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更なる泥沼

 薄暗く、それでいてだだっ広い室内。何の装飾品も家具もない、ただのスペースとしての家屋。

 倉庫だ。

 その倉庫に、木箱が平積みにされている。


「目撃者を作るわけよ」


 木箱のふたを片っ端から開けていくミサリナ。


「作る? 逆じゃないの? 消す、なら分かるけど」


 多少は包帯の取れた姿のマサヨシが、痛みに顔をしかめながら両手に巨大な瓶を抱えて、木箱の横に次々と置いていく。


「それじゃ普通じゃない。違うんだってば。あえて、自分がどういう風に殺したのかを見た人間を、生かしておくわけよ。そうすることで、世に自分の実力が広まるわけ」


「ああ、宣伝ってこと?」


 マサヨシは木箱から空の小瓶を取り出すと、持ってきた瓶の中身をその空の瓶に移し替えていく。


「そういうこと。依頼人でもいいし、標的の仲間の一人でもいいし、無関係な第三者でもいい。とにかく、証言者を作るのがやり方なの。だから『見世物』ってわけ」


「実際、そのタイロンって強いの?」


「そりゃ強いわよ。昔、竜を素手で倒したって噂もあるし」


 全ての木箱の蓋を開け終わったミサリナは、マサヨシと同じように中身の入った瓶を持って木箱の横に座る。


「竜なんているの?」


 驚くマサヨシを見て、更にミサリナが驚く。


「知らないの? あ、記憶ないんだっけ。でも常識あるんでしょ?」


「ああ、竜がいるのって、常識なの?」


 嚙み合わない会話に苦笑して、ミサリナは瓶の中身を移しながら、


「忘却地帯から飛んでくるのよ。どの国にも、その飛んでくる竜をいち早く発見するために竜観測員がいるわけ。ま、町に降りたりはほとんどしないけど、森の中に降りたらその森はさっさと立ち入り禁止にするし、竜の討伐隊を組むわけ」


「かわいそうじゃん。どうしてそこまで竜を目の仇にするんだよ」


 一つ目の瓶を一杯にしたマサヨシは、二つ目の瓶に取りかかる。


「凶暴だし、大食いなわけよ。雑食だしね。だから竜がいる森って、三年で無くなるって言われてるわ」


 少し遅れて、ミサリナも二つ目の瓶に持っている巨大な瓶の中身を注いでいく。


「へえ。で、忘却地帯って何?」


「あー、忘却地帯は、イソラ大陸の北半分よ。無茶苦茶な海流と狂気山脈のせいで、海路でも陸路でも人が立ち入ることができない地域のこと」


「また一つ、賢くなった。で、何の話だったっけ?」


「タイロンの話じゃなかった?」


「そうそう、今、そいつがパインに雇われてるんだよね」


「そういうこと」


「なるほど」


 ずっと屈んで作業していたマサヨシは、いったん瓶を置いて体を反らせる。


「うぐう、痛てて」


「おじさん臭いわね」


「違う。まだ痛むんだよ、全身が」


「もう一週間経つでしょ?」


「まだ一週間、だ。あそこまでズタボロにされて、この一週間ずっと働いていたんだ。勲章くらいもらってもいいはずだよ」


 文句を言いながら、またマサヨシは作業に戻る。


「タイロンとはしばらく専属契約結ぶつもりかな?」


「みたいよ。だから、タイロンがどっか行くまで大人しくしといたら?」


「残念ながら」


 ため息と共にマサヨシは三本目の瓶の栓を開ける。


「大人しくしているうちに潰されるよ、多分。ああ、昼までにこれ、終わらせなきゃな」


「何か、用があるわけ?」


「今日だよ。ハイジに、パインからの融資と二号店と三号店の出店を説明するの」


「ご愁傷様」


「ミサリナ」


 包帯だらけの顔を片側だけ歪めるようにして、不敵にマサヨシは笑う。


「うまくいくかどうか、賭ける?」


「自信あるの?」


「ないから、自身満々に笑っているに決まってるだろ」


 交渉術の基本。

 いかなる時も、自信に満ちた態度で。自信がない時は、特に。





 瓶の詰め替えが終わる。これで名も無き密造酒が、ミサリナから買った格安の輸入品の酒に変わった。これを店で販売する。この作業が、この一週間のマサヨシとミサリナの日々の日課になっていた。


