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 リゼも予想はしていた。

 というより、当然そうならなければ部下1が死ぬ結末になるはずがない。


「最初から整理すると、つまりこういうことだったはず。頭が切れるらしいから、発案者は部下1。その部下1が、部下2に今度の会合でアルベルトとアランを殺そうと提案した。その結果、巨大な組織を牛耳ることになって、部下2にもおいしい思いをさせてやる等言われた」


「けど、部下2は失踪する手はずのはずですよね?」


「そのはず。そうでなければ、部下2が犯人とされておしまいだから、部下2には事件の時に消えてもらわなくては困る。アランが殺されたことによって、部下2の失踪も被害者が失踪させられた、とも見えるようになるから。おそらく、部下2には、自分が組織を支配してほとぼりが冷めるまで消えてもらうとでも言っていたのだと思う」


「ほとぼりが冷めたら、部下2を復活させるってことですか?」


「そう」


 ううん、とリゼは唸る。そううまくいくだろうか?

 ただ、その時に部下1が組織を完全に支配していたら、たとえどれだけ怪しまれようとも部下2が現れることに異を唱える者はいないかもしれない。トリョラを部下1が完全に支配しているのだとすれば、ミサリナですらおいそれと追及できないはず。


「もちろん、部下1にはその約束を守るつもりはなかった」


「え」


「部下2は秘密を知る邪魔者。後でこっそり消すつもりだったはず。私ならそうする」


 あっさりと血の凍るような発言をするシャロン。


「ともかく、毒を用意したのも部下1。その毒を部下2に渡して、自分がコテージに閉じ込められている間にアランとアルベルトを殺害させるつもりだった」


「どうやって、アランとアルベルトに毒を? だって、二人とも見回りに来ていないんですよ?」


 つまり、ずっとコテージの中にこもれる立場だ。


「アランの方は問題ない。そもそも、アランのボディーガードという立場にあるのが部下2よ。それほど信用されている。ならば、部下2が話があると持ちかければ自分のコテージに招くくらいのことはする」


「じゃあ、アルベルトは?」


 そっちは、本来敵対している立場なのだ。

 何をしようともアルベルトはコテージから出てこないだろう。


「一番簡単な方法は、見回りをしていたら異常を発見した、という流れかな。話によると、見回り中に異常を発見したら全員を起こして回る、という取り決めになっていたとか。部下1のコテージの錠が壊れている、あるいはアランの様子がおかしい。そういった理由で異常だと全員を起こして回れば、絶対にアルベルトもコテージから出てくる」


「いやいやいや、そうなったらアルベルト以外も全員出てくるじゃないですか」


「そうだよ?」


「いや、だったら……」


「勘違いしているようだけど、本来の計画では別にコテージの中にいる標的を殺す予定ではなかったんじゃあない? 全員が出て、騒ぎになってから、扉を壊すために工具を取りに行ったり周囲に怪しい人間がいないか捜索したりとかといった中である程度個別に行動することもあるだろう。そこで、部下2がアルベルトを襲って殺し、そのまま失踪する。そういう筋書きだったのではないかと思っている。もちろん、こちらの方は時間差で殺す必要もない。そこらにある工具か何かで殴り殺す予定だったんだろう」


 リゼは想像してみる。

 部下1は閉じ込められ、アランはコテージの中で外傷なく死んでいる。病死かもしれないと考えられる死にざまだ。そしてアルベルトは誰かに殺され、部下2が失踪する。

 そうなると、『ペテン師』の組織に対するアランの組織の攻撃だとは、一見分からない。確かに、それならばうやむやのうちに事件は終わり、部下1がトリョラを牛耳る展開になるかもしれない。


「だが、部下2は部下1が思うほど愚かではなかった。あるいは、動物的な勘で気付いた。部下1が自分を利用するだけして切り捨てようとしていることに」


「だから、裏切ったってことですか?」


「そう。部下1が死ねば、自分が組織のナンバー2になるという短絡的な考えがあったのかもしれないが」


「ううーん……」


 準備していた毒を、部下1に打ち込む。そして部下1はそれに気付かず、予定通り自らを閉じ込める。

 ありうるのかもしれない、という気がリゼはしてくる。


「けれど、部下2のようなタイプがやることだから、おそらく細部が雑だった。だからこそ、他はともかく、『ペテン師』はそれに気付いた。気付いて……」


「脅したってことですか?」


「そう。そして、部下2を通じてアランを誘導した。『ペテン師』を恐れて、戦争せずに降伏するように。それをしながら、暴れん坊の部下たちが暴走しないように、自身は戦争を主張して、人望を集め、最終的にしぶしぶとトップに従う形にした。こうすれば、争いなく、組織の吸収が終了する」


 言葉を切り、シャロンは一度目を閉じて、


「それくらい『ペテン師』はする。あくどいことを考える敵を、逆に利用するさ」


 疲れたように息を吐き、目を開ける。目の力は既に消え、倦怠感が支配している。


「ともかく、これが私の見解。メモをした?」


「え、いや……」


 これは、取材ではない。だからメモなどしていない。

 リゼはあくまでもシャロンの無聊を慰めるために、足を延ばしただけだ。

 かつてシャロンがアインラードを牛耳る椅子から転げ落ちた時、シャロンを蹴り落した側にいたのがリゼだ。その時からの顔見知りでもあるので、何となく気をつかって興味のありそうな話をしに来ただけだ。

 もちろん、家の仇でもあるので、隙があれば今も折りたたんで背負っている棒で叩き殺してやろうとも思っているが。


「そう。メモをしていなくても、頭には入ったでしょう。それを、あなたの雇い主にも伝えておいて」


「……どうしてですか?」


「そうすれば、雇い主を通して『ペテン師』にも私の見解が伝わるかもしれない。彼に、私がまだ彼に興味を持っていることを伝えておきたくて」


 興味、と言う時にシャロンは片方の眉を少し上げる。

 もちろん、興味という言い方は穏便に過ぎるのだろう。殺気がまるで隠しきれていない。彼女も隠すつもりはないのかもしれない。


 もう興味をなくしたのか、シャロンはリゼに背を向ける。

 どうやら丘の下では兵が整列を完了したらしい。その兵たちへと、シャロンは足を進める。


「もし、伝えられるなら」


 振り向かず、シャロンは言う。


「これも伝えておいて。次は、絶対に勝つ」


 最後まで振り向かず手をひらひらと振りながらシャロンは丘を降りていく。


 リゼは、それを最後まで見送った後、大きく息を吐く。

 結局、最後まで隙はなかった。仇を討つのは、またの機会だ。

まだまだ続きます。

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