18
番外編の「瓦礫の王は勝ち続けたい」のエピローグになります。
椅子に座ったまま眠っていたリゼは、はっと飛び起きて周囲を見回す。
夢を見ていた。随分、懐かしい夢を。
「うぉっ、なんだ、どうした?」
その動きに驚いたのか、向かいのソファーに横になっていたツゾが上半身を起こす。
「あ、ああ、ごめんごめん。寝ぼけてた」
「けけっ、ひょっとして怖い夢でも見てたのかよガキだな。ひょっとしておねしょをし」
言葉の途中で、棒で殴られてツゾはソファーに転がる。
「あんたが、ふかふかだった時の夢よ」
「ふかふか? ああ、ルオの時の話か。随分、懐かしい夢を見たもんだな、ええ?」
再び眠るのを諦めたらしく、ツゾは体を起こしてソファーに座る。
夢の中とは違い、ツゾの体はふかふかしていない。最近は、組織の裏工作を仕切る立場にいるツゾは常に毛は薄汚れている。幾分か痩せたようにも見える。
リゼも、睡眠を再開するのをやめて伸びをして、椅子に座り直す。
二人がいるのは、あの頃と同じ、ベルンの閉店してある酒場に勝手に作ったアジトだ。結局、組織がいくら大きくなろうと、人脈がどれほど広がろうと、そして資金が潤沢になろうと。組織自体がアンダーグラウンドであることには変わりはないので、未だにこの場所を使っている。様々な調度品を持ち込んだので、その分少し豪華にはなったが。
「ああ、まだ昼じゃねえか」
板を打ちつけられた窓から漏れる光を眺めて、ツゾが大あくびをする。
最近、特にきな臭くなってきたアインラード。戦争間近だというのが肌で感じられた。ノライ独立戦線とかいう組織が暴走しつつあるのが直接のきっかけではあるが、もちろんそれがなくともアインラードとロンボウはどうせ戦争に突入するだろう。
ともかく、リゼたちはそういうわけで、最近は騒がしくなったアインラードに火事が起きないように水をかけて回り、戦争を引き延ばすためにありとあらゆる手段を取っていた。なりふり構わず、だ。
そのおかげで最近はツゾもリゼも昼夜問わず暗躍して、アジトで眠れる時に眠るという生活をおくっている。かなり不規則な毎日だ。
「おっと、ちょうどいい。二人とも起きているのか」
突然声をかけられて、リゼとツゾは二人してその声の方向へ顔を向ける。
闇からにじみ出てきたかのように、いつの間にかアジトの隅にヒーチの姿がある。相変わらずの神出鬼没だ。
「おい、城主の仕事はどうしたんだよ?」
「部下に任せた。最近、ようやく部下も育ってきたからな」
つかつかと歩み寄ると、そのままヒーチはソファーのツゾの横に腰を下ろす。
「で、どうしたんです、ヒーチさん」
何の用もなく、城主の仕事をさぼって昼からアジトに来るとは思えない。リゼの質問に、ヒーチは首を回して、
「多分、終わった」
ぽつりと、一言だけ言う。
「え?」
その言葉自体の意味を理解するのに数秒かかる。
終わった。何が? つまり、今やっているもろもろが。
「ああ、じゃあ」
ふっと、諦観がリゼの全身に広がる。
「始まるんですね、戦争が」
沈黙。あのツゾまでもが、沈痛な表情をしている。
だが、ヒーチはぽかん、とした顔をしてリゼを見ている。どうも、「ああ」と答える雰囲気ではない。
「……あれ? ひょっとして、違うんですか?」
「当たり前だろう。俺は戦争をさせないように動いている。それなのに戦争が始まってしまえば、それは俺の負けだ。まさかお前、未だに俺が負けると思っているのか?」
傲岸でもなく高慢でもなく、ただただ純粋に怪訝そうにそう質問してくるヒーチ。
「戦争は回避される。だから、俺たちのこの仕事も終わりということだ」
あっさりとそう言うヒーチを、呆然とリゼは眺める。
「おいおいおい」
