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3/17「ペテン師は静かに眠りたい」が書籍化されますのでよろしくお願いいたしますということで、それに合わせてなるべくならこの番外編は毎日更新を目指します……としていたのですが、それと引き換えに一回一回の分量が少なめになってしまいました。すいません。
部下の二人は、交互に見回りを担当する約束になっていた。殺されたのを部下の1、生きている方を2とすると、零時、二時、四時、六時が1の担当。一時、三時、五時、七時が2の担当だ。
向こうの担当はさっきも言ったが『ペテン師』だけだ。そして、『ペテン師』はずっと異常を知らせていない。つまり、1は六時の時点まで問題なく見回りをしていたわけだ。
ああ、そうだ。もちろん、『ペテン師』が嘘を言っている可能性はある。実際、俺はそれを疑ったよ。
疑うだろう、それは?
あいつが嘘をついていたら、誰にもばれない。その場合、当然、殺したのは奴だ。
……動機か。もちろん、ある。
殺された部下、その1だが、そいつはこの会合に連れてきていたことからも分かるように、俺の腹心の部下だ。片腕と言っていい。
実際の話、うちの組織は俺に似た、ロクでもない連中ばかりだった。腕っぷしだけが自慢の、暴れ者の集団だよ。暴力と脅しにものをいわせて、強引にトリョラでしのいでいたのがうちの組織だ。
その組織の中で、唯一と言っていい頭が使えるのが、その部下でな。組織が好きに暴れまわった挙句にぶっ潰れることなく、『ペテン師』の組織ともぎりぎりで一線を越えていないのは、全てその部下1がいたからこそ、と言ってもいい。そいつが死ねば組織は大打撃で、いずれ暴走することは分かり切っていた。
そうだ。うちの組織を潰す、それを狙っていたんじゃあないかと思っていた。いや、今も思っている。
問い詰めたよ、『ペテン師』共をな。俺はもちろんだが、部下の2は俺のボディーガード代わりに連れてきた、うちの組織の中でも一番の腕を持っていて、かつ一番に凶暴な男でな、そいつもいきりたっていた。もう、一瞬即発というやつだ。
だが、『ペテン師』は落ち着いていた。死人のように。横のアルベルトも平然としていたよ、ガキのくせにな。
うん? ……ミサリナは、静観していたな。奴としても、自分の顔に泥を塗られた形だったから、さっさと解決してほしかったんだろう。どちらかが殺されるとしてもな。
『ペテン師』は、だが、いきり立って問い詰める俺たちにこう言った。
「嘘をついていたとして、どうやって殺す?」
そうだ。確かに、ドアには鍵がかかっていた。そして、その鍵はコテージの中に入っている。密室だ。
鍵は、ベッドの傍にあった。さっきも言ったが、窓からベッドは狙えない位置にある。例えば、殺してから鍵を持って部屋を出て扉の鍵をかけておいてから、窓から鉄格子を通して鍵を投げ込む。これはうまくいかない。鍵のサイズからして鉄格子の間をぎりぎり通るくらいでな、無理やりにねじ込むような方法じゃあないと部屋の中に入れられない。だから、その方法では窓の傍に鍵が落ちることになる。鍵はベッドの傍にあったんだ。全力で鍵をぶん投げて壁に二度くらい反射したならうまくベッドの傍にいくかもしれないが、なあ。
そして、『ペテン師』は病死なんじゃあないかと主張してきた。外傷はないし、眠っているまま死んでいるようにベッドにも姿勢にも乱れはない。部屋が密室だったことも考えれば、なるほど、確かに、一番もっともらしい。
更に、これがいやらしいところなんだが、その主張が出た途端に、ミサリナは全力でそれに同意してきた。それはそうだな。それなら、あいつに落ち度はないことになる。ミサリナの仕切りが悪かったって噂も出回らない。
もちろん、そうですかとこっちは納得することはできない。自然と、『ペテン師』とアルベルトとミサリナ、そして俺と部下という二つのグループに分かれて、どんどん場の雰囲気は険悪になった。部下なんぞ爆発寸前だ。