「今日の分はこれで終わりか」


「うまくいって二号店、三号店が出来ればこの仕込む量も二倍、三倍になるわけね」


「やる気を削ぐ言葉をありがとう」


 立ち上がり、マサヨシは伸びをする。


「ツゾ、どうしてる?」


「うちで匿ってるわよ」


「実際、どうなんだ? あいつは元々が無法者だ。隙があればお前を殺して金を奪うとか、そんなことをする素振りはない?」


「ないない。大人しいもんよ。だって、あたしを殺して逃げ出したところで、無事にこの町から出られる確率は高くない。それくらい、あいつも分かっているわけよ」


「少なくとも今は、パインに怯えながらお前に匿われるしかないわけか」


 頭をかいてから、マサヨシはミサリナに背を向ける。出口に向かってゆっくりと歩きながら、懐からペンと帳簿を取り出す。


「じゃあ、行ってくる。いつも通り、これは店に置いといてくれ。世話をかけて悪いね」


「まあ、仕方ないわよ。こっちだって甘い汁を吸っているわけだしね」


「それなりに、儲かってるか、これで?」


「そりゃあね。密造酒の輸送だけじゃなくて、その密造酒の原料を運ぶのもあたしの仕事になってるから、その分儲けてるわ」


「なによりだ」


 ミサリナ商会から、さっき中身を移した密造酒の分、輸入品の酒を格安で仕入れたように帳簿を改ざんして、その帳簿を懐に戻す。


「じゃあ、行ってくる。ハイジと会うのも、ぼろぼろの状態で生存報告に行って以来だ」


「楽しみね」


「まあね」


 あまり中身のないやり取りをしてから、マサヨシは倉庫から出る。


 人気のない、トリョラの裏通り。こんなところでこそこそと違法行為を行うようになってしまった。それでも、一週間前と比べれば精神状態は格段にいい。

 いついきなり襲われて殺されるか分からない状況下で限界まで働き続ける。それに比べれば天国のようなものだ。


 建物に切り取られて狭い、青い空を見上げる。雲が少ない。

 大きく深呼吸をする。

 マサヨシは、とにかく、生きていることが飛び上がるほど嬉しい。





 世界は呪われていた。

 真っ黒い雲が常に空を覆い、黒い毒の雨が毎日のように降り注いでいた。

 神々は世界の呪いを解くために力を尽くし、また偉大なる種族に加護を与えていた。偉大なる種族は神々に祈り、そして呪いを解くために彼らもまた尽力した。呪われた世界で唯一人の生きていけるフォレス大陸で、神々と偉大なる種族は互いを尊重しながら存在していた。

 偉大なる種族は神々の加護の元、世界に満ち満ちたエーテルを利用する技術、魔術と呼ばれる技術を使い文明を発展させていった。

 呪われた世界では魔術を使用できねばその日を生き延びることすら難しく、そのため魔術が使えない凡庸な種族は偉大なる種族に隷属して生きていた。


 そして遂に呪いは解け、毒の雨は降り止み、雲が消えていった。

 魔術に頼らずとも生きていける世界になったことで、凡庸な種族は偉大なる種族から独立しようとした。しかし、偉大なる種族はそれを許さなかった。それどころか、世界の呪いが解けたことを自らの手柄とし、神々の代わりに自分達を崇めるようにすら要求した。それには凡庸な種族だけでなく、偉大なる種族の中で少数派ながら清廉な一派も反発した。