先に口を開いたのはツゾだ。
「ちょっと待てよ。何が、どうなってそうなったんだ?」
「具体的には、ノライ独立戦線とロンボウ中枢、というよりハイジが協定を結んだという話があっただろう?」
「ああ、あのデマだろ?」
「そう。あれがデマじゃあないことが判明した」
「はあ!?」
思わず声を出すツゾ。声には出さずとも心情はリゼも同じだ。
あまりにも、ありえない噂。だからこそ、デマだと断定して、その前提でリゼもツゾも動いていたのだが。
「正式なルートで城にも話が来た。これで、シャロンの奴が計画していた、ロンボウの内戦を防止するための出兵って話はなくなった」
「馬鹿な、どうやって、あいつらが協定なんて結べるんだよ。一体、誰が間に入って……」
そこまで言ったところで、ツゾは顔の右側を歪めるようにして嫌な顔をする。凄く、嫌な顔をする。
「まあ、そうだろうと俺も思う」
対照的に、にやにやと珍しく締まりのない表情をしたヒーチが言うと、ツゾはただ唸る。
リゼには、そのやりとりの意味がよく分からない。だが、ともかく。
「だからって、終わりって話じゃないでしょう。あの戦争狂のことです、すぐに別の理由を見つけて戦争を仕掛けるに決まっています」
シャロンは、『勝ち戦の姫』は、もはや目的と手段が逆転しているというのがリゼの評価だ。何かのために戦争を仕掛け、そして勝とうとするのではない。勝ち戦をするために、理由を見つけようとしているのだ。
「ああ、だが、次の戦争の理由を見つけるのは間に合わない。これから、アインラードのパワーバランスはシャロン一強ではなくなるからな」
「え、だって」
皇帝からの寵愛、戦争に勝ち続けたことで得た国民からの支持。それを持つシャロンの対抗馬など、いないはずなのに。
「テイト3世だ。これから、テイトが皇帝の後継者争いの有力候補に躍り出ることになる」
ヒーチが出したのは、アインラード皇帝の末子、それも側室の子であるまだ齢十にも満たない少年の名前だ。一応は、シャロンの弟ということになる。
「確かにテイトを持ち上げようって動きはありますよ。神輿にするにはいいでしょうからね。でも、テイトを担ごうなんてしてるのはシャロンとの付き合いで下手を打って後がない一部の貴族や官僚です。とてもじゃないですけどシャロンの権勢に対抗はできません」
「ルオからの資金で復活させ、そして拡大させたお前のルート、そいつらをテイト派に入れさせればいい」
「それでも全然かないませんよ。大体、いくらぼくが頼んだって負けると分かってる馬には賭けません」
「負ける馬ならな。勝てばいいだろ? だったら簡単だ」
余裕のある態度を一切崩さず、ヒーチは言い放つ。
「……何か、知っているんですか?」
「というより、ようやく俺の努力が実ったということだ。なあ、リゼ。皇帝、というよりアインラードが今、最も恐れていることはなんだと思う?」
そう問われて、リゼは考える。普通は自国以外の唯一のエリピア大陸の超大国であるロンボウ、のはずだが、そもそもそのロンボウとの戦争を望む空気が蔓延しているのが今のアインラードだ。
何故、そこまで国民も皆、戦争を望んでいるのか。答えは簡単で、勝つと思っているからだ。
その理由は、一つは『勝ち戦の姫』の存在。もう一つは。
「あっ」
答えが見つかる。
「サネスド帝国、あそことの関係がこじれることですか?」
「御名答」
ぱちっ、とヒーチは指を鳴らす。
「あの内戦起こして、帝国なんだか帝国じゃないんだかよく分からない国だ。代表者が常にころころ変わる不安定な、しかし強大な国。何だかんだ言いながら、そのサネスド帝国と同盟関係を何となくではあるが続けている、そこにアインラードの強みがある。ロンボウとの戦争に自信を持っているのはそれが大きいだろうな」
