送用の穴を除き外部とは完全に断絶した空間となっています。内部の声は搬送用の穴の内部に設置されているマイクから届くようになっており、外部からの声も搬送用の穴の内部に設置されたスピーカーから届くようになっています。室内に設置されているのはベットとこちら側からは見えないようになっていますがトイレと浴室、さらにテーブルと椅子となっています」
「テレビとかって置いてないの?」
「はい。大変申し訳御座いませんが設置されておりません。以前に”電力干渉”を発現した方がおりまして、危険と判断されたため撤去されています。そのため生活に最低限度のものしか用意されておりません」
「ふーん」
確かに水を操るとかならそこまでじゃないかもしれないけど、電気とかは感電死するし、火とかもやけどを負う可能性があるし、一応そういった事にも気をつけているらしい。俺は「他に質問はございますでしょうか?」と尋ねる受付の人に何もない事を告げ、部屋に入った。
「結構広いんだな…」
俺がちょっとつぶやいただけの声が部屋中に反響する。下手な事は言えないななどと思いつつ、俺は持っている荷物を部屋の片隅に設置されているベットに放り投げた。ポフッ…とベッドに荷物が沈み込む。設置されているものは少ないが、置いてあるものは結構いいもののようだ。俺もベッドにダイブした。
「おー。フカフカだ」
想像以上に気持ちがいい。普段敷布団で寝ている俺からすれば初めての感じだ。
そんなことを思いつつも能力を発現が楽しみ過ぎて気が気でない。無能力者である可能性もなくもないが、今はそんなことはできるだけ考えない。例え無能力者が世界で1/3くらいいるとは言ってもだ。
この10年。俺はほっとんど能力のことばっかり考えて生活した…わけではないのだが、かなり多くの時間を能力について考えて生活した。おかげで一般人よりも相当詳しい。
能力って言っても実は色々な部類がある。
・”駄能力”と呼ばれる無駄な能力。制限か多すぎて使い物にならない能力がここに分類される。例えば本のページのみに使える念動力とかな。
・”通常能力”と呼ばれる一般的な能力。物質への操作や干渉、付与、それから強化なんかができる能力がここに分類される。これらは基本的に能力の対象物がすでに存在していなくては使えない。氷操作などのすでに存在する物質をオードを消費して自由に操作したり、溶解付与などの触れたものにその現象を植え付ける能力などだ。
・”神級能力”と呼ばれる最上級として扱われる能力。これは無から有を生み出す能力。実は発火能力なんかはこっちの部類。何もないところから火や水や土や雷や鉄を生み出す能力。それと時空間へ干渉する能力だ。テレポーテーションやライトノベルによくある異空間倉庫、未来視みたいな能力がここに含まれる。全体的に言うと神様みたいなことができる能力だ。
で、能力を複数持つ人もいる。これは重複能力者って呼ばれていて、駄能力の場合もあるけどほとんどの場合が操作と創造の両方になる場合だ。うちの父さんと母さんはこれに当たる。炎の創造と炎の操作能力を持つのが父さんで、氷の創造と氷の操作能力を持つのが母さんだ。
…能力が遺伝しないのが非常に残念だと俺は思う。
『あーあー。聞こえているかな?』
「あ、はい。えっと…」
ベッドに横たわってそんなことを考えていたら突然スピーカーから声が聞こえた。
『初めまして、今回君を担当することとなっているチームのリーダーの未鏡だ。どうぞよろしく』
「あー、はい。宜しくお願いします」
『じゃあ、何かあったら声をかけてくれ。暇ならおしゃべりにも付き合うから』
「わかりました」
ザッ…とスピーカーと向こうのマイクの接続が切れた音がした。
で、なんだったかな?ああ、そうそう。で、能力についてなんだが、発現するまで全くなんの能力なのかはわからないらしい。が、発現した時に自分では完全にどんな能力なのかがわかるらしい。はっきりとそう言えないのは俺が体験していないからだ。ただ、能力がわかるというのはそのままで突然頭の中に能力の使い方と能力の詳細が浮かび上がってくるような感じだという。
ここはその時に強制的に発生してしまう暴走を外に出さないための施設らしい。
さて、一通り言ったところで何もすることがなくなった。暇だから話しかけてみようか?
