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生まれ変わって救済を望む  作者: 大月 爽
1.事の始まり
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2.そんな馬鹿な



 転生?憑依?…よし、転生ってことにしておこう。俺が転生してから早くも1年と少し。最近の俺は保育園というものに通いだした。ちなみに場所は都心…つまり東京。この世界の地名は変わっていなかった。ただし、地形が俺のいた世界とは全く異なり、行った事のある場所もまったく違ってて驚いた。


 「彼方くん、お母さんにいってらっしゃいしようね〜」

 「いってらっしゃーい!」

 「うふふ。行ってきます」


 この上なく無駄な俺の威勢の良い声に母さんが微笑んで手を振り、車の止めてある駐車場へと向かった。最近知ったことなのだが、この世界は俺のもともといた世界の平行世界(パラレルワールド)のようなもののようだ。今は2094年。俺がいた世界での最後の記憶は2014年。つまり結構未来なのだ。だがしかし、この世界の技術はかなり進んでいない。というか、俺の元いた世界とあまり変わりがない。せいぜい超能力の有無だけだ。最近になって初めてスマートホンが開発され、俺のこの体が生まれる10年前くらいに初めて人間が月に行った。それも超能力の発生による弊害らしい。…というのをテレビの歴史に関する番組で見た。今の俺には情報収集能力はないのだからしょうがない。きっと歴史の授業とかで習うはずだ。それまではテレビやこっそり親のいない間に使っているパソコンで我慢しよう。


 「じゃあ彼方くん、お部屋に行こっか?」 

 「うんっ!」


 俺はできるだけ子供っぽさを演出しながらその保育士の手をつないでいつも俺が入っている同年代の子どものいる部屋に行く。ここのところ子供っぽくするのに慣れてきたせいか、それとも精神が体に引っ張られるというべきか俺自身の行動が結構子どものそれになっている。おかげで全く変に思われることはない。

 部屋に入ると今日も俺は一番最初でも最後でもなくほどほどの子どもが部屋で自由に遊んでいる。この保育園はそこまでいいところではない。子どもを預かったあとは部屋に放し飼いがごとく自由にさせているだけだ。一応保育士も求められれば一緒に遊ぶし、悪いことをすれば叱るし、何かしらの企画もしてくれる。だがそれだけなのだ。俺の両親は結構な有名人_というのも最近父さんがテレビに出ているのを見て固まったのだ_らしく、行かせようと思えばもっといいところにいくらでも行かせられたのだが、俺が拒否した。ちゃんとしたところに行けば”母の日”で絵を書かされたり、”お遊戯会”なるものをやらされかねないからだ。

 …流石の俺もそこまでやるのは辛い。子供っぽく遊んでいるのは許容できる。だが、子供っぽく絵を描いたり、子供っぽくお遊戯をするのはちょっと辛い。俺が許容できない。絵を描くぐらいならギリギリ許せなくもないが、お遊戯は絶対に無理。恥ずかしすぎる。


 「りょーこ先生バイバーイ」

 「うん。みんなと遊んでおいで〜」


 俺は部屋に入ると保育士に手を振って子どもの中に紛れる。そして、本棚にあった絵本を適当に1冊取り出して近くの子どもと一緒に楽しげに見えるように読み始める。

 俺の最近の習慣だ。本当は伝記とか歴史の本が欲しかったりするが、今のうちは仕方がない。こうすることで本を読んで楽しく過ごしているように見えるのだから実に都合のいい遊びだ。今やっているのは本当は別のことだ。頑張って体の中のエネルギーを探している。超能力を使うためにはエネルギーが必要らしい。それを探しているのだ。

 超能力があると知って…つまりこの体になってすぐに母さんに「能力僕も使いたーい」と可愛らしく尋ねたのだが、残念ながら使えないということが発覚した。能力は14歳になった時に初めて発現するもので、例外はないらしい。しかも、俺もきっと両親の能力を受け継ぎすごい能力が手に入るのだろうと思っていたが、インターネットによってその可能性も潰された。『能力は遺伝するものではなく、ほとんど完全なランダムである』だそうだ。しかも、この世界には無能力者。つまり能力を持たない人もいるらしい。


 そんな馬鹿なぁ!もしかしたら俺も能力がないかもしれないってことじゃんか!


