ショートショートII「均衡」
少年は巨大な大根に追いかけられていた。白蝋のような白さだった。根本の髭で器用に均衡を保ち、彼に近付いた。
やがて均衡を失って、少年に倒れ込んだ。押し潰されたかと思ったが、彼もまた巨大な大根になっているのに気が付いた。彼は改めて彼自身の身体に目を遣った。足は大根の長い髭に、首は緑色に、そして頭髪は豊かな大根の葉に変わっていた。毛虫に変身するよりは良いかと思って居ると、視界の端で何かを認めた。
それは一人の少年だった。大根の胸には追いかけ回したい衝動が沸き起こり、長い髭を動かしたのだった。