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 どうだ、何か思いついたか?

 ……本当に病死だった? ったく、記者だってのに想像力がねえな。『ペテン師』に言い包められるぞ。

 いいか、あの部下は別に病持ちじゃなかった。夕食の時は普通だったしな。大体、会合の時に偶然死ぬかよ。


 とにかく、第三者はない。そう、そんな凄腕を雇うツテはなかった。会合の場が一番の殺すチャンスとなるから、つまり『ペテン師』かアルベルトが直接殺すしかないからこそ、この会合で殺った。そうとしか考えられない。


 ミサリナにともかく錠についての情報をもらったが、聞けば聞くほど錠は簡単に開く代物じゃあなさそうだった。詳しいことは分からないが、どうも内部的には三重になっているらしくてな。まず第一関門を突破するのに、プロの錠前破りでも数時間はかかるそうだ。それが二つ目、三つ目とあるわけだ。熟練したプロが半日がかりで付きっ切りになればいけるかも、くらいのものらしい。もちろん、付きっ切りになれば見回りの時に俺の部下に発見されるから、なしだ。そして開錠作業を一度中断すると、もう一度最初からになるらしい。とても無理だ。

 あのドアを鍵無しで自由に開け閉めするってのはどうも考えられない。


 悩んでいたら、俺の部下、あの暴力要員が、はっとした顔をしてな、俺に言ったんだ。必死に考えれば馬鹿でもいろいろ考えるもんだよな。


「カシラ、何も難しく考えることはありません。夕食じゃない時に毒を打ち込めばいいんです」


 言われてみりゃそうだわな。それこそ見回りの場で、すれ違いざまに毒針でも打ち込めばいいだけの話だ。コテージに戻って内側から施錠してから、寝ているうちに死ねばそれで密室完成だ。


 意気込んでそれを『ペテン師』にぶつけてみたら、さすがにそれを即座に否定する材料はなかったみたいでな。これが正解だ、と俺たちは確信して、さあどう落とし前をつけさせてやろうかと舌なめずりした。


 証拠?

 言っただろう、ある程度筋が通っていれば、それでいい。犯罪組織同士のもめ事だぞ、証拠なんぞいるかよ。


 ところがな、妙な話になった。

 そもそも錠がどんな状態なのか一応確認してみてくれ、と『ペテン師』が言った。悪あがきを、と思いながら調べてみたら……妙なことが分かったんだ。


 錠が、壊れていた。

 いや、そりゃあ、扉をぶっ壊して開けたが、それじゃあない。そういうことじゃあなく、錠自体が壊れていたんだ。

 鍵を使っても、開けることができなかった。

 ああ、こじ開けようと色々した時に壊れたとか、そういうことじゃあねえぜ。必死で叩いたりねじったりしていたが、それで壊れたんじゃあない。何故かって? 実は、壊れていたというのは正確じゃあなくてな。鍵穴に小さな鉄の棒みたいなものが突っ込まれて、それが中で引っかかって開かなくなっていたんだ。異物が中で悪さしていたんだよ。

 てっきり、鍵がかかっているんだとばかり思っていて、その時までまさか別の理由で開かないとは思ってなかったんだ。


 ん? どうして簡単な話になる?

 ああ、ああ。そうか、そうか、なるほどな。

 見回り中に俺の部下を殺して、コテージに運び込んで、中に鍵を入れて扉をしめてから、その錠に異物を入れると。なるほど。

 そうだな、そうすれば密室になる。

 だが、残念ながら、そういうわけにもいかないんだ。俺の説明が足りなかったな。

 つまり、その、異物だが。


 突っ込まれていたのは、明らかに内側からだったんだよ。意味が分からないだろ?


 俺らは全員で顔を見合わせたな。言い出した本人の『ペテン師』ですら妙な顔をしてた。

 これで話は振り出しだ。

 妙すぎて、何が妙なのかすらよく分からなかった。


 アルベルト、あのガキ、こういう時にも冷静でな。おまけに頭が切れる。

 そいつが状況をぶつぶつと呟きながら整理してた。その時の呟きは今でもはっきり覚えてる。ありがたかったからな。こっちがわけわからないところを、あのガキが整理してくれたからよ。


 いつ、錠がそうなったのか、そのタイミングが問題だとよ。

 つまり、部下が殺される前か、後かだ。

 部下が死ぬ前に錠がそうなったのなら、ああ、どういうことか分からないが部下が自分で錠をそうやったことになるよな? 訳は分からねえがな。だが、そうすると鍵を持っていたって、そのコテージには入れないことになる。


 もし部下を殺してから『ペテン師』が、まあ別に『ペテン師』じゃあなくて誰だろうと、ともかく犯人が内側から錠を壊したことになる。そうしたら、一体そいつはどうやってコテージを出るんだ?


 こういう問題だって、アルベルトは整理していたな。今考えても、確かにそうだと思う。この考え方に間違いはないだろう、とな。どうだ?


 ああ、そうだよな。間違ってないはずだ。

 けどな、どっちのパターンも、結局、あの扉以外に出入りする方法さえあれば解決する。


 探したよ。隅々までな。鉄格子が取れないかとか、秘密の出入り口があるんじゃあないかとか。


 なかったな。まるでダメだった。あの錠でロックされている扉を通らずにコテージに入る方法はない。断言できる。今でもな。


 ん?

 ああ、そうだ。

 殺された部下っていうのは頭が切れる奴だった。そんな、訳のわからないことをするような奴じゃあない。異常なところなんてなかったぜ。度胸もあった。

 ああ、ああ。そうだ、そんな、被害妄想に取りつかれてとか、怯えて錯乱して、とかありえない。


 こんな訳の分からない状態で、とにかくてめえがやったんだろうといちゃもんつけるわけにもいかねえだろ。特にその場合、ミサリナが黙ってない。

 もうミサリナにしてみりゃ、部下が突然訳の分からないことをしてその後突如病死したって結論にしたくてたまらないわけだからな。実際、それを言われてもそんなわけがないと反論できねえ。じゃあどういうことなんだと言われたら、返す言葉がないからなあ。


 がんじがらめだ。

 部下を殺されたまま、部下が錯乱して勝手に死んだって結論で黙ってろというのか。はらわたが煮えくり返ったよ。だが、どうしようもない。


 一方、『ペテン師』側はこれで殺人じゃあないと決まったと安心しきった様子だったな。

 アルベルト、あのクソガキなんてあくびしてやがったよ。まあ、話がどうにも進まずに全員黙り込んで時間だけが経っていったわけだから、気持ちが分からんでもないがな。

 『ペテン師』は「見回りしていた俺よりどうしてお前の方が眠そうなんだ」と口を尖らせていたっけなあ。


 真相?

 分からずじまいだ。その時はな。結局、もやもやしたままでトリョラに戻ることになった。

 うちの組織はもう終わりだろうな、と思いながらな。

 残った部下、部下2の方だな、あいつは、トリョラに戻ったら『ペテン師』の組織に戦争を仕掛けようと帰りの馬車の中で言ってきた。俺も、それもいいかと思ったよ。どうせ潰れるなら、派手にいこうかと思った。


 どうしてそうならなかったかって?


 戦争準備を秘密裏に進め始めた矢先、会合の二日後だったか。

 『ペテン師』が、単身うちの組織まで乗り込んできた。

 俺に話があると言ってな。


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