 まぁ、その能力を使うためには体にあるエネルギーが必要らしく、そのエネルギーは結構遺伝するらしいので俺の両親のエネルギーは遺伝するのはわかった。それと俺の両親はかなりの有名人だった。

 最近、テレビで父さんを見たと言ったであろう?あれはかなりすごいやつだったのだよ。実はこの世界でも最高位に入るぐらいの優秀な能力者だった。この世界の能力はいくつかに分類されている。まだ全部をよく理解したわけではないが、少なくともわかっていることが1つある。能力は0〜2個しか持てない。俺の父さんは2つの能力を持っている。俺の母さんは2つの能力を持っている。


 ちょっと⁉︎すごくねこれ?まじでやばくないか?


 さらに、この世界には能力者の犯罪のための軍みたいなものがあるらしい。うちの父さん、そこを会社に例えるなら副社長。うちの母さん、部長。


 どうよこれ?本当にやばくないか?俺の両親の七光りだけで俺生活できそうな感じだよ、もう。


 で、言いたいことは、つまりかなりのエネルギーを持っているのは間違いないということだ。それならば俺もかなりのエネルギーを持てているはずだ。読んだライトノベルに転生してすぐの頃から魔力を鍛えてチートになるとかいう部類のやつがあった。俺もそれ目指せるんじゃね?ということで今エネルギーを探しているのだ。

 まぁ結果がよろしくないのは見逃して欲しいところだ。エネルギーっていうのは体を循環する血のように一箇所に溜まっているわけではなく体全体に行き渡っているものらしい。ようは血液に混じる酸素を感じろと言っているようなものなのだ。


 「かなたくん、おにごっこしない?」

 「ん?あ、うんっ!やるー」


 本を読み終わっていたらしく、俺は保育園の庭に連れ出された。みんなが外に出ているのに俺だけ中に入っているのはちょっと不自然だし、エネルギーを探すのに場所は特に関係ない。なぜなら2つぐらいのことんら同時にできるからだ。というか、探し始めてすでに半年近くが経過しており、最近はちょっと投げやりになっているのが事実だったりする。

 俺はじゃんけんで勝って鬼になるのを回避し、鬼になった男の子から逃げる。子どもなだけあり、走るのも遅いので逃げるのも楽だ。まぁ俺も遅いけどな。だが速く走る方法を知っているのだからその分の優位がある。おかげで今の所1回たりとも捕まったことがない。ちょっとした自慢だったりするが今は置いておこう。

 走りながら体にあるはずのエネルギーを頑張って探す。能力を発現すると、一度エネルギーを使って能力を発動するためにエネルギーを感じることができるようになるらしい。つまり一度感じられればこっちのもののはず。


 「うおぉぉおおおおお!まぁてぇぇえええ!」

 「誰が待つかー!」


 俺の後ろを大声で叫びながら男の子が追いかけてくる。

 だが、その間はどんどんと広がっていき、男の子が俺に追いつくことはない。男の子はヘトヘトになって別の子どもを追いかけ始める。俺もヘトヘトになってこっそりと移動して木の陰に隠れる。


 「はぁ…疲れた。くっそー、元の体だったら全然疲れないはずなのになぁ」


 バドミントンっていうのは実は相当疲れるスポーツなのだ。サッカーとどっちが疲れるかって聞かれたら迷わず俺はバドミントンって答えるね。だって、バドミントンは常に動き続けないといけないスポーツなのだ。楽そうな部活を選んだはずなのに、期待を裏切られて俺と晶は相当後悔したよ。まぁ、俺も晶もそこそこに運動神経は良かったし、うちの学校の運動部で唯一朝練がない運動部だったからやめることもなかったけど。


 「…ん?」


 ヘトヘトになった体の中に…というか体全体に今までの体に感じなかったものを感じるような気がした。俺は頑張ってその今感じた感覚の源を探す。感じたのは体の中に水が入っているような感覚だ。点滴をされていたときの感じに近かった。

 そう思って点滴をされているような感覚を探ろうとしたところでザッザッザと足音が聞こえたので木の陰から出て走り出す。後ろを向くとさっきの男の子がまだ諦めずに俺を追いかけようとしているのが見えた。


 「あ〜!にげないでよ〜!」

 「やーだよっ!」


 俺は全力で逃げ出す。近くにいた鬼ごっこに参加している別の子どもにその男の子をなすりつけて逃げる。

走り回ってちょっと疲れたところで窓を開けている保育士が見えた。


 「みんな〜、お昼ご飯の時間ですよ〜」


 保育士は大きな声でそう言った。

 鬼ごっこをしていた俺らも止まって、鬼ごっこを終わりにして部屋に走っていく。水道で手を洗い、弁当を自分たちの鞄からもっていく。そして席に着き、保育士が”お弁当の歌”とやらを歌い出す。俺はそれを気にせずさっきの感じを探す。


