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3/17「ペテン師は静かに眠りたい」が書籍化されますのでよろしくお願いいたしますということで、それに合わせてなるべくならこの番外編は毎日更新を目指します……としていたのですが、それと引き換えに一回一回の分量が少なめになってしまいました。すいません。

 登場人物の紹介は済んだ。ミサリナが絶対に犯人じゃあないというのも言った。ああ、ちなみに、当然俺も犯人じゃあない。

 で、第三者もありえない。あの場所に第三者はいないはずなんだ。それは後で分かる。前も言ったか?


 とにかく、犯人は俺の部下か、『ペテン師』か、アルベルトか、この三人に限られるってことだ。

 え、部下は二人? いや、一人は被害者だから……ああ、ああ、分かったよ。確かに説明がまずかったな。分かった、順を追って話す。


 事件の話か。だが、その前に話しておくことがある。登場人物の話の次は、舞台の話だ。場所だな。


 さっき軽く説明したが、もともとはパインの奴の別荘だった。家族や友人、そういう真っ当な連中を連れて来るためのな。だからなかなか豪勢だ。おまけに、家族を何組も招待する用だから、離れって言えばいいのか? 小さめのコテージみたいなものも沢山あってな。


 だから、会合の時は、それぞれ個室、どころの話じゃあない。それぞれがそのコテージを一つずつ与えられるんだ。贅沢だろう?


 別に呼び方は決まっていなかったが、話しにくいから、でかい別荘の本体を本館って呼ぶとだな、そのコテージは本館の周りに八つあった。といっても、使われるのはそのうち六つだけだ。『ペテン師』、ミサリナ、アルベルト、俺、部下その1、その2だ。

 食事と会合は本館で行われ、その後はそれぞれコテージに帰って就寝。次の日に組織ごとに時間をずらしてトリョラへ帰還。そういう流れだ。


 コテージはどこも同じ造りでな、馬鹿みたいにでかいわけじゃあない。小さめの一軒家ってなもんだ。そして、ここが重要なところなんだが、今俺たちがいるこの場所、この小屋のように入りやすくはない。

 っていうのも、とにかく不穏な感じの集まりだろ? 俺たちはよ。だから、寝込みを襲われて、とかあり得ないわけじゃあない。だからそれぞれのコテージが入りやすいようだと、安心して寝れないわな。

 だからミサリナによって、その会合が始まった当初に、コテージは改造されていた。窓には鉄格子がはまっているし、ドアには特別製の錠が取り付けられた。頑丈で、複雑なやつだ。熟練の盗賊でもピッキングして開けるには相当手こずるレベルらしい。


 鍵は複製できず、それぞれそのコテージで泊まる奴だけが持っている。つまり、そのコテージの主が内側から施したら、誰も入れないわけだ。少なくとも、入るのは難しい。

 おかげで安心して眠れる。そのはずだった。


 ああ、また話が前後した。悪いな、人と話すのは本当に久しぶりで、話し方を忘れちまったよ。


 まだ説明すべきことがある。見回りだ。

 鉄格子で窓を防ごうとも、扉を開けなくしようとも、殺すことはできる。窓の外から矢で寝ている奴を撃ち殺したりはできない構造になっている。ベッドは窓からは見えない場所にあるからな。

 だが、例えば毒。食事に混ぜたんじゃあない。ガスだ。俺は詳しくないが、毒ガスを出す方法ってのがあるんだろう? ああ、そうそう、それだ。化学反応だったか。それで、出せるんだろ? だから、毒ガスを部屋に充満させりゃあ殺すことができる。

 そんなことができないように、持ち回りで夜中、それぞれの組織から一名ずつ出して、二人一組で見回りをするって決まりになっていた。一時間に一回だ。俺は部下に任せていたが、向こうはずっと『ペテン師』が見回りをしていたようだ。どうも、夜、眠れないから、ちょうどいいんだとよ。本当か嘘か、悪夢ですぐに飛び起きるから一時間以上連続して眠ることができないなんて言ってやがった。


 今思えば、『ペテン師』のそれは嘘なんだろうと思うぜ。自分が気の小さい人間だと、アピールしていたんだろうよ。


 それはともかく、見回りが一時間に一回行われるって話だったな。

 見回りについて詳しく話すと、それぞれのコテージには備え付けの時計がある。そうだ。豪勢だろう? 貴族連中しか持っていない時計だぞ。それがそれぞれのコテージにあるんだ。

 決められた時間になったら見回り担当は外に出る。で、俺たちの組織の方は右回りで一周、『ペテン師』の組織は左回りで一周、ゆっくりと歩いて見回りするんだ。それぞれのコテージをな。何も異常がないかどうかを、だ。

 そうすれば途中で必ずすれ違うことになる。すれ違わなかったら、異常発生ってことで全員起こして回るって決まりになってる。だから、担当の奴が寝坊して見回りをさぼりでもしたら、大目玉だな。はは。


 ああ、そうだな、不思議だろ、この決まりは。

 はは、そうそう、そういうことだ。もし二人で一緒に回っていたら、そこで揉め事が起こる可能性がある。そもそも、そんな会合を一週間に一度行わないと全面的な抗争に発展しかねないほどの関係性なんだからな、俺らと『ペテン師』は。


 その日の会合は大体二十三時には終わって、それぞれコテージに戻った。それから翌日の八時に一応起床で朝食を食べる予定だ。そう、さっき言わなかったが、朝食も一緒に食べる。出発する時間はばらばらだがな。


 だから、あの晩は見回りが全部で八回行われたはずだ。そして、特に異常はなかった。


 そして、朝。

 本館に集まって、朝食を前にしてテーブルを囲んだ俺たちは困惑していたよ。


 俺の部下の片方が、起きてこなかったからだ。


 ドアをノックしたりもしたんだがな、結局、コテージから出てこない。

 俺たちは相談の結果、錠を壊すことにした。『ペテン師』の提案だった。

 だがな、さすがだ。俺たちがいくら試行錯誤しようとも、開錠できない。二時間かそこら粘って、壊すつもりで挑戦したが、びくともしない。

 最終的に、本館の倉庫にあった工具で、錠ではなくて扉自体を破壊したよ。


 こじ開けた扉の奥に、ベッドがあって、そこで部下の一人が寝ていた。


 まあ、分かるだろ? 話の流れから、どうなっていたのかがな。


 死んでいたよ。外傷はなかった。パッと見た限りはな。だからまるで眠っているようにも見えたが、肌の色で息絶えていることは分かった。


 そして部屋の中には、そのコテージの鍵があった。


 部下の死体よりも死体みたいな顔をしている『ペテン師』が、その時、妙に面白そうな顔をしてな、俺に囁いてきたんだ。


「これは、密室殺人だよね」


 そう言っていた。


「ミステリみたいだ」


 とも言っていたな。未だに意味は分からない。まあ、当時からシュガーでラリっていたから、意味の分からないことを言っても別におかしくはない。


 当然、俺たちは犯人捜しを始めた。

 だがな、話し合えば話し合うほど、妙な状況なのが分かってきた。


 誰にも、そいつを殺せるわけがなかったんだ。

3/17の書籍発売についてですが、

なんと、初回特典があるそうです。

岡谷先生のイラストカードだそうで、いいですねー。

詳細はこちらなので、よろしかったら是非ご確認を。

http://herobunko.com/news/6467/

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