「はあ」
だが、この話がどこに向かうのかまだ分からず、リゼは生返事をする。
「そのサネスド帝国が、テイト3世を強力に推したらどうなる?」
「いや、それは、かなり変わってきますけど……ええ? でも、一体、どうして?」
混乱するリゼに、
「元王様が声をかけたら、話を聞いてくれる連中がちらほらいたってだけの話だ。そいつらとの話をまとめて、ようやくここまでこぎつけた」
「え?」
「なにせほら、俺は」
上機嫌なのか、ヒーチは片目をつむってみせる。
「『瓦礫の王』だからな」
真夜中。
中途半端な時間に寝たり起きたりしていたツゾとリゼは、アジトで爆睡している。ツゾはソファーで、リゼは椅子で。
ランプの弱い光に照らされたアジトの片隅で、テーブルに浅く腰掛けてヒーチは微動だにせずにいる。
視線はずっと、何もない、薄闇の一点に向けられている。
「酒場ですが……酒の類は置いてないのですか?」
裏口から、そう言いながら入ってくる人影。
ヒーチは目だけをそちらに動かす。
人影は、目立ちはしないがよく見れば質の良さが分かる服を纏い、片手に何か瓶を抱えている。
「閉店してしばらく経つ店だ。もし少しばかり残っていても、とっくの昔にそこの薄汚い狼が飲み干しているだろう」
「よかった。なら、無駄になりませんね。祝杯を挙げようと思って、上等の葡萄酒を持ってきました、ヒーチ殿」
笑う人影の正体はルオ・ガリイだ。
「いただこう。ああ、ただし騒ぐのはなしだ。そこの二人が起きる」
ヒーチは視線を眠りこけているリゼとツゾに向ける。
「ええ」
「にしてもさすがに耳が早い」
「これでも、情報戦は得意ですから」
こうして、ひそやかに葡萄酒がグラスに注がれ、二人は触れあわせることなく乾杯を済ませて、その赤い液体を口にする。
「これは、かなり上等だな」
一口飲んで、すぐにヒーチが呟く。
「ええ、秘蔵のものですよ」
その後は、しばらくはお互いに何も喋らずにその上等の葡萄酒を飲みすすめる。
「このアジトに来るのは、初めてか?」
やがて、ぽつりと言うのはヒーチの方だ。
「ええ。資金提供はこれまでずっとしていましたが、ここまで足を運ぶのはこれが初めてですね」
「資金に関しては、世話をかけたな」
「本当ですよ」
ルオは苦笑する。
「いくら荒稼ぎしても、全部吸い込まれていく。実際、もうすぐ首が回らなくなる寸前でした。ホテルも屋敷も担保に入れて金を借りていましたからね」
「だが、間に合った」
「ええ。大博打だけあって、勝った時の配当も大きい。私に何がもたらせます?」
「いきなり大金が手に入るわけではないな。だが、地位と名誉は手に入る。多分、ガリイ家をアインラードの中枢を仕切る大貴族の一つにするくらいはできるさ。俺も手伝うし、お前の才覚ならその上も目指せる」
「さて……」
「あまり、興味がなさそうだな」
「私は、勝負に勝ちたいだけです。そこまで行くと、次の勝負をどうしていいのか分からなくなりますね……いえ」
柔和な光を帯びていたルオの目が、ゆっくりと、だが確実に冷たいものへと変わっていく。
「正確に言うと、すぐ次の勝負は決まっています。そしてそれは、地位や名誉とは関係ない」
「そうか、そうだったな。再戦の約束をしていたか」
少し目を見開いて、ヒーチは呟いてグラスを置く。
「今、ここででもいいぞ。カードくらい探せばあるだろう」
「さて、悩みどころですね。今、思い出したようなふりをして、実際には事前にこのアジトにあるカード全てに細工をしている可能性もある」
「信用ないな」
「自業自得です」
「確かに。で、どうする?」
楽しそうに尋ねるヒーチに対して、ルオは少しの間黙っている。その冷たい目でじっとヒーチを見つめた後、
