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「よお」
地下に降り、自分の牢獄へと連れて行かれていく途中で、他の牢の中から声をかけられる。いたのか、とパインは驚く。行きではこの牢の前を通ったが人がいるようには思えなかったが。
「お前、マトモに戻ったのか。よかったな」
牢の中にいるのは、ずんぐりとした中年の男だ。全身が栗色の毛におおわれている。要するに、獣人だ。熊の獣人。男臭い笑顔を浮かべて、熊の顔をした男はあぐらをかいて牢の中からパインを見上げている。
「おい、ヤオ。無駄口を叩くな」
兵士が注意すると、笑ったままヤオと呼ばれた獣人は黙る。
「大人しくしておけよ」
そう言いながら兵士がそのヤオの牢の隣、パインの牢を開ける。
「ほら、入れ」
「はいよ」
パインは牢に入ると、そのままごろんと冷たい床に転がる。
もう興味はないようで、兵士は牢の扉に鍵をかけるとそのまますぐに去っていく。後にはやる気のなさそうな看守だけが残される。欠伸している。
「よお、俺は朝が弱くてな」
隣から、ヤオの声が聞こえる。
「うん?」
「お前が出ていく時は寝てたんだよ。おい、どんな話してたんだ?」
「ヤオ、黙ってろ」
看守が注意するが、
「いいじゃねえか。なあ、どんな話だった?」
ヤオは気にする様子もない。それきり、看守も注意するのが面倒になったのか黙る。
別に黙っておく義理もないので、
「もうすぐ出れるって話」
端的にパインは答える。
「マジかよ、いいな」
「あんたもすぐに出れると思うよ」
ハンクの言葉が嘘じゃないなら。
「ああ、そうなのか。そりゃ、いい知らせだ……俺は、ヤオだ」
「ヤオさんね。俺はパイン」
「知ってるよ、『狂犬』パインだろ? 悪かったな、俺たちがしゃんとしてりゃあお前がきっかけになることもなかったんだろうが。お前が首謀者の一人みたいになっちまった」
「え?」
言っている意味が分からず、一瞬混乱するが、すぐにパインはどういうことか気付く。
「ああ、じゃあ、あんたが三班の?」
「三班の班長をやってた。せっかく俺がケツを持つって言ったのに、どいつもこいつも寸前でヘタレやがってな。なあ、パイン」
「うん?」
「お前みたいなガキに悪かったな。こりゃあ、借りだ。いずれ返すわ」
「いいよ、別に」
死んでもいいから無茶苦茶にしてやろうと思っただけだ、とは言わないでおく。
シアムの服装は、薄汚れた古着を組み合わせて、それでも多少なりとも洒落た格好になるように気を使っているのが見て取れる。なにせハットまで被っているのだ。
一方のビファーザは、鉱山の作業所での作業着と大して違わないような薄汚れた服を着ている。おそらく、服に興味がないのだろう。
「よお、おつとめご苦労さん」
城の前で待ち構えていた二人に呆然としていると、シアムがそう言って声をかけてくる。
「ああ、その、悪いね、シアムさん。知ってたの、今日釈放だって?」
「まあ、何となくな。ここだけの話」
身を寄せてシアムが声を潜める。
門の前で話しているから、門番の兵士を警戒しているらしい。
「ちょっと、城の中の連中に小遣いをやってな。ツテがあったんだ」
「行こうよ、馬車を待たせてる」
ビファーザの言葉に、
「おお、そうだな。行こうぜ、パイン。腹、減ってるだろ。好きなもん食わせてやるよ。まあ、トリョラにゃあロクな食い物ないけどな」
シアムがばん、と背中を叩いて促すので、三人で歩き出す。
「なんだ、景気いいの、シアムさん?」
「はっ、俺とビファーザで、商売やっててな。そっちで小金が手に入ってるんだ」
待たせていた薄汚れた馬車に乗り込むと片足をかけた状態でシアムは振り返り、
「当然、お前も手伝えよ。俺たちゃ、兄弟なんだからよ」