1.転生?憑依?
超能力ものが書きたくなって始めました。
書けた時に更新するので不定期になりますが、楽しんでいただければ幸いです。
目が…覚めた。
いつもの白い天井ではなく見覚えのない天井だ。
視界がはっきりしている。
俺は体を起き上がらせる。いつもより視界が低い。けれど体は軽いし、思考もすっきりとしている。
そして気がついた。自分の体が今までに見たものとは異なるものであると。
「…へ?」
戦隊ものと思われる赤青緑黄桃の5色の人型がプリントされたパジャマ、中学3年とはとても思えないような小さい体、今自分の口から出たと思わしき少年というべき少し高めの声。これではまるで俺が子供みたいじゃないか。
俺はキョロキョロと周囲を見回した。そこは6畳程度の和室だった。横には自分の今寝ている敷布団とは別にもう1つ布団が敷かれていて、その布団のすぐそばに時計が置かれている。午前7時半。6時に目覚ましをセットしてあるのが見えた。おそらく、この横で寝ていた人物は既に起きているのだろう。
そして、俺は求めていたものを見つけた。そこまで動こうと地面に手をついて体をずりずりと引きずるように移動しようとして気がつく…”足が動かせる”ということに。それは恐る恐る立ち上がってその場所まで移動した。久しぶりの立ち上がる感覚にちょっとふらつきながらも向かった先は部屋の隅。鏡台が置かれている。
「だ、誰だ…これ?」
鏡の前に立つ人間は大体3,4歳ぐらいの男の子。キョロっとした目がとても愛らしい。俺が手を動かせば同じように手を動かし、頭を傾げれば同じように頭をかしげる。
なるほど。これは俺のようだ。
「転生…だったっけ?」
俺は記憶を探る。結構最近に読んだ小説にこんな設定があった気がする。子供に生まれ直した男が今度はまともに生きようと決意し、世界に貢献するべく真面目に生きようと努力する話。まぁ、それはいいとして。俺はどうやらそんな状況に置かれているようだ。もしかしたら夢じゃないかと頬をつねるが痛いし目が覚める気配もない。
俺は…転生した?
ともかく現状を把握すべくその和室の部屋から出て行く。襖を開けて隣の部屋に入るとそこはテーブルと申し訳程度にテレビが置かれただけの実に生活感のない部屋だった。俺はテレビの電源を入れてみる。ちょうどニュースをやっていた。特になんてことのない情報を聞き流していると、ニュースキャスターの放った言葉にテレビを見た俺は凍りつく。
『昨日夜10時頃、埼玉県さいたま市でテロ事件が発生しました。容疑者はリベラリズムに所属する能力者と思われます。事件現場には大きな氷の柱が何本も立ち、見るも無残な光景と化しています』
ニュースキャスターはそれがまるで当然のことのように”能力者”と言い、テレビにはよくある事件の1つであるかのように氷の柱が立ち並ぶ映像が映し出されている。それを見たアナウンサーが「またリベラリズムのテロ事件ですか。怖いですねー」などと平然とした表情で述べている。
全く理解できない。
そんなことを思っていると、ガタッと何かが動く音がした。俺はそちらに顔を向ける。
「彼方、もう起きてきたの?今日の彼方は早起きなのね。ほら、起きたなら着替えて着替えてー」
20代半ばくらいの女性が部屋の入り口からこちらを見ている。
彼方…?それはどうやら俺のことを指すものだったらしい。それがこの男の子につけられた名前なのだろう。ふともしかしたらこの体の記憶なんだし覚えているんじゃないだろうかと、自分の全く覚えのない記憶を探る。
頭が熱い。
その女性が俺に駆け寄る映像と視界が斜めになっているのを見ながら俺の意識は途絶えた。
* * *
「…ぅ太。颯太っ!」
俺の名前は姫木颯太。そう、姫木颯太だ。耳元で聞こえたそんな声に、もやもやと霞みがかった思考で俺はそんなことを思う。最近では重たくてあげる気も起きない瞼を開けた。
「ああ、よかった〜。来たよ颯太。元気?大丈夫?話している途中で急に黙りこむから心配したよ」
俺の目の前の少年はニコニコと笑いながらそう言った。
