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本作、「ペテン師は静かに眠りたい」1巻が3/17発売です。

買っていただけると嬉しいです。

買って読んで面白いと思っていただけたら更に嬉しいです。

買って読んで面白いと思ってレビューや布教していただけたら更に更に嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

 殺気立っている俺たちの中を、ゆっくり、ゆっくりとな。

 平然とした顔をして歩いていたよ。『ペテン師』はまあ、半分以上死んでいるような状態だから、別に恐怖もなかったのかもしれない。


 俺たちの組織がアジトに使っていたトリョラの飯屋の二階、俺の正面に『ペテン師』はどっかと腰を下ろして、笑いかけてきた。今も、あの笑い顔を思い出す。目がまるで洞のような笑い顔をな。


「誤解があるみたいだね」


 開口一番そう言われたよ。


「君らの組織と揉めるつもりなんてない。会合の場で彼が病死して君らの組織が打撃を受けているのは分かっている。どうだろう、協力できないかな?」


 はっきりとは覚えていないが、大体こんな感じのことを言われた。

 ああ、そりゃそうだ。協力なんぞと言ってはいるが、実際には俺たちの組織を吸収したいってだけだ。


「それにしても彼は残念だったよ。正直なところ、引き抜きたいくらいに有能な人物だったのに」


 白々しく言う『ペテン師』に唾を吐いてやりたい気分で、俺は煙草をくわえた。


 その煙草に火がつけられた。

 ペテン師によって、だ。奴が持っていたマッチで俺の煙草に火をつけたんだ。


 俺はな、ぞっとしたんだ。

 奴の素早さに、だ。煙草をくわえた瞬間、既にマッチの火がついていた。

 どういう意味か分かるか?

 素早い、というのは正確じゃあない。奴は、俺が煙草を吸うタイミングを読んでいた。俺が煙草を取り出そうと懐に手をやった時には既にマッチを擦っていたくらのスピードだ。

 下らんことだと思うか?

 だがな、こっちは喧嘩屋だ。殺し合いで、先を取ることがどれだけ重要かなんて身に染みて分かっている。気付かれないうちにマッチの火をくわえている煙草につけられるなんてな、俺にとっては「いつでも殺せるぞ」と言われているのと同じだ。


 しかも、奴のマッチ、臭いに特徴があってな、すぐに分かった。近くにある、俺の行きつけの酒場のマッチだ。偶然のわけがない。俺の生活なんぞ調べ上げていると、そう言いたいんだろうさ。


 相変わらず、死人の顔に笑みを浮かべたままでな、そんなマネをしてきやがった。


「それにしても何故彼は錠に釘を突っ込んだりしたんだろうね」


 そして、『ペテン師』はそう言った。


 ああ、そうだ。明らかにおかしいよなあ。

 釘。なるほど、確かに言われてみれば、そうだ。本館には工具が置いてあった。そこに、小さい釘もあったかもしれない。それを無理矢理鍵穴に押し込んだら、ちょうどああなるかもしれない。

 だが、俺たちは誰もそれが釘だとは気づかなかった。どうして『ペテン師』がそれに今になって気付く?

 気付いたんじゃあないのかもしれない。俺はそう思った。

 分かるだろう?

 知っていたのを、今、あえて口に出したんじゃあないか、そう思ったんだ。


 そうだ。知っているっていうのは、つまり。

 錠に釘を押し込んだのは、やはり『ペテン師』だったってことだ。


 うっかり、口を滑らせた?

 まさか、あの『ペテン師』がそんなタマかよ。


「あんなに元気そうだったのに急死するなんて、お互い健康には気を付けないとね」


 そう言ってマッチをしまいながら、薄ら笑いを浮かべる『ペテン師』を、殺すつもりで睨みつけてやったよ。

 この俺をこんな露骨に脅すなんて、なめられたものだと思ってな。その場で殺そうかと迷った。


 だがそんな俺の殺気、そして周囲の部下の殺気をまるで無視して、『ペテン師』は話を続けた。


「よくないよ、疑心暗鬼は。仲良くしないと。あの事件さ、ひょっとしてそれが原因で起きたんじゃあないかって思ってるんだ」


「どういう意味だよ」


 当然、俺は聞き返した。

 まあ、普通に聞けば、あれだ、お前らの組織がおとなしく下につかないと、あの部下みたいに全員死ぬことになるぞと、そういう意味だからな。

 もちろんその脅しの意味もあったんだろうが、だが続く『ペテン師』の言葉は予想外だった。


「ミサリナが信用できなくてさ、合鍵があるんじゃないかって疑ったんじゃないかな、彼。それで、合鍵を持っていても入れないように内側から錠を壊した。いや、実はね、会合の直後の自由時間で、冗談でそんなようなことを彼の前で言ってたんだよね、俺。ひょっとして、それが頭にあったんじゃあないかと思って」


 そんなことを言い出した。

 俺は混乱したな。どうしてそんなことを言い出すのか。同時に、何か分からないが、頭の中でぼんやりとしたものが形になっていくのを感じた。


「お前が、殺したんじゃあないのか?」


 言ってみた。どうしても、我慢できなくてな。


「まだそんなことを言ってるの?」


 しらじらしく、大げさすぎるほどの驚いた顔をして、


「何か仕掛けを使ってってこと? 大体さあ、今思えばだけど、外から仕掛けを使ってうまく内側から錠を壊す方法があったとして、あったとして、だよ? それで作業をしておくのって危険すぎない? 俺、そんな危ないことしないよ。だってさ、時計は各コテージにしかない。見回りは一時間に一回。ほら、何かに集中しているうちに時間が経つのを忘れることってよくあるでしょ。外で作業しているうちに思ったより時間が経っても、気づけない。そのうちに見回りが来たら発見されちゃうよ」


 あえてだろう、『ペテン師』は、一言一言区切るようにゆっくりと、その後の言葉を続けた。


「見張り役でもいれば別だろうけどさ」


 明らかに、何かを遠回しに伝えようとしている。俺にだってそれくらいは分かった。


「にしても、今、あの部下はいないの? 会合に一緒に来てた、もちろん生きている方だよ」


「あ、ああ。出かけている」


 そう誤魔化したが、本当は奴は戦争準備のために駆けずり回っていた。


「そう、あいつの言った説はびっくりしたよ。見回りの時に、すれ違いざまに毒を打ち込む、だっけ。否定のしようがない。本当に、びっくりした」


 笑みを消して、ひんやりとした目でそう繰り返した。


 その途端、俺には全て分かった。ようやく気が付いたんだよ。奴の言いたかったことが。

 事件の真相も分かった。


 どうだ、記者さん、分かったか?

ちなみに、この話は真面目に推理したら駄目です。

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