動機の面だけじゃあない。俺たちが『ペテン師』を疑っていた理由はもう一つある。確かに、見た目は病死に見える。だが、毒を盛られた、あるいは打ち込まれたという可能性がある。知っているだろう? 『ペテン師』は、よく毒を使う。アインラードの戦争でも多用していたし、それ以前に自分に半死半生になるくらいの毒を塗ってある針を刺させたって噂すらある。まあ、この噂は支離滅裂だから根も葉もないんだろうが、そんな噂があるくらい毒を得意の手段にする奴だってことだ。
だが、密室の話に説明をつけなければ、これ以上何を言ってもしょうがなかった。強引でもいい。密室に説明がついてそして『ペテン師』が殺したのだという話にさえすれば、正面きって奴らとモメれる。だから、俺たちは足りない頭を絞って方法を考えたんだ。
……へえ、そうか。よかったら聞かせてくれ、あんたの言う方法を。
はあ、はあはあ。なるほどな。くく、そうだ。それも考えた。
俺が、俺たちが考えた方法は三つ。そのうちの一つは、あんたの言ったそれだ。
夕食に遅効性の毒物を盛る。
第一に考えるのはこれだよな。俺たちもそうだ。はは、残念だったな。別に名案でもなんでもない。
夕食に毒を盛られた後、鍵をかけてコテージの中で寝ている間に毒が効いてくたばる。こうすれば密室は完成だ。
そう、話の流れから分かるだろうが、これは否定された。
まず、夕食は用意したのがミサリナだから、事前に毒を混入させられる可能性は低い。
加えて、そもそも俺たちは険悪な関係だったというのがある。つまり、互いに毒を盛るなんてことがないように事前に警戒した流れになってたってことだ。食器は各自が自由に取るし、料理はどれも一つの大鍋から好きにとる形式になっていた。誰かだけが食べない料理や逆に誰かだけが食べる料理はないようになっていたんだ。酒なんかも同様だ。
色々考えてみたが、どうしても毒を狙ってあいつに盛る方法が思いつかなかったんだ。
じゃあ他にやりようはないか。
そう考えた時に、次に出てきたのは、第三者説だ。
第三者というか、つまり、『ペテン師』が凄腕の暗殺者を雇って殺したんじゃあないかと言う話だ。世の中は広い。
あの鉄格子ごしに、魔術か何かで部下を殺せる殺し屋がいるかもしれない。あるいは、鍵開けの得意なプロを雇ってコテージに侵入、殺害してまた鍵をかけたのかもしれない。
当時、『ペテン師』の組織はかなりの力と金を持っていた。それに、元々は凄腕の殺し屋……あの『見世物』タイロンを雇っていたという話だった。そいつらの力を借りれば、可能だ。
そう言ってやったよ、『ペテン師』に。
奴は全く慌てていなかった。それどころか薄ら笑いを浮かべてな、こう言うんだ。
「そんな凄腕の知り合いはいない。もしいたとしたら、そんなことをする必要がどこにある?」
とな。
一瞬、何のことやら分からなかったが、よく考えてみれば奴の言う通りだ。
そんな凄腕を雇うツテがあるなら、どうしてこの会合の場で殺す? 会合の場でこちら側に死者が出たら、『ペテン師』が疑われるのは目に見えている。そもそも、この会合の場ではいつも以上に全員が警戒した状態だ。その状態で殺せる、凄まじい腕のプロを雇えるなら、『ペテン師』はそいつを雇って会合じゃあない場で暗殺するよう依頼するだろう。こんな状況下で暗殺を成功させるのより、そちらの方が難しいとも思えない。
俺たちは相当乱暴な仕事をしていたから、敵は多い。もしも、普通にトリョラにいる時にその部下が死んでいたら、俺たちは絶対に『ペテン師』の仕業だ、とは確信しなかっただろうぜ。
これが、第三者の凄腕が雇われたりってことは考えにくいってさっきから再三言っていた理由だ。
3/17の書籍発売についてですが、
なんと、初回特典があるそうです。
岡谷先生のイラストカードだそうで、いいですねー。
詳細はこちらなので、よろしかったら是非ご確認を。
http://herobunko.com/news/6467/