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今回分量少ないです。すいません。
特に最後の方、イズルとかいう嘘の神に招かれて事件の推理を聞かされた、という部分のメモを何度も読み返している。顔には笑みが浮かんでいる。明らかに、面白がっている。
棒でぶん殴ってやろうか、とも思うのだが、見もせずにかわすことはわかりきっているので我慢して、そのにやにやと笑いながらメモを読んでいるその姿を、ただただリゼは眺める。
「面白い」
メモを読み始めてからのようやくの第一声がそれで、満足したのかヒーチは顔を上げるとメモを投げて返してくる。
「非常に面白い。これほど読んでいて面白かったのは『木曜日だった男』以来だな」
「は?」
「こっちの話だ」
ヒーチは椅子から立ち上がる。
リゼとヒーチがいるのは、元々はある中流貴族の屋敷だったものを改築したものだ。複数の部屋に分かれていたのを壁を取り払って大きな広間にしてあり、そこに作業用の机がいくつか、それに資料用の本棚がところ狭しと無数に並んでいる。これが、リゼの勤めている新聞社の事業所だ。
「ツゾはまだ戻らないんです?」
「紛争地域の取材が難航しているらしい。まあ、あいつのことだ、死にはしないだろ」
本棚の空いたスペースに突っ込まれていた袋を取り上げ、ヒーチはその中から乾いた豆を掴み出し、ぼりぼりと食べ始める。
反戦のための裏工作が実り戦争が回避された後、反戦のための秘密組織はそのまま培っていた情報網を利用して新聞社になった。金を稼ぐためだ。
というのは表向きで、実際は新聞社として情報を収集発信しながら戦争を防ぎ続け、かつ最終的には裏からアインラードをコントロールしてやろうというヒーチのアイデアだった。
まずは民衆の支持がなければ、そのためには面白い記事を、ということでまだ若い新聞社の人気獲得のため、特ダネを手に入れようとリゼとツゾを筆頭に記者は走り回る日々。
だが、正直なところリゼはその日々を気に入っていて、記者というのは天職かもしれないと思っている。別にわざわざ口には出さないが。ちなみに、ツゾもあれでどうも記者向きらしく、特に奴の犯罪組織に関する潜入記事はかなり人気がある。
「しかしイズルとはな、懐かしい」
「えっ、懐かしいも何も、僕の妄想の神様ですよ?」
「いや、いるんだよ、実際。ロクなものじゃあないがな。俺は縁を切ったんだ。ふん、大方、『ペテン師』をだしにしてまた俺とよりを戻そうってハラだろ」
冗談を言っているのか本気なのか分からないヒーチにリゼは困惑する。
だが、そもそもむちゃくちゃなことを言って煙に巻くのはいつものヒーチだから深く考えるだけ損だというところに落ち着く。
「それ、昔の女、みたいな言い方ですね」
だから言葉尻を捕えて冗談を言うと、
「気色悪いことを言うな」
めずらしくげんなりとした表情を浮かべて、ヒーチは豆を一つ、指で弾いてくる。
「で、どうだ? 三人、まあ、一人は神様だが、推理を聞いて、どう思った? 誰が正解だと思う?」
リゼは豆を手でキャッチしてから、すぐさま口に放り込み、ぽりぽりと噛み砕く。
「もちろん、誰も正解じゃないですよ」
行儀は悪いが、豆が口の中にある状態でリゼは言う。
貴族の令嬢だったのは遥か昔。今では時間に追われる記者としての生活で、食べながら喋るのも習慣になってしまった。
「ほお、何故だ?」
「だって」
ごくん、とリゼは口の中の豆を飲み下し、
「犯人はミサリナですから」