「一つ、いいですか?」
「ん?」
「ヒーチ殿、あなたは、私とあなたが似ていると言った」
「ああ、言った。掛け値なしに本心だ」
「では、その私があなたに敗れたのは何故だと思います? 単純な力量の差ですか?」
「敗れていない。あれは、勝負無し、だろ?」
「そんなおためごかしはいいんですよ、ヒーチ殿。俺は、あなたの本心が聞きたい」
「……」
ヒーチは視線をルオから外し、気持ちよさげに寝息を立てているリゼ、そしてツゾに移してから、またルオに戻す。
「少し、長くなるがいいか?」
「もちろん」
「年寄りのうざったい説教みたくなるかもしれんぜ」
「望むところですよ」
「眠かったら寝てもいいぞ」
笑いを含みつつそう言って、ヒーチは天井を見上げる。思い出す。昔のことを。
「……お前、結婚はしないのか?」
「失敗すれば斬首ものの道を選ばせておいて、それを聞きますか?」
苦笑しつつのルオの非難に、ヒーチも思わず笑う。
「そりゃそうだな、悪かった」
「まあ、それがなくとも、多分してませんでしたね。私は勝負が好きです。人生を賭けるような勝負で勝つのが好きです。けど、家族もいるのになかなかそんな勝負を重ねるわけにもいかないでしょう?」
「意外に、良識派だ」
「意外とは失礼な」
ルオはひげを捻る。
「まあ、そうだな。俺も似ている。下手をすれば命まで賭けるような勝負を、やってやってやり続けて、そして勝ち続けた。それが俺の人生だった。そこに、所帯を持つなんてのは意味がなかった。けど、あれだ、勝負の延長線上でな、こっちで言う、政略結婚をすることになったんだ」
「つまり、結婚してそれによって力を得る。それすらも勝負の一部になるような話ですね」
「そういうこと。別に、愛情はなかった。お互いにな。というより、相手はそもそも他で子どもをつくっててな、あんまりよくない筋と、らしい。詳しいことは分からない。ともかく、その娘と結婚することを条件に、その娘の父親、有力者から更なる力を得た。実際、シャロンをもうちょっと酷くしたような娘だったよ」
「私の知る限り、最悪の結婚相手だと思いますが?」
「別に素晴らしい結婚生活など求めていないから、それでよかったんだ」
グラスを持ち、葡萄酒を一杯含んでからヒーチは続ける。
「その娘は結婚してからも好き勝手にやって、挙句に消えた。残ったのは年端もいかない、血の繋がっていない子ども。俺の息子だ」
正直なところ、途方に暮れてな。そう、ヒーチは笑う。
「くく、普通の父親っていうのが、どんなものなのか全く分からなかった。しょうがないから、本やらドラマ……ああっと、こっちで言う演劇を片っ端から見た。父親がどんなものなのか知りたくてな」
「……それで?」
「お前と同じく、俺は勝負に負けるのが嫌いだ。許せない。だから、そうやって参考にしたものの中から理想の父親像ってのを作って、それを完全に上回ってやることにした。そう決めたんだ。だからな、ルオ。俺は息子を否定せず、自由にやらせて、何か困ったことがあれば何でも解決してやることにした。そのために必要な金も力も知識も必死で仕入れた。息子の前では弱いところは一切見せない。勝負に勝っている姿だけ見せて、事実勝ち続けた。息子が何か尋ねてきたら、何でも完璧に答えられるように努力した。たとえ息子が世界の敵になったとしても、息子を守って世界の方を滅ぼしてやるくらいの力を、それを得るために全てを費やした。とにかく、息子の前では、完璧で理想的な父親像を更に上回る父親でいようとしたんだ」
つらかったぞ、と言うヒーチは自分の顔が言葉とは裏腹に幸せな夢を見るかのように緩んでいることを自覚している。
