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「――ぐあっ」


 同じくらいの歳のガキを殴り飛ばす。残り、相手は四人。そのうち、武器を持っているのも二人いるが、それでも素手のパインに怯えて踏み出せず、遠巻きにしているだけだ。


「おい、かかってこないならこっちの条件呑むってことでいいのかよ?」


 怯えた少年たちは、パインの質問に答えず、生唾を飲み込むだけだ。


「ったく、これくらいでビビるなら、無許可で飯屋なんて出してるんじゃねえよ」


「きょっ、許可を何でてめぇらにとらなきゃいけねえんだよ!」


 勇気を振り絞ったのか、少年の一人が裏返った声で叫ぶ。


 同感だ。だが、パインとしてはこう答えるしかない。


「『南』の飯屋を仕切ってるのはシアムなんだよ。シアムに許可取って、アガリを支払え。それをせずに飯屋出すんじゃねえってことだ。ああ、何なら、お前ら全員うちで雇ってやってもいいぜ。とにかく、食いものは俺たちの縄張りなんだよ、悪いな」


「パインさんっ」


 後ろから、ガキが一人、走り寄ってくる。三日前は、目の前の連中と同様にパインにシメられる側だった少年だ。今では、シアムの店の店員であり舎弟になっている。


「おお、こいつら、話は分かったみたいだからよ。あとはお前らでやっといてくれ。店を続けてもいいし、閉めて俺たちのとこで働いてもいいし」


「そりゃいいんですけど、パインさん、ビファーザさんが呼んでます」


「――ああ? ったく、またかよ」





 ビファーザが例の予言をしてから三か月。それで、町は完全に予言の通りになっている。

 ヨモウ一家が南を支配している。新参者や弱小グループを潰し、吸収していくのはシアムの役目。そしてそのシアムの手先として最前線で暴力を振るっているのがパインだった。


「おい、どうした」


 既に、あの店では働いていない。店員は掃いて捨てるくらいいる。全員が、店員兼暴力要員だが。とにかく、パインとビファーザが今詰めているのは、ヨモウの息がかかった宿屋の一室だ。そこが、そのままシアムの事務所にもなっている。もっとも、例によってシアムはほとんどそこにはいないが。

 パインがその一室に入ると、案の定ビファーザしかそこにはいない。


「悪いな」


 狭い一室で、置いてある机に資料を広げて何やら計算をしていたらしいビファーザは顔を上げる。


「いいよ、どうせ馬鹿をぶちのめしてるだけだ。それで?」


「ああ、アガリを計算していたら、今月、アサギの店が誤魔化してるっぽいんだ」


「またかよ。あいつ」


 つい先月、誤魔化しを見つけてヤキを入れてやったばっかりだというのに。パインは肩をすくめる。


 シアム兄弟の役割は完全に分担されている。大雑把な絵を描くのを担当するのがシアム。その絵を実現させ管理するために細かい事務や経理の仕事を担当するのがビファーザ、そして暴力を振るうのがパインだ。脅しと暴力でパインは日夜動き回っている。


「確実とは言えないんだが、前科もある。ちょっと、詰めてきてくれないか、パイン?」


「あいよ……ところでシアムは?」


「いつものように酒だよ。ただ、今日はいつもとは違って、『北』と会うらしい」


「へえ」


 トリョラはいまや大きく二分されている。ヨモウが支配する南と、どうやら城とのパイプを持っている小金持ちが数人で牛耳っているらしい北だ。


「奴は野心家だからね。トリョラの統一を目指している。色々と動いているみたいだよ」


「それで金がいる、と。まったく、いくら金を集めても足りねえなあ、おい」


「仕方ないだろう、それに」


「あん?」


「シアムという男、少なくとも馬鹿じゃあない。そしてさっき言ったように野心家だ。この投資が、数倍、数十倍になるって目論見はあるんだろうさ」


「兄貴分のことなのに冷静なもんだな」


「はっきり言って、親愛の情や尊敬の念は持っていないからね。お前はどうだ?」


「俺? ゼロだよゼロ。下手すりゃマイナスだ。あいつ、俺たちにばっかり働かせやがって」


 パインとビファーザはそこで黙って見つめ合い、しばらくしてから同時に噴き出す。

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