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生まれ変わって救済を望む  作者: 大月 爽
3.執行の始まり
25/26

閑話:根拠と検証

またちょっと時間が空いちゃいました。更新です!



 

 いつも訓練に使わせてもらっていた真っ白い部屋。

 俺はそこにいた。


 今まで気がつかなかったのは、多分俺が転生者だったから。

 ”そういうものだ”と思い込んでいたから。


 「オードの使用以前の問題…ね」


 俺はオードの使用され方について聞き込みをした。

 その結果は想像を遥かに超えるものであったということは言うまでもあるまい。


 「なんでそこまで至らなかったんだろうな」


 まさか、オードの使用のされ方以前に能力の行使方法まで違うとは思いもよらなかった。

 能力は”オードを使用すれば行使できるもの”…そう思っていたが、それ自体が誤りだったらしい。一般的には知識や技術、経験や勘の必要なものだったのだから。


 「…というか、ここまでいろいろ調べて、そのことだって知ってはいたはずなのに」


 インターネットには実際、”能力の向上には能力について知ることが第一である”とどこでも言っている。そんなものは当然だと鼻で笑っていたが、あちらこちらに聞きに回った結果、自分の間違いに気がつく結果となった。

 能力とは、”行使する内容を正確に理解し、その工程をオードを用いて再現することによって行使される”というものだったのだから。

 今になって気がつくとは思いもよらなかった。いや、正確には気がついていた面もある…だが、あまり気に留めていなかったがために忘れ去っていた。その事実を記憶の片隅に押しやっていたのだ。

 

 そして今、その事実を再び見つめ直している。

 俺の能力は随分とおかしい。特筆すべき点は2つ。


 「やっぱり、おかしいよな…?」


 聞こえていないのに聞こえている音に耳を澄ます。

 まず、おかしい点その1…操作系能力に聴覚や視覚のような機能は一切存在しない。なのにもかかわらず、俺のこれにはソナーのように周囲の情報を知ることが可能であり、音を聞くことも可能。


 「…う、まじか。レイヴィスに気をつけるべきっていうのは、嫌だな」


 細工したグラスから俺の出て行った後の部屋の声が聞こえてきた。

 どうやら俺は監視されるらしい。しばらく能力やヒーローも控えなくちゃならないだろう。


 そして、おかしい点その2…曖昧な理解によって発動すること。

 俺の能力、”原子創造””原子操作”…これは原子を生み出し操る能力。だが、俺の知識はどんな物質からできているのかということのみで細かな構造も知らなければ、物質になる工程も知らない。

 例えば銅。


 「よっ…」


 銅は”Cu”という元素記号で表され、その原子が集まることで俺が今手に持っている塊になる。

 だが、俺はその集まる工程も集まるために必要な力もそもそもどんな形で集まっているのかも理解していない。原子という玉が集まっている…ただそれだけの知識でこの銅は創造されたのだ。


 ありえない。

 

 きっとこの事実を知った能力を研究するものは、間違いなくそう言うだろう。

 これはそれほどのことなのだ。他の能力者の能力の発動方法なんて一度も考えたことがなかったからわからなかった。調べたことはあったが、せいぜい”自分の能力を知ることによってよりその能力の運用がうまくいく”という程度の助言だとばかり思っていた。

 だが、現実はどうだ?

 俺が異世界だからという理由で鵜呑みにしてきた事実は、一般的ではなく異様だ。異質だ。


 …だが、そんなことはどうでもいい。


 「寧ろ良いこと、か」


 これは俺にとってのアドバンテージになる。

 他者よりも能力の運用がしやすいという事実には違いないのだから。

 そして何より、俺の想像通りなら…これは俺の奥の手ともなり得るのだ。


 「エメラルド…」


 手の上に作り出されたエメラルド。

 エメラルドはベリリウム(Be)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、酸素(O)から構成されている。

 その原子はそれぞれどのような割合でどのような結合の仕方てどのようにエメラルドを構成しているのかということを俺は知らない。

 …つまり、俺の能力は知らないことでも、それがどんな”原子”から出来ているかを知ってさえいれば生み出せるのではないだろうか?さらに、知識を得れば、原子によるものであれば発生できるのではないだろうか?