 …なんでもたーべまーしょ、よくかんでー。みーんなそろーってごあいさつー…


 結構耳に残る”お弁当の歌”がうるさい。少しして「いただきまーす」と保育士が言った後に子どもたちも同じように「いただきまーす」と言って弁当のふたを開けて食べ始める。

 俺はさっきの感覚がずっと気になりつつ、弁当をふたを開ける。今日のメニューは海苔の巻かれた小さいおにぎり2つ、ウィンナーと卵焼き、それとイチゴだ。俺は結構イチゴが好きだ。ちなみに嫌いなものは梅干しだけ。どうしてもあれだけは受け入れられん。晶がよく好んで梅干しのおにぎりを買っていたが、理解に苦しむ。

 俺はパクパクと弁当に手を伸ばしながらさっきの感覚を探す。


 「あ〜!かなたくん、イチゴいいな〜」

 

 さっきの男の子だ。小さい頃は一度話せば友達、みたいなものでもあるのだろう。全く気がつかなかったが俺の真横に座っていた。胸のところについている名札を見ると”せきぐち ひろと”と書かれている。そして俺の弁当を覗き込んでいる。


 「ダメ。あげない」

 「い〜じゃん。ちょうだい」

 「えー…」

 

 俺の好物なんだがな…

 まぁ、ここで喧嘩して俺の時間を奪われるのもよろしくない。男の子の弁当の何かと交換で許してやろう。それに生憎今まで特に仲の良い友達は居なかったのでこれから仲良くするのも悪くないかもしれない。

 

 「じゃあ、りんごと交換してあげる」

 「ほんと〜?じゃあこうかんね!」


 俺はイチゴを1つ差し出し、代わりにうさぎにカットされたりんごを1つ受け取る。

 別にりんごも嫌いでないのでこれで許してやろう。俺は食べ終えた弁当をふたを閉め、りんごをしゃくしゃくとかじる。

 うむ…まぁ悪くはない。


 弁当を食べ終わり、お昼寝の時間になる。

 俺は一睡たりともせずにさっきの感覚を探し続けるが一向に進歩はなかった。

 その後はちらほらと親が子供たちを迎えに来始め、俺も結構遅めの時間ではあったが母さんに迎えに来られて帰宅した。頑張って子供っぽく今日の出来事を母さんに話して聞かせる。ひろとのことを友達として紹介しておいたが問題ないよな?


 そして、母さんが風呂に入った。

 俺は一緒には入らない。というか母さんの方が一緒に入ろうとしない。一応記憶にあるが、母さんの体は傷だらけだ。そういった職業であるがゆえではあるが、できればそんな傷を子供には見せたくないとのことだ。おかげで俺は精神年齢いい年して女性と一緒に風呂に入るという羞恥を味わわずに済んでいる。別に見れなくて残念だとは思わない。それは別に俺がゲイなわけではなく、今の俺の体にはそういったことを感じる感覚が薄いのだ。そのため見たってそんなに何かを感じるわけじゃないのだ。

 それに、この時間は俺の唯一のパソコンを使える時間でもある。母さんは結構長湯するタイプで、一度風呂に入ると1時間近く出てこない。

 俺はパソコンの置いてある台の前の椅子の上に立ち、パソコンを起動する。パソコンは生前の世界より少しだけ発達している。まぁ理由が軍事目的ではあるが、おかげで検索等にかかる時間が大幅に削減されてとてもありがたい。

 俺は検索エンジンを起動し、”オード 感じる”と入れる。”オード”と言うのは能力を使う際に使用するエネルギーのことだ。エネルギーを発見した人の名前に由来しているらしい。なんとも科学的だ。


 「よし。ええと…始めてエネルギーを感じた時、体内に異物があるような感覚を感じることが多い。それは今まで使われておらず全く動いていなかったものが突然動き始めるからであり、しばらくすればその感覚になれることでしょう…と」


 つまり、今の状態ではエネルギーは循環すらしていない、いわば稼働していないエンジンのようなものだということだ。探すのがもっと大変になったな。ただ、あの時ちょっと感じたものは正解だったようだ。あの感覚を探ればいつの日にか…


 「とりあえず、うまくいきそうな方法を見つけるか」


 俺は小さい手を必死に伸ばしてキーボードを打つのであった。

次は来週になると思います…


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