 こうして、凡庸な種族と清廉な一派は結託し、偉大なる種族に反乱を起こした。神々もまた傲慢になった偉大なる種族を見放し、反乱する者達へと加護を与えた。

 これが神代戦争だ。


 神代戦争は終わり、偉大なる種族の文明は滅んだ。偉大なる種族の清廉な一派がフォレス大陸の支配者となった。傲慢だった偉大なる種族の大部分、そのうち神代戦争を生き残った者達は神々に魔術の力を奪われ、穢れた者として大陸の辺境に追いやられた。

 凡庸な種族は神々の加護の元、長い船旅を行い、新天地であるエリピア大陸に渡っていった。


 凡庸な種族の末裔こそが人間、そして偉大なる種族の清廉なる一派はやがてエルフとなり、穢れた者はやがてダークエルフとなった。


 そこまで読んだところで、椅子に座っていたマサヨシは幼い貴族の子弟用のその本を閉じて、もう一度タイトルを確認する。世界の成り立ち、という本だ。

 世界の成り立ち、か。これは、どこまで信憑性のある話なんだろうか。神話なのか、それとも史実なのか。

 まだこちらの世界のそういう意味での常識のラインに馴染んでいないので、いまいちマサヨシには判断できない。


 謁見の前ではまだマサヨシの体ではつらいだろうということで、気を遣ってもらって城のある一室でマサヨシは待たせてもらっている。椅子に座り、置いてあった本を読みながらハイジが来るのを待っていた。

 それなりに長く待たされている。確かに、謁見の間で立ったままこの時間待たされるのは、今の体の状態ではしんどい。


「すいません、お待たせしました」


 白銀の鎧を纏った少女が、息を切らせて部屋に入ってくる。


「いえいえ。記憶がない身ですから、こういうのを読むのもためになりますよ」


 マサヨシは手に持っていた『世界の成り立ち』をひらひらと振ってみせる。


「ああ、それ」


 頬を上気させたまま、ハイジは顔をほころばせる。


「懐かしいですね。私も子どもの頃に読みました」


「記憶ないから、聞きたいんだけど、これって本当のことですか?」


「ええ、もちろん」


 どうしてそんなことを聞くのだ、という風なきょとんとした顔をするハイジ。


 じゃあ、本当に神がいるっていう世界観なんだな。

 納得して、マサヨシは本題の前の世間話を続ける。


「世界には四つ大陸があるらしいですけど、ここに出てくるのはエリピアとフォレスだけですね」


「イソラ大陸と暗黒大陸については、発見されたのがここ二百年のことですから。存在するのではないか、という話自体はそれ以前からあったようですが」


「へえ」


「それにしても、お元気そうでなりよりです」


「その節は、どうも」


 マサヨシは頭を下げる。

 一週間前、ぼろぼろの状態でハイジの前に出た時には、ハイジの顔色が真っ青になっていたのを思い出す。


「何とか、仕事にも戻れて、本当に、ご迷惑とお世話をかけました」


「いえ、そもそも、あなたがそんな目に遭ったのは、町の治安を預かる我々の責任なんです。謝らないでください」


 本当につらそうな顔をして、ハイジは俯く。

 最初にぼろぼろの姿をハイジに見せた時もそうだった。マサヨシを見て、自分が傷ついたような顔をしていた。


「けれど、それとこれとは話が別です」


 ハイジの背筋が伸び、目つきが急に鋭くなる。


「パインさんからの融資を受けて、白銀が二号店と三号店の出店を検討している件について、説明していただけるとのことでしたね」


「ええ、まあ、そうです」


 さて、とマサヨシは息を吸って、腹に力を入れる。その拍子に脇腹が痛くなって、思わず顔をしかめつつも、気合を入れる。

 ここをクリアしないと、未来はない。


「資料はお渡ししましたし、分かっているとは思いますが、白銀はかなり好調です。その件については感謝しています。ハイジさんのおかげです」


「確かに、私の予想を超えて好調なようです」


 ハイジの手には事前に送っておいた、白銀の経営状況をまとめた紙が握られている。


「しかしそれは、経営をするあなたが、利益をほとんど度外視するような形で、薄利多売で経営しているからではありませんか?」


「確かに、そうです」


 実際には、既にその域は脱している。なにしろ、密造酒を秘密裏に販売しているのだ。表向きにはほとんど店に利益を残さない経営が続いているが、実は表に出せない利益は一週間前からマサヨシの懐に入りつつある。


