23.安全な現実
時間が空いちゃってすみません。夏休みに入ったので、ちょっと頑張って書くので次は早く…なるといいなぁ
学校帰り、俺は忍と酔い亀に向かっていた。
「か、彼方くん?」
「これ、見えないように読んでおいてくれ」
「え?あ、あぁ、うん。わかった…へ?」
俺は紙に俺らが監視されるということとこれからの動きについての注意点を書き記した紙を忍に渡した。さすがに視力聴力が強化される能力者はいても、見えないように渡した紙の内容まで全て見ることのできる者はいないだろうと思ってのことだ。もし透視能力を持つ人がいたとしてもここは道路の脇道。反対側の道からあからさまにこちらを見ている者がいれば俺が気がつくし、そうでなくとも上空で待機しているカラスが俺に見つけさせてくれるから問題はないだろう。
…それでも見つかってしまったらその時はその時だ。たまたま聞いてしまったことにしよう。
「だから、しばらくは静かにしようと思う。怒られるのも嫌だしな」
「そ、そうだね。で、でも…これからはどうするの?」
「見過ごすのはあまりしたくない。それについては今から少し話そうと思ってる」
見過ごすというのも一つの手だが、できればそれは最後の手段としてとっておきたいと思う。
あらかじめみんなをその場所に近づけさえしなければ問題はないとも思ったのだが、それによって出る被害で何かしらの影響を受ける可能性がないとも言い切れない。例えば、学校での事件で知人が被害を受けて部長が悲しんだように、誰かが悲しむかもしれない。
…すでにゲームセンター内の人を見捨てた俺には何も言えないことだが、それでも被害を最低限度に抑えたいと思っているのは事実だ。
「…今のところ見えてないよな?」
「うん。大丈夫。明後日にコンビニ強盗があるのくらい…だから」
テロじゃなければみんなが被害を受ける可能性は高くない。だから、俺が動く必要性はあまり高そうではないが、もし誰かの家の近くだったなら巻き込まれてしまう可能性がある。
「一応聞いとくけど、どこのだ?」
「ええと…近くに立駐が見えるよ。このあいだのショッピングモールのそば、かな?」
「今は英雄軍が多いっていうのにアホか?」
「ふふふっ。そうだね」
英雄軍の一部がこの間のテロの対処で控えてるのに、その近くを狙うというのはずいぶんと頭の悪いことだと2人して笑う。
だが、その距離だったら普通に野次馬として向えば偶然遭遇できそうだ。
「とりあえず、この間のショッピングモールがどうなったのか見に行かないか?」
「え?…あ!そうだね」
忍は俺の言葉の裏に気がつき、その誘いに乗った。
誰が聞いているかはわからない。だから、できる限りは偶然を装う。
「いつがいい?」
「ええと…明後日の夕方はどう、かな?僕たち、その日は学校が早く終わるんだったよね?」
「あぁ、そうだったな」
未だに傷跡の言えない学校生活は重く痛ましい。クラスメイトの表情に浮いたものはなく、混乱と困惑、それから鬱にも近い重々しい空気が漂うのみ。
…昔の病室を彷彿とさせる空気に、こちらまで気分が重たくなってくる。それでも少しでも前へ進もうと努力し、皆を元気つけようとおどけてみせる奴もいるのだからさすがは若者だとも思った。まぁ、俺もその若者なんだけどな。
「じゃあ、明後日行ってみるか。あの後のことは結局レイヴィスから聞けてないし」
「そ、そうなんだ?」
そんな状態の学校がなぜ早く終わるのかと言えば、近いうちにこの学校自体が消えるからだ。
長い冬休みの間にかろうじて能力者の手により修復はされたものの、トラウマを抱える者は多くこの学校に現在通えている人は少ない。多くは部長のように部屋に引きこもってしまったりしている状態だ。
だから、この学校は一時閉鎖されることとなった。現在通っている生徒は別の学校へ転校することとなり、こうして皆で集まれるのが本当に最後になってしまうことになった。
まぁ、俺らはみんな家がそれほど離れていないから同じ学校になりそうだけどな。
