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26/202

引導1

 つまり『青白い者達』とは、テロリストに近いわけだ。

 大まかな説明を聞き終えたマサヨシはそう結論付ける。ただし、マサヨシの知るテロリストとの大きな違いは、彼らの行動原理が全くの不明なところか。


 臨時休業をした白銀一号店の店内には、ジャックとマサヨシしかいない。閉めきった店内を切り取るように朝日が差し込んでいる。


「何の罪もない、大人しい女でしたよ、殺されたのは」


 顔を怒りで歪めながらジャックが吐き捨てる。


「金がないのに裏の仕事に手を染めず、こつこつためた金で息子を育ててきた善良な女だ。それが、殴り殺された。息子の方は未だに意識があるうちは泣き叫んで、疲れ果てて気絶しての繰り返した。薬品も効果が薄い」


「義勇軍への寄付が一気に増えた。その子のために金を流しても誰も文句は言わないだろうね」


「もちろんですぜ」


「さっそくそうしよう。白銀の売り上げの数割もそっちに回す。ああ、とにかく警備を強化しないと」


 かりかりと頭をかいて、マサヨシの目が宙を彷徨う。


「どう思います、マサヨシさん。偶然ですかね、アインラードとこの件」


「そりゃ、偶然でしょ。そんな無茶苦茶な連中と一国が繋がりがあるとは思えないし、大体過去にはアインラードで『青白い者達』が暴れたことだってあるんでしょ?」


「まあね。しかし、それにしたって、タイミングは最悪ですな。ただでさえアインラードの件でぴりぴりしているところに」


「まあまあ」


 全身から緊張感を発しているジャックを宥めながら、マサヨシはふかした芋と焼いたベーコンを一緒に口に放り込む。


「ただでさえ住民も義勇軍も緊張している。上に立つジャックがそんなじゃ、余計に全員固くなる。暴発するかもよ」


「上?」


 ジャックが目を丸くする。


「俺が上?」


「実際、まとめ役じゃん。正式に副代表とか、そこらへんにならない?」


 そうして、ゆくゆくは義勇軍の代表になってもらおう。

 マサヨシはそう企んでいる。義勇軍はあくまでも自分の命を長引かせるための道具。予想以上に膨れ上がったそれを、ずっと管理するつもりは毛頭ない。さっさと誰かに渡して身軽になりたいのだ。


「いやあ、柄じゃないですなあ。家でも姉の尻にしかれとりますし」


「あ、お姉さんいるの?」


「いますよ、すげえ恐ろしいのが」


 顔をしかめるジャックの肩から、ようやく力が抜ける。


「料理はうまいですがね。地元の料理ですわ」


「唐辛子で煮込んであるやつ?」


「あ、そうですな。知っておるんですか、サネスド料理を」


「最近食った」


 朝食を済ませたマサヨシは、ジャックの肩を叩いて一緒に店を出る。


「悪かったね、朝っぱらから。昨日の事件について、どうしても詳しい報告を聞いておかないと、どうせ城から呼び出されて俺が質問されるし」


「いいですよ、マサヨシさん。それより、今度、うちに来てください。姉貴も喜びますわ」


「本当に?」


 直射日光に目を細めながら、マサヨシとジャックは店を出る。


「ええ、ご馳走させてもらいますよ」


「それは嬉しいなあ」


 まだ早朝かつ、昨晩事件があったばかりだ。

 さぞや人通りは少ないだろうと思いきや、緊張した面持ちで道を行きかう一団がちらほらと目に付く。


「ああ、脱出組ですな」


 ジャックが囁く。


「それなりに蓄えがある連中は、トリョラから逃げ出しているんです。まあ、他で生きていけるなら、戦争が今にも始まりそうで、かつ『青白い者達』が暴れるような町にいたいわけないでしょうな」


 意外にもその声に侮蔑の響きはなく、むしろいたわるような色すらある。


「断固戦うべき、とは思わないわけ?」


「そりゃ、戦いたい奴がするべきです。例えば」


 にっとジャックは笑う。


「俺とかね」


「なるほど」


 慕われるのも分かるな、とマサヨシは納得する。


 ちょうど、そこへマサヨシとジャックの間を通り過ぎるようにまた緊迫した顔の一団が通り過ぎる。


「本当に、家に飯でも食いに来てください」


「そうだね。ジャックのお姉さんっていうのにも会いたいし」


 そこで、ちくりと痛みというには小さすぎる感覚を感じて、マサヨシは何気なく自分の腕の辺りを見る。さっきの一団がすれ違う時に、何か当たったのだろうか。そんなことを思う。


「ああ」


 諦めたような声が、マサヨシの口から自然と出る。細い針が、マサヨシの腕に刺さっている。

 行き過ぎていく一団の背中に目をやる。早足で離れていくその一団は、既に小さくなっている。そうして、路地を曲がって、消える。


「やってくれたな」


「どうしたんですかな、マサヨシさん」


「今更だけど、その、さんって付けるの、止めてくれない? 多分、俺より年上でしょ」


「俺ですか? どうですかね、獣人は外見から年齢分かりにくいですけど、俺は結構若いですよ。多分、マサヨシさんと同じくらいじゃないですかな。って、ちょっと、マサヨシさん?」


 ふらりと壁に寄りかかるマサヨシを見て、ジャックが慌てる。


 マサヨシの目は真っ赤に充血している。呼吸は徐々に荒く、浅くなっていく。


「お、おい」


「世話をかけるけど、ああ、いくつか」


 息も絶え絶えに、脂汗を流しながらマサヨシは言う。


「頼まれてくれるかい?」


「おい、ちょっと、大丈夫ですかい?」


「大丈夫じゃあない。だから、頼む。引き換えに、義勇軍の代表の座をあげるよ。だから、頼む、お願いを聞いてくれ」


 倒れかけるマサヨシを、ジャックは慌てて抱きとめる。


「何です、一体、何が?」


「毒だ、多分」


 赤く充血した目で、睨むようにしてマサヨシがジャックを見る。


「助かる道は、一つしかない。君にしか頼めない」

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