 「火…熱…振動…原子の運動量…」


 熱とは原子が振動することで発生するというのを高校の始めの頃の化学の教科書で見た覚えがある。例では水分子だった。

 水の分子が活発に動くことにより温度が上昇する。

 …俺もまだ中学生ということもありあまり詳しくない。だが――


 「あっつッ⁉︎」


 創造した水は確かに熱を帯びていた。

 いつもよりも多くのオードを消費したような気がするが、それでも変化を起こせるという事実に確証を得られた。

 他に知っているものもいくつか試してみよう。

 原子…気圧は確か原子がぶつかる速度?量?回数?なんかそういう奴だったはずだ。でも、おそらくこんな曖昧な知識でもそれを再現することは――


 「可能、っていうのか?」


 意識的に周囲にある空気に含まれた原子を俺にぶつける。

 試したのは右手だけだったが、段々と圧迫されているというのがわかるようになっていくのだ。これが気圧だというのかはわからない。だが、それに近い現象は起こせた…いや、そもそも気圧については一定区間内の空気の密度を上げれば元から再現できたな。まぁ、現象を突き詰めるっていう意味では成功だけど。


 「あと他に、何か…もしかして、理想気体とかを再現することもできる?」


 気体というのは圧力が上がれば液体へと変化するし、気温が下がっても液体や固体へと変化する。

 理想気体というのは化学を机上の計算を行うときにその変化をないものとして考えるというものだ。例を挙げるのであれば液体窒素なんていうのがわかりやすいのではないだろうか。

 窒素は絶対零度…-196℃まで下げると液体になる。だけど、理想気体という考えの中ではその温度になっても窒素は気体のままなのだ。

 俺が物体を創造するとき、無意識的にか通常の温度で存在する形に作り出している。だが、それを意識的に液体にしようとすれば…


 「成功、か…?」

  

 試しに液体窒素を冷たくないままに創造してみる。

 結論から言うと一応成功はした。ただし、創造した瞬間に気体へと変わったし、操作能力でその状態を保っても解除するとともに気体へと変化してその状態を保ち続けることはなかった。

 おそらく、創造した瞬間は俺の思った通りのものを生み出せる。さらに操作能力の影響下にある状態ではその自然ではあり得ない状態も可能にする。だが、俺の手を離れて完全に自然のものとなった瞬間、世界の法則に従う。

 多分そういうことだと思う。


 「銅…鉄…酸素…アルミ…金…リン…水素…銀…二酸化炭素…」


 金属を液体で創造すればその金属は操作から離れた瞬間に固体へと変化し、液体で気体を創造すればすぐに気体へと変化していく。二酸化炭素はドライアイスのように固体が存在するため残ったが、そういうものがなければすぐに自然法則に従って通常のあるべき形へと戻っていった。

 …というか、液体の水素なんてものは存在したんだな。帰ったら調べてみよう。


 「創造した瞬間から戻っていく…創造した瞬間までは自然のものじゃないみたいってか」


 色々と試して俺の理論の正当性を確かめる。

 本当に細かく調べるのであればそれこそ研究者に任せるより他ないが、少なくともこれを誰かに話すつもりは今の所はない。こんなわけのわからないものを話せばどうなるかは創造がつく。

 だから今はこれで満足する。

 簡単に纏めるのであれば”創造能力は世界の法則に従わずに創造できる””操作能力は操作によって世界の法則から外れさせることができる”ということ。付け加えるのなら、”俺の能力はある程度の知識さえあれば創造通りにものを作れる”ということぐらいだろう。


 「…じゃあ、剣先だけ原子を振動させればバイブレーションソードみたいなのも再現できるのか?」


 色々と思考を巡らせる。

 おそらく、実現は可能であるはずだ。どのような結果を生み出すにせよ、ゲームのような武器を創造することも可能だろう。例えば炎の剣みたいなものとかを剣の原子の振動数を上げれば熱を生み出せるはずだから作ることが可能かもしれない。

 まだ、検証すべきことがいっぱいだ。

 …だが、これを家の近くで調べるのは少しばかりどころか大変無理がある。


 「今のうちに…」


 申請したところ、今日はこの部屋が使えた。

 またいつ来れるかはわからない。だから今試せるだけ試しておく。

 核爆弾は原子の融合…原子核融合という現象らしいことは知っている。だから、それを試そうというのは住宅街や近場では無理だ。そういう危険そうなものをレイヴィスに帰れと言われるまで優先的に試していこうと思う。

 

 「…こんなことならもっと色々と見てから来るべきだったな」

 

 多分、俺の能力は知識があればあるほど強くなる。

 能力があるということ自体非現実的だし、半端な知識で発動するのも非現実的だが、それの知識がないと発動ができないというところだけは現実的だ。

 ここでは外部への連絡はできないし、ネットも使えない。


 もったいないことをした。

 そう思いながらも、俺は次々に知っている限りの実験をこなしていくのであった。


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