大丈夫なわけがない。だって俺は末期ガン患者。腕には最近ずっとつけている点滴があるのが見える。
「ふざ、けんなよ」
カサカサに乾ききった唇を開く。ガラガラの風邪よりずっとひどい声が出た。
「酷くない⁉︎僕せっかく心配してるんだからさ」
ニコニコと笑う少年は半分ふざけた様子でそんなことを言った。
声が耳に霞みながら届く。俺はその少年の名前を思い出そうと記憶を辿る。
「晶…?」
「そうだけどどうかしたの?」
そうだ。樋口晶。それがこの少年の名前。俺とは幼稚園からの付き合いで、時折喧嘩もしたけどみんなに優しく誰からもってわけではないけど多くの人から好かれるいいやつ。ゲームとライトノベルが好きで、俺にしょっちゅうライトノベルを進めてきた。おかげで多少は読んだけど。ゲームは俺も好きだったから病室でも時折やっている…いや、いたというべきだろう。この頃は布団から起き上がった記憶がない。いや、もしかしたらあるかもしれないが、俺の朧げな記憶には残っていない。
晶は身長が低いのがコンプレックスで、クラス…というか学年でも結構高身長に分類されていた俺とよく一緒にいたために余計に小さく見えていたんだっけ。俺とどこかに遊びに行ったりするときも、お昼ごはんのときとかにどこからか牛乳を取り出して飲んでたな。俺はふと時計があったと思う場所に目を向ける。ちょうどお昼時だ。
「今日は、飲まないのか?」
「いや、何を?」
話が噛み合っていないような気がする。
そういえばガンは進行すると話を辻褄が合わなくなるってインターネットに載っていたな。きっとこういうことなのだろう。俺は普通に話しているつもりなのだが、きっと俺の言いたいことのほとんどは晶に伝わっていないのだろう。でも、そんな俺とも会話をしてくれる晶はやっぱりいいやつだ。
「晶…ありがとう」
「え、ええと…何に対してなのかはよくわからないけど、どういたしまして」
やっぱり伝わっていないようだ。でもお礼が言えたので良しとしよう。
ちょっと、疲れたな。まぁ部活をやってたらもっと疲れてたけど。俺は晶と一緒にバドミントン部に入っていたんだ。部活の奴らには骨折って言っておいたから、大丈夫だろう。骨折って確か重症なやつだと完治するまでに16週間かかるって言ってたし。
「最近…部活はどうだ?」
「いや、とっくに僕らは引退したじゃないか。まぁ、いっか。僕と颯太は県大に出れなかったけど、タッキーと勇介は2回戦で負けちゃったよ。これって前にも言わなかったっけ?」
そう…だった。
言われて初めて自分がすでに部活を引退した身であることを思い出した。そういえば俺がガンと発覚したのは俺らの最後の大会で負け、受験生となって迎えた夏休みが終わって2学期の半分と少しした頃だったんだっけな。たまたま俺が冬が近づき冷たくなり始めた家の階段で転び、結構痛かったから病院に行ったんだ。そのときに撮ったレントゲンで内臓にガンがあることが発覚し、それが足に転移したことによる痛みだとわかった。その日家に帰ったあとでインターネットで調べたんだけど、レントゲンでわかるほど進行したガンっていうのは末期なんだそうだ。ガンって言われても、きっと軽いものだと安心しきってた俺の心を打ち砕いてくれたよ。
それからほとんど治療はせずに延命のみに専念した。学校の友達には俺がガンだってことは伝えなかった。これから絶対死ぬ。そうわかったら、誰かに心配されて死ぬのが嫌になった。というか怖かったんだ。俺を今までの俺とは別人のように扱うかもしれないのが。それから少しして入院した。毎日点滴と美味しくない病人食。部活のやつとか数少ない学校の仲が良かった友達が見舞いに来た。それもすぐ治ると言っておいたら来なくなった。というか半ば追い払うように言ったせいだったのかもしれない。少なくともその行動が見栄からきていたのは間違いない。