「その状況で、パインさんから融資を受けるというのは、いささか無理があるように思いますが」


「逆ですよ。薄利多売だからこそ、店を増やさないとロクに儲けられないんです。どんどん店を増やしていかないと。けれど、そもそも儲からないから出店するための資金が溜らない。悪循環です。それを相談したところ、パインさんが融資すると言ってくださったんです」


 前から考えていた嘘にまみれた物語が、マサヨシの口からするすると流れ出る。


「それは、分からないでもありません。けれど、この経営状況を考えると、店を増やしたとしても、融資の分を返済するのにとてつもない年月がかかるはずです。返済計画はどうなっているのですか?」


 中々鋭い。

 マサヨシは舌を巻く。

 こういう話には鈍いかと思っていたが、どうしてなかなか、ハイジは頭も回るらしい。ただ、どこまでも真っ直ぐなだけだ。


「返済計画はパインさんに見せて了解を得ています」


 当然、嘘だ。


「ある程度安定したら、経営方針を変えてもう少し利益の出る方向に行くつもりです。心配いりません」


「でしたら、まずは、今の店でそういう方針でうまく行くかどうかを試してから、更なる出店をするべきでは?」


 全くの正論だ。


「再開発地区以外で出店しようと思えば、これまでと桁違いの経費が掛かるはずです。それを融資してもらってから、出店した後で融資の返済に合わせた経営に変えていくなんて……あまりにも行き当たりばったりです。何か、パインとあなたの間で裏があるのでは?」


 一層、ハイジの目が鋭くなる。

 ここらへんだろう、とマサヨシは大きく息を吐いて、全身の力を抜く。


「裏は、ありますよ。ご明察です」


 そうして、あらかじめ準備しておいた新しい紙の資料を取り出して、ハイジに渡す。


「これは……」


 ぱらぱらと資料をめくっているハイジの眉が困惑で寄せられる。


「これは、何です?」


「リストです。二号店、三号店を出したら雇う人間のね。さすがに店舗を増やしたら、俺一人じゃあ回せませんから人を雇うつもりなんです。それも、大勢。今の一号店も何人か雇おうと思っています」


「しかし、それでは」


「ええ、そうです。人件費で赤字になるって言うんでしょう? 最初のうちは人件費はかなり抑えるつもりです。実際、そこのリストに載っている人たちは、最初は小遣い程度の給料でいいって言ってくれているんです。ただ、その代わり」


「その代わり?」


「俺に身元引受人になって欲しい、ってことです」


「それは、つまり」


 ハイジの鋭かった目が丸くなる。余程、予想していなかった方向へと話が流れたらしい。


「籍が欲しい、ということですか」


「ええ。給料は安くてもちゃんとした仕事を得て、それから俺に頼めば、正式なトリョラの住民になれるんじゃないか。そう考えた連中のリストですよ、それは」


 実際、違法な仕事を辞めたい連中、そして正式な住人になりたい連中は調べたところ予想以上に多かった。ただ、脛に傷があったり、家族や知り合いが違法な連中と付き合いがあったりで、きちんとした仕事を得たり、ハイジに籍を頼むことができずに苦しんでいた。


「ハイジさんにお願いしたいのは、出店の許可と、彼らの籍の取得です」


 そうして言葉を切り、マサヨシは緊張で乾いている唇をなめて、


「俺とパインさんは、ただ儲けたいわけじゃあないんですよ。白銀を増やすことで、仕事を増やして、トリョラの正式な住民を増やしたいんです。それに、白銀が流行ることで、違法な酒場も姿を消していくはずです。どうです、ハイジさんにとっても悪い話じゃあないでしょう」