「それとなく理由をつけて聞かないとだな…ま、普通にあの後どうなったのか気になるとか言えばいいか」
「そう、だね?」
忍はいまいちパッとしていない表情を浮かべている。おそらく、レイヴィスという何ピンとこなくて話を飲み込めないのだろう。
…?いや、忍はレイヴィスにあったことがあるはずだ。この間の俺が事情聴取に行ったとき、忍も後ろから急いで片付けて出てきていた。
「そう言えば忍はレイヴィスに会ったことがあるな」
「え…?えっと、そうなの?」
「俺が事情聴取に行った時にいた外人がいただろ?あれがレイヴィスだ。そして、今一番気をつけておくべきなのもレイヴィスだ」
「そ、そうなんだ。なんで、レイヴィスって人に気をつけるの?」
「さっき渡したやつあっただろ?それの主な人がレイヴィスだからな。なんだかんだであいつは頭がいいし、勘もいい。ふとしたことで気がつかれるかもしれない」
「ぼ、僕会っちゃったらどうしよう…?」
忍があからさまに困った顔をした。
確かに、忍は人を騙すことにはあまり向いてない性格だと思う。この2人でやってる行動も俺が強引に巻き込んだようなもので、忍だけでは絶対にやらなかっただろう。
「そもそも俺らがなんでバレるとまずいかってのはわかってるか?」
「え、えっと、何の権限もなく人を、その…」
「そうだ。だけど、それは俺だけだ。忍は俺にどこに行ったら危ないのかを教えてるだけだ。なんの関係もない。だから、どうしてもばれそうになったらこう言え。”友達がこの前の事件みたいなことがあったら嫌だからここには行かないように忠告をしただけだ”って」
「…?それじゃあ、彼方くんは?そんなことを言ったら」
「だから最悪の場合だって。そうじゃなかったら適当に誤魔化せるだろ?たまたまそこに行ったらって」
「う、うん…そう、だね。頑張るよ」
忍は弱々しくそう答えた。忍はきっと強いやつだと、俺はこのあいだの事件を通して思った。だから、こうやって弱々しげに答えていても、いざという時はきっとやってくれると思う。
忍には勇気がある。俺が見なくってもいいと言ったのに、責任だと言って自分で見ることを選んだ。忍は強いやつだ。
「あと、忍の腕輪にこれつけておいてくれないか?」
「…これは?」
「ちょっとしたおまじないみたいなもんだと思ってくれればいい」
「えっと、ありがとう?」
「おう…?」
渡したのはミサンガだ。
俺が創った金糸と普通の糸で編まれたミサンガ。これで、普段から忍の様子がわかる。いざという時は遠隔操作して身を守ることもできる。
…まぁ、そんなことは本来の操作系能力にはできないらしいから、あってほしくはないけどな。
操作系能力はオードを流し込んだものを操作できるものだ。一度自分の操作の手から離れたものを操作はできない。創造系能力はそもそも生み出した後のものを操作できない。
ここにきて俺の能力の異様さに再び気がつく結果になったが、気にしないでおきたい。
「あ、彼方くんにもあるね」
「みんなに配ったんだ。ヒロトと茜と部長と咲と幸と…色違いにしてな」
「そうなんだ…!」
忍が嬉しそうに笑っている。
本来の目的は身を守ることだが、みんな喜んでくれたからちょっと申し訳ない。普通に贈り物じゃなくて、こうやって裏のあるものだから…
「あ…えっと、あはは」
「なんだよ?」
「ちょっと、年甲斐もなくはしゃいじゃったから…」
「まぁ、喜んでもらえたならいいよ。作り甲斐があった」
「…え?これ、彼方くんが作ったの⁉︎ぼ、僕、こうやって人から何か作ってもらうのなんて初めてだよ…!」
忍のその嬉しそうな表情に”いざという時に守れるように”という目的が本来で、贈り物とかお揃いにすることが目的じゃないとは言いづらい。
…まぁ、それが目的じゃなかったのかといえば完全には否定しないが。
「ミサンガなんて簡単に作れるからな」
だから少し目をそらしてしまう。
気恥ずかしいような、申し訳ないような気がして顔を向けられない。
「あれ?彼方と忍だ。どうかしたの?こんなとこで」
そうやって顔をそらしたところで、後ろの方からヒロトの声がした。