「自分一人が勝負に勝てばいいのと比べて、誰かを守る、誰かを助ける、誰かの前で完璧になろうとするということの、どれほど道の険しいことか。俺は、それを続けた。息子の前で、まるで神のようになれるように、少しでも神に近づけるように力を尽くした」
「なるほど」
ほう、と葡萄酒を飲み干したルオは息を吐く。
「その挙句が、今のあなた、ですか」
「なれのはて、だ。今の俺はな。秘密だぞ、あいつらには。ガキも小悪党も、素で性格がよくない。おちょくってくる。俺は馬鹿にされるのが嫌いなんだ」
「私と同じで勝ち続けたい、そういう人種だと思っていましたが、正確には違うわけですね」
「ん?」
「ヒーチ殿、あなたは、勝たなければいけない。そう思って、ここまで来た。全てをそのためだけにつぎ込んで」
「かもな」
勝てないはずですね。吐息に交じって、かすかにそんなルオの言葉が聞こえる。
「何か言ったか?」
確信が持てずに、ヒーチが聞き返す。
「いえ」
ひげを指で整えて、ルオは眠りこけているリゼとツゾに目をやり、
「今では、彼らが子ども代わりですか?」
「ふざけるなよ。リゼはともかく、どうしてあんな薄汚れた狼が俺の息子になるんだ。論外だな」
「そうですか?」
「当然だ」
断言するというのに、何故かルオは生暖かい笑顔でヒーチを見てくるのでうっとうしいことこの上ない。
「それにしても、ヒーチ殿は一体いつまでそれを続けるつもりですか?」
「うん?」
「勝つことですよ。ただ勝つだけではない。常に完璧な勝ちでなくてはいけないんでしょう? そうしようとし続ける。一体、いつまで?」
「死ぬまでだ、当然。息子の目がある」
何を当然のことを、とヒーチが返すと、
「それは、大変だ」
ルオは嘆息する。
「ルオ、一つ教えておいてやる」
「何でしょう?」
「我が子のためにする苦労というやつはな。そこまで、悪くない」
「そんなもんですかね」
「子どもができたら分かるさ」
ヒーチは、グラスの中に残っていた葡萄酒を一息で飲み干す。
「予感がする」
「はい?」
「戦争は回避され、つかの間の平和が戻ってきたら、すぐに出会うことになる予感がする。息子とな。その時までに、俺は」
ぱき、と音がする。無意識のうちに力を込めてしまっていたらしい。ヒーチの握っていたグラスには、ひびが入っている。
「俺は、勝って勝って勝ち続けて、今よりももっと強大になっておかなければならない。だから、悪いがルオ、負けてやれないが、それでも俺と再戦するか?」
「やめておきますよ。なに、私は気が長いので。もしも、私に子どもができて、その子のためにもあなたに勝たなければいけなくなったら、その時に、また」
「なるほど。その時は、勝つのはなかなか骨が折れそうだ」
だが、楽しみでもある。ヒーチは微笑む。
また意識せず力を込めてしまったのか、グラスがとうとう砕ける。だがその細かいガラスの破片は、ヒーチの手に傷をつけることはできない。鍛え上げたヒーチの手の皮膚はそれくらいでは傷つかない。
そのまま、ヒーチはガラスの破片を握りつぶす。
昔、衝動のままに勝ち続けた頃を思い出す。
あの頃と今は、違う。衝動だけではない。息子のためにも、勝ち続けたいのだ。
その果てに、息子が自分を打ち倒すのであれば、それに勝る喜びはない。逆に息子を返り討ちにするのもまた、面白い。
握りこぶしに力がこもる。
きしきしと音を立てて、ガラスの破片は粉々になっていく。
ルオは、面白がるように目だけで笑って、そんなヒーチを眺める。
牙を剥き、ツゾよりも狼らしい笑顔で、ヒーチは笑う。笑い続ける。
これで番外編の「瓦礫の王は勝ち続けたい」はおしまいですが、お知らせがありますのでよかったら活動報告の方も覗いてください。