「つまり、あなた達も、この町を浄化するために動くということですね」


 感慨深げに、ハイジが呟く。

 普通なら疑いそうなものだが、目が既に感動の為か潤みかけている。

 つくづく、ランゴウと揉めた時に彼女を頼らなくてよかったとマサヨシは改めて思う。赤子の手を捻るようにランゴウに騙されていただろう。


「そう、はっきり言われると恥ずかしいですけどね」


 照れたように笑いながら、マサヨシは少々決まりが悪い。

 実際には、浄化どころか、密造酒の販売に思いきり手を染めているのだから。


「しかし、それにしても急すぎはしませんか?」


「ああ、それは、その」


 言いよどむ。敢えて、だ。

 ハイジは怪訝な顔をする。

 よし、餌に食いついてきた。マサヨシは悩むように視線を彷徨わせながら、視界の端でハイジを観察し続ける。


 しびれを切らしたハイジが口を開いた瞬間、マサヨシは言う。


「ハイジさんが、いるうちにこの話を進めたかったんです。城主があなたじゃないと、この話は進みそうにありませんでしたから」


 ぴたり、とハイジが動きを止める。

 無音。しばらくして、


「知っていたのですか?」


 弱弱しく、ハイジが声を出す。いつもの凜とした所作からは考えられない声だ。


「いや、何となく、ですよ」


 これに関しては本当だった。

 マサヨシには確信はなかった。けれど、ハイジの立ち振る舞いやこれまでのトリョラの状況から、直感的に思ったのだ。パインにも確認して、ありうるかもしれないと判断をもらった。

 それでも、ここで予想が的中するまで、マサヨシの中でも半信半疑だった。よかった、当たっていたか。


「いつまで、城主でいられるんです?」


「粘ってはいますが、両親からは早くシュネブに帰るように、と今年に入ってからずっと催促されています」


 寂しげにハイジは力なく笑う。


「元々、家の力で無理やりに城主となったようなものです。この町を変えると意気込んで、結果ほとんど何も変わっていないどころか、城の中でも腫れ物に触るような扱いになってきました。私が両親でも、ノライのため、家のため、手をまわしてさっさと城主を辞めさせるでしょう」


「結果は出ます」


 ハイジの声が弱弱しいからこそ、マサヨシは思いきり力を込めて言い切る。


「この計画がうまくいけばね。四号店、五号店とどんどん出して、トリョラを健全な町にしていきましょう。どうです?」


 その問いかけに対して、ハイジの目は戸惑っている。もうすぐ城主を辞めることになる身で、その計画に乗ることを迷っているのか。

 だが、それも一瞬。


「実は、出店自体は、城の担当者からは許可が出ていました。ただ、私が納得できなかったら呼んで話を伺わせてもらいました」


 当然だ。パインが手を回しているのだから。実際、ハイジ以外の城の連中は腐敗しきっていると言ってもいい。


「ですから、後は私が首を縦に振るだけです」


 静かに言って、ハイジがじっとマサヨシの目を見つめてくる。


「いいのですね、信じても」


「もちろん」


 心臓が痛くなるような気分を押し隠して、マサヨシも真っ直ぐ見つめ返す。


「分かりました。城は、白銀の更なる出店を許可します。いえ、これからは、あなたとパインの計画に、全面的に協力させてもらいます」


 そう言って、ハイジが手を差し出してくる。


 まずい。反射的にマサヨシはそう思う。

 全面的に協力、それはやりすぎだ。逆に色々な裏の仕事をやりにくくなる。

 だが、それでも今更引くわけにもいかない。


「ありがとうございます」


 マサヨシも笑顔で手を差し出す。まだ指が数本折れたり骨にひびが入っているままの手だ。それを、ハイジは優しく握る。


「マサヨシ、本当に、あなたに会えてよかった」


 優しく手を握りながら言うハイジに、マサヨシは照れくさくなって目を逸らす、ふりをする。

 実際には、マサヨシの中では、一つのイメージが渦巻いていて、それを振り払うのに必死だ。そのイメージは、雪玉が谷底へと巨大化しながら転がり落ちていくものだ。

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