「忍、ヒロトにはバレないようにな」
「え?あ、うん。わかった」
小声でそう言ってから、俺は振り返る。
「これから酔い亀で飯食べようと思ってたところだ」
「えっと、僕の両親、今日いないから…」
「へぇ〜…俺も混じってもいいかな?」
話をしたかったが、仕方ない。
あとでもう一度話すことにしよう。ヒロトに聞かれたくはない。
「いいんだが…夕飯いいのか?」
「遅れるとだけ言っておくよ」
「そうか。じゃあ一緒に行くか」
「なんか彼方とご飯食べるのって久しぶりな感じがするね〜」
「この間の風呂で一緒だっただろ」
「あれはもう結構前でしょ?」
「そうか…?」
そう言われて、思い出すが。確かにそれなりに前な気がしてきた。
そう。あの時はヒロトの身体中のあざとすり傷を見て、俺だけじゃないんだと思ったんだ。ヒロトもあんなことは二度と嫌なんだろうと思ったんだ。
だから、俺はもっと頑張らなくちゃならない。冠にはいろいろなことを教わったが、冠の前で見せた俺の能力は全部じゃない。他の能力ももっと上手く使えるようにならなきゃいけないし、もっと早く行動できるようにならなきゃいけない。
「彼方?」
「…そうだな。結構前だな」
「そうでしょ?」
俺たちが笑いあっていると、忍が横で少し寂しげに笑う。
「…ヒロトくんと彼方くんは仲がいいんだね…僕には、そうやって一緒にいる人、今までいなかったから」
「今は俺たちと一緒にいるだろ?」
「そうだね。俺は忍のこと友達だと思ってるよ〜」
「そ、そっか…ありがとう」
嬉しそうな表情で俯いた忍にヒロトと顔を見合わせる。
それから笑いがこみ上げてきて2人して笑った。
「え?え…?」
「いや、なんかちょっと…くくっ」
「かっ、彼方がわるいんだからねっ…」
「なんで俺なんだよっ」
え?え?とあたふたする忍をよそに、しばらく2人で笑った。
そうしたら少し気が楽になったような気がする。レイヴィスに監視されることになったことが思ったよりストレスになってたのかもしれない。
「まぁ、忍もこんな風に気軽でいいと思うよ?俺らって昔からこうだからさ」
「そうだな。俺もヒロトも…ていうか、ヒロトが俺にずっとくっついてた形だけど」
「それは彼方が友達作らないからじゃないのさ」
「それもそうか」
俺が苦笑いを浮かべると、今度は2人に笑われた。
こうやって笑っていられる時間がずっと続けばいい。楽しくみんなが過ごせるのがこれからも続いていけばいい。
…なんか、フラグみたいだな。
「というかさっきまでなんの話ししてたのさ?なんか神妙な顔して」
「え?あ、ああ。前に行ったショッピングモール、あの後どうなったんだろうなって。な?」
「あ、う、うん。そうなんだ」
「へぇ〜…彼方は聞いてないんだね?この間連れて行かれた時に聞いたのかと思ってたのにさ」
「この間の時は緊張してて忘れてたんだよ。しょうがないだろ」
色々と考えてそれどころじゃなかったっていうのもあるのだから聞けなくてもしょうがないと思う。
うまく嘘をつかないで話すというのは想像以上に難しく、今でも思い出すだけで心拍数が上がりそうだ。あの人の目つきに、思ってることを見透かされてるような気がするほど身の毛がよだつ思いをしたのはいい経験だったと思う。
「彼方は昔からそういうことは得意だったと思うんだけどなぁ〜…?」
「うるせい。ヒロトもあの人の前で事情聴取されてみるといい。あれはまじでやばかった」
「ふ〜ん…なんて人?」
「進藤さんって人だよ。有名だろ?俺も帰ってきてから知ったんだけど…というか知ってたらもっとやばかったよ」
知らなくてよかったと思ってるくらいだ。
あんな人だと知ってたらもっと警戒してうまく喋れなくなってそうだから。むしろ知らなくてよかったと思ってる。
「…お疲れ様」
「やめろい」
肩にポンと手を置かれてそれを振り払い、みんなして笑った。
「まぁ、二度としたくないな」
「そうだろうね〜」
そうこう話すうちに酔い亀に着く。
俺たちはまだ開店前の扉を開けて中へと入った。