ポーン…と俺のスマホから着信音がする。スマホの電源を入れて画面を見れば”チャッター”という黄色のポップな文字が書かれたアプリの通知が出ていた。これは無料アプリでネットの掲示板のように複数人との会話をすることができるアプリだ。もちろん同じアプリを持っている人同士でしか話せないし、そのチャット内にいる人には会話内容がだだ漏れだ。まぁ、そのチャットの使用できる人を設定できるから全く問題ないけど。
俺は”幼馴染ーズ”と書かれたチャットを開く。これはヒロトと茜っていう俺の幼馴染のみで構成されたものだ。こいつらは幼稚園からの友人だ。ちなみにヒロトはあのヒロトであっているぞ。画面に”ヒロト”という投稿名が「どんな感じ〜?」と書かれたメッセージが出ていた。俺はそれに「寂しい、ちょー暇」と書いて送り返した。というか、今9時くらいだから多分部活中だと思うんだが部長に怒られないのだろうか…
ヒロトはすでに能力を発現している。俺の誕生日が8月7日で、ヒロトは6月19日、茜が11月23日。俺は幼馴染の中では2番目だ。ヒロトの能力は”切断付与”触った対象物を切断することができるようにできる能力らしい。こないだ授業で竹刀に付与していじめっ子を成敗していた。いじめっ子は無能力者をバカにしていたので、返り討ちにあってざまぁみろだった。
案の定部活中だったのか、返信が来ないので俺は未鏡さんに話しかけてみる。
「暇でーす」
『そうだろうね。僕も暇だよ』
「なんですかそれ…」
『君をただ見ているだけの仕事なんだ。何かが起こらないとそれは暇だろう?』
「まぁ確かに…」
言い分は間違っていない。だけど、仕事なんだからさ?
「そう言えば能力の暴走ってどんな感じなんですか?」
『そうだね…結構面白いよ。僕はそれが見たくてこの仕事をやっていると言っても過言じゃないね』
「なんですかそれ…一体何が起きるんですか?」
『例えば”念動力”…正確には”力操作”。これは暴走時は近くにある物を全てがホルダーガウスト状態になったね。女の子が必死で下着を隠そうとする姿はなかなか面白かった』
「外道ですかっ⁉︎」
いや、確かに面白そうではあるけど。
『例えば”透明化”。来ていた服が透けちゃって体を必死に隠す女の子はなかなか面白かった』
「変態ですかっ⁉︎」
『例えば”静電気操作”。髪の毛がしっかりセットしてた青年がボサボサになる様はなかなかに面白かった』
「やっぱり外道なんですね…」
『まぁね。君にも期待してるよ。なにせ炎王と氷女王の子供だからね。きっと大量のオードがあるはず。オードが多ければ多いほど暴走時は見ものだからね』
「…え?まじっすか?」
『うん。まじだね』
ええええええええええ!ちょっと嘘だろ⁉︎
俺の努力がぁぁぁぁ…幼稚園での時にオードを見つけられなければよかったよ。頑張って放出して増やしちまったじゃねーか。オードの量は筋肉と同じように使えば使うほどに増える。俺はオードを見つけたその日からできる限り使用して増やしてきた。つまり、今日の俺は相当見ものになる状況なわけだ。
…あかん。やっちまった。
「と、ところで能力の発現っていつ頃が多いんですか?」
『う〜ん…なんとも言えないね。来てすぐの子もいれば最後の最後まで発現しない子もいるし、むしろない子までいるくらいだからね〜…』
「うぅっ…それは」
『まぁきっと大丈夫だよ。2/3は能力者になるんだ。きっと大丈夫』
「は、はい」
そっちじゃねー!俺の心配は能力発現時の暴走のほうだよ!
間違いなくシャレにならんことになる…
そんなことを思ってベッドに潜っているとその瞬間が来てしまった。いや、今までならやっときたと言えたんだが、それを聞いた後だと恐怖のほうが強い。もし父さんのように発炎能力だったら俺は焼け死ぬし、母さんのような氷結能力だったら俺は冷凍保存されないといけない。駄能力ではないことは祈るが、せめて安全な能力であってほしい。
俺の思考に割り込むように情報が流れ込んでくる。以前に一度体験した感覚に似ている。この世界に転生してすぐの子供の頃の記憶が入ってきた時だ。
(能力…原子操作 原子創造)
原子…?それって化学のアレのことか?
俺は脳内に浮かび上がってきた使い方に従って…というか半強制的にパッと思いつく原子の組み合わせを想像した。
それはエメラルド。またの名を翠玉、緑玉という。幸運、幸福、希望、安定の石言葉を持つ宝石。なんでそれを思ったのかはたまたまだ。本当に。強いて言うなら幸運とかから連想してしまっただけだ。
『げっ…これもしかしたら僕らにも被害が…』
俺の視界を美しく光り輝く緑色の結晶が覆い尽くしていく。自分で生み出しているものだ。どの辺にあるかだけは感じることができた。通気口を通り、施設の中を占拠していく。廊下がエメラルドで埋め尽くされているのがわかる。そして出来上がったそばから形を変えていく。おそらく原子操作の方の能力だろう。エメラルドが形を変え、カラスになって部屋中施設中を飛び回る。こっちは単純に思いつく生物が俺のあだ名からだ。
きっといい迷惑だろうな。そんなことを考えつつ、俺はエメラルドの中に埋もれて動けないままオードを使い切るのを待った。ちなみに言い訳をするが頑張って操作しようとしてみるが全く無理なので暴走を止めるのはとうの昔に諦めている。
次は土日か来週です。