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 リゼが読み上げるメモを聞いただけで、どうして真相が分かるのか。

 半信半疑のリゼの戸惑う顔を見て、シャロンは笑みを深くする。


「あなた、その男の話を聞きながら妙だと思わなかったの?」


「さっきの、寝てたって話ですか?」


「違う。それはあの男の推測だ。奴の頭が悪いから推測が無茶苦茶になるのも仕方がない。そうではなくて、奴が事実として話していた内容よ」


 そう言われても、リゼには全く思い当たらない。


「部下の話よ」


「はあ、だから部下が殺されたんですよね?」


「そっちじゃあない。ええと、部下2か。生き残った部下の話」


「ああ、そっちですか」


「その耄碌した男……アランだったか、そのアランの部下、死んだ部下1ではなく、完全な護衛役、暴力要因として会合に連れてこられた部下2の話よ。彼の話が全く出てこないのが、妙じゃあない?」


「いやいや、結構出てましたよ、部下2は」


 慌ててメモをめくるリゼに、


「そういう意味じゃあない。アランが『ペテン師』に恐れをなして、『ペテン師』の組織にアランの組織が吸収されたって話の流れで、部下2が全然出てこない」


「ああ、それは、確かに。でも、それって当たり前じゃないですか? だって組織のトップがそういう判断したっていうのが全てで、そこに腕自慢の部下が出てくる余地があります?」


「分かっていないな」


 シャロンは指を振る。


「いい? そもそもアランの組織は荒くれ者の集団のはず。それが紛いなりにも組織としての体裁を為していたのは、一つはその死んだ部下1の器量、もう一つはトップのアランが、部下の誰よりも暴力的で向こう見ずだからのはず。つまり恐怖と、ある意味での尊敬で支配していた形になる」


「それは、まあ、そうかもしれませんね」


「あなたが取材した限り、アランが最後に派手に暴れようと『ペテン師』に戦争をしかけようとしていた時、別に部下が大反対して、ということはなかったわけでしょう? それひとつとっても、部下もアランと同じように血の気が多くて命知らずだということが分かる」


 今更ながら剣を鞘に納めて、シャロンは腹の辺りで白く長い指を組む。


「そんな連中が、トップが日和って戦争もせずに組織ごと誰かの下につくことを決めて、大人しく従うと思う?」


 なるほど、とリゼはいったん納得するが、


「離反者はぽろぽろ出たと思いますけど、大したことにならなかったから取材の時は割愛しただけじゃないですか?」


 その可能性はある。

 あくまで『ペテン師』についての取材なのだから、その辺りを省略する判断をしたとしてもおかしくない。


 だがシャロンは首を振り、


「核となる人物がいないのなら、小規模な離反で済むかもしれない。けれど、アランがその行動をとった時、失望した部下たちをまとめられる人物が存在した。組織の中で、アランと一緒に会合に出席するほどの立場で、単純な暴力要員としても組織の中でトップクラスだった人物。アランに失望した連中が集まるには十分じゃない?」


「部下2、ですか」


「アランの証言からしても、アラン以上に短気で暴力的なようだった。同じような連中からの人望は厚かったはず。その部下2が『ペテン師』に戦わずして下るというアランの決定に大人しく従うはずがない。そもそも最後に戦争をしようというのは元々は部下2の発案だったのだから。強固に反対して、そして多くの部下がそれに同調したはず。普通なら、そのままクーデターが起きてアランではなく部下2がトップになってもおかしくない」


「……確かに」


 言われてみれば、アランがいくら意気消沈して『ペテン師』の下につくと決めたとして、荒くれ者の集団がそれに唯々諾々と従うとは考えにくい。少なくとも最後に派手に戦争をする、と提案した部下2は従わないはずだ。


「そもそも、『ペテン師』がアランに話をしに来た時、部下2は戦争の準備でちょうどアジトにいなかったのでしょう? これも、ずいぶん都合のいい話だと思わない? もし部下2がその場にいたら、『ペテン師』が何か話す前に頭に血がのぼった部下2が『ペテン師』に襲い掛かっておしまいだったかもしれない」


「『ペテン師』が来た時に部下2がいなかったのは、偶然ではないと? まあ、『ペテン師』が事前に色々と下調べをしていた可能性はありますね」


「そういうレベルのことを言っているんじゃあない」


 ドレス姿だというのに、汚れるのを気にする様子もなく、近くの木の幹にシャロンんは寄りかかり、


「部下1が殺された事件、犯人は部下2だとしたら、どう?」


 そう言い放つ。


「は……え?」


 一瞬、シャロンの発言が理解できずにリゼはフリーズする。


「私は『ペテン師』のことをよく分かっている。少なくとも、やたらと恐れているそのアランとかいう男よりは。『ペテン師』は、邪魔者を殺すような短絡的な行動は起こさない。奴は、殺すのではなく罠に嵌めることを好む。私にしたように」


 何が面白いのか、またシャロンは笑みを浮かべる。


「相手の弱みを握って好きに動かすのを得意とする。アランを陥落させた後、当然組織の連中の人望が部下2に集まるのは予想できていたはず。いやそもそも、以前から組織の実権は既に部下2に集まっていた可能性すらある。老いて他の部下から距離のあるトップよりも、若く部下が親しみが持てるナンバー2の方が人望を集めるのはよくある話よ。ともかく、『ペテン師』がその無法者の集団を吸収するつもりだったのなら、部下2をそのままにしておくはずがない。彼こそ組織の核。彼の弱みを握ることこそがうまく組織を吸収できるかどうかの分岐点になる」


「その、部下2の弱みというのが……?」


「そう、部下1の殺害だとしたら、どう? 全てつじつまが合うんじゃあない? そもそもアランは『ペテン師』が全ての黒幕だと推測して恐怖して下につくことを決めたが、本当にそれは『ペテン師』との会話の中で推測したこと?」


「取材では、そのように――」


「記憶は嘘をつく。彼の記憶は長年の間に改ざんされている可能性がある。本当は、誰かと相談しているうちに、その誰かが誘導してそういう考えにしたんじゃあない? 『ペテン師』を恐怖するようになったのも、組織を吸収されるように決めたのも、誰かの誘導の結果だったとしたら?」


「その誘導をしたのが、部下2だと言うんですか?」


「他に誰が? 部下1が死んだ後、組織運営について相談できるのはその部下くらいのものでしょう。だから、何度も言うように、部下2を手中に収めていれば、『ペテン師』はアランの組織を好きに動かせた」


「だからといって、それだけで事件の犯人が部下2だとは言えないでしょう」


「当たり前じゃあない」


 シャロンは目を丸くする。


「もちろん、それだけじゃあない。部下2が事件の犯人だという根拠はね」

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