晶と両親以外の人が来なくなってからは勉強に専念してみた。とは言っても好きだった化学のみだけど。元々俺は頭が良かった。ちょっとしたIQを測るテストで145を出したことがある。ちなみに一般人は100程度だそうだ。晶にめっちゃ自慢したら蹴られた思い出がある。でもおかげで勉強は結構な速度で進んだ。でも特に好きだった元素についてのところが終わるとやる気がなくなってきたので、ゲームをした。晶が日に日に強くなっていくので悔しかった。きっと俺の動きが鈍ってきていたのだと思う。少しして腕をうまく動かせ無くなり始めたあとはパソコンにのめり込んだ。俺は昔から宝石が好きだ。というかキラキラするものが好きだ。おかげで部活では”カラス”って呼ばれてた。
「俺はカラスじゃないのにな…」
「突然どうしたの?カラスって…ああ、キラキラしたものが恋しくなった?」
別にそういうわけではない。綺麗なものが好きだっただけだ。
だからパソコンでいろんな宝石について調べた。俺が特に好きなのはエメラルドだ。構成はBe3Al2Si6O18だそうだ。暇つぶしに覚えていったら、かなりの種類を覚えられた。エメラルドっているのは中に大量の傷があり、傷が少ないほど高価だそうだ。前に「身体中にガンという傷がはびこってる俺は高く売れないだろうな」と言ったら晶に笑われた。
「俺もどこかしらぐらい売れると思うんだけどな…」
「いや、どこにさ。それに君の内臓はほとんどダメになってるんだから、どこにも売れないでしょうに」
その頃だったかな、余命1ヶ月を宣告されたのって。それから少しして食べ物も喉を通らなくなった。それからはずっとこの点滴と仲良くやっている。
ああ、少し眠たくなってきた。
目を開けるのも億劫だ。瞼が重くなってきた。
すこし…寝よう。
「おや…すみ」
「あれ?もう寝ちゃうの?はぁ…お休み」
それが俺の最後の記憶…
* * *
目を覚ます。先ほどと同じ見覚えのない天井。
夢ではなかったようだ。それにこの体の記憶がある。生まれ、今まで育ったという記憶が。
俺は、どうやら転生というものをしてしまったらしい。いや、この場合は憑依といったほうが正しいのだろうか?
「…ぅ」
体を起こそうとすると頭にひどい痛みが走った。きっとこの体の記憶が入ってきたから知恵熱みたいなものでも出しているのだろう。少し体も気だるいし。
「あ、起きた。良かった〜。急に彼方ったら倒れるんだもの。お母さんびっくりしちゃったよ」
「ごめん…なさい」
俺は記憶にある男の子の話し方をできるだけ真似て声を出す。
もともとのこの体の男の子がそんなに話すことの多い子供じゃなくて良かった。これから少しずつ話し方を変えていけば不審がられることもないだろう。読んだライトノベルの1つに無駄に大人びた行動をして気味悪がられるなんていうことがあった。できるだけそんなことにならないようにしよう。兄弟はいないみたいだったし、一人息子を可愛がれない家庭って結構悲しいと思う。
他にもいろいろなことがわかった。この世界には超能力というものがある。この体の両親はどちらもすごい能力者で、この体の男の子はそれに憧れていたらしい。母親は氷を操り、父親は炎を操っている記憶があった。今も俺の額を母親が作ったと思われる氷がタオルに包まれて冷やしていた。
俺だって男の子だ。結構そういうのには憧れる。きっと両親がすごい能力者なんだし俺もすごい能力があるはずだ。今からちょっとワクワクしている。
「いいのいいの。きっとお母さんが無理させちゃってたのね。今日はずっと一緒にいてあげるからね」
「わかったっ!」
「うふふ…」
母親が俺を優しい眼差しで見つめている。きっと今の俺の行動は微笑ましい子どもの行動に見えたことだろう。
…ただし、俺自身がすっごい恥ずかしかったが。
「さぁ、もうちょっと寝て起きなさい。お母さんはここにいるから」
「おやすみなさーい」
「はい。おやすみさない」
俺は毛布をかぶりなおして目を閉じる。眠るのは得意だ。なにせいつも何時間も眠っていたからな。
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