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「実際のところ、バンクはどうなんだ?」
「言っただろ、得意中の得意だってよ。トリョラの酒場という酒場は、あまりにもほかの連中の金を巻き上げちまったから出入り禁止になったんだ」
「はいはい、もういいですから、とにかく座ってください」
ヒーチ、ツゾ、そしてリゼは喋りながらバンクのための場をセットしていく。といっても、バンクはある程度の大きさのテーブルと二脚の椅子、それからカードさえあればいいから、すぐに場は整い、ヒーチとツゾは向かい合って座る。
「逆に、お前らはどうなんだよ?」
「俺か。俺は、ルールは知っているが実際にやったことはないな」
「ぼくは、お父様やお兄様がやっていたのを見たことはありますが、ルールもよく分かっていません」
「はっ、それでよくも俺に向かってでかい口を叩けたもんだな」
「とはいえ、少し『バンク』が得意なくらいじゃあ話にもならない」
ヒーチはカードをシャッフルする。元酒場というだけあって、少し探せば戸棚に無数に古いカードの束が見つかった。
「相手は、このゲームで何人も奪い潰している。少し、このゲームについて研究してみる必要がある。それで、ツゾ、お前が見込みがありそうだったら」
「本当に、俺に金を渡して、ルオに勝負させるってのかよ」
疑わし気に三白眼で睨むツゾに、
「俺がそうそう表に出るわけにもいかないし、リゼ相手ならそもそも相手にされない可能性も高い。仕方ないだろう」
シャッフルを終えたカードの束を整えて、ヒーチはゆっくりとその束をツゾに差し出し、
「ほら、好きなところでカットしろ」
「おらよ」
ツゾはぞんざいな手つきでカードの上半分くらいを抜き取ると、束の下にそれを差し込む。
「ヒーチさん、そんなことをしたらこの人、金を持って逃げ出すだけですよ」
横のリゼがそう言ってぶんぶんと手を振り回すが、ヒーチは軽く笑ってそれに答えず、カードの束をテーブルの中央に置く。
「さて、親決めはどうする?」
「コインでいいだろ。ほらよ」
言って、ツゾは銅貨を取り出し、右手の指で弾く。それを左の手の甲で受け止めながら右手で覆う。
「おら、どっちだ?」
「表」
「裏。ええっと、はは、裏だ。俺が親だな」
銀貨がどちらを向けているかを確認して、ツゾは笑う。
「怪しいですね。イカサマじゃあないですか?」
じとっとリゼがツゾを睨む。
「ふざけんなよクソガキ」
「リゼ。ここで先に親になるかどうかはそこまで肝心なポイントじゃあない。ここでイカサマはしないだろうさ」
ヒーチは、懐からアインラードの最高額紙幣である皇帝紙幣を無造作に数十枚取り出す。
リゼに向かって牙を剥いていたツゾの目がそちらに向き、ごくりと唾をのむ。
「ええと、三十枚ずつでいいか。ほら」
三十枚の紙幣を数えてから、ヒーチは軽く折ってまとめると、ツゾに放る。
ツゾは慌ててそれを掴む。
「バンクは三十枚でいこう」
言いながらヒーチはテーブルの自分の側に紙幣を十枚置く。
「これでよし。ツゾ、当たり前だがその三十枚は終わったら返してもらう。逆に言うと、三十枚だけだ」
「あ?」
「これからバンクで俺から奪って、お前が三十枚以上稼いだ分についてはくれてやるということだ。やる気になったか?」
それを聞いた途端、ツゾの目の色が変わっていく。
「マジかよ。おい、後でやっぱ嘘、ってのは、なしだぞ」
「ああ。時間が許すならどっちかの金が無くなるまでやり続けるつもりだ。だから、うまくやれば俺の皇帝紙幣三十枚は全部お前のものだ。せいぜい、酒場を出入り禁止になるほどの腕を見せてくれ」
そして、ゲームが始まる。
正直なところ、ヒーチは皇帝紙幣三十枚、金貨に換算しておよそ百枚程度など、大して惜しくはない。今の暇な城主の仕事を続けていれば、数か月で貯まる額だ。
それよりも、実際の金を賭けることで必死になったツゾのバンクのテクニックを見ることの方が大きい。
「二枚だ」
ツゾは場に紙幣を二枚出すと、カードを一枚、上から引いてその数字を確認する。この場合、親は最低でも二枚からスタートだ。一枚では子が半額を払ってフォールドすることができない。
獣人だからか、それともこのゲームに慣れているからか、確認してもツゾの表情に動きはない。
「コール」
同額、二枚をヒーチは場に出す。実際、今の時点では相手のカードの強さも、自分のカードの強さも分からない。受けるしかない。
ヒーチがカードを引くと、二人は同時にカードを裏返す。ヒーチは七。ツゾは十七。ツゾの勝利だ。
「もらうぜ」
自分の二枚とヒーチの二枚の合計四枚をバンクに加えながら、ツゾは不敵に笑う。
一方、勝負に負けたヒーチは頬に拳を当てて、少しだけ思案してから、
「二枚」
紙幣を二枚場に出して、デッキから一枚引く。数字は四。
「レイズだ。八枚」
獰猛な表情でツゾは紙幣を十枚まとめて場に出す。
「フォールド」
表情を変えず、ヒーチは裏を向けたままでカードを墓場に放る。ツゾも同じように自分のカードを裏向きで放る。
ヒーチの紙幣はツゾのものになる。
「ば、馬鹿な……知的ゲームで、あいつが勝ってる?」
リゼが横で愕然としている。
「いや、どうかな」
まだ頬に拳を当て、少し首を傾げたままでヒーチは呟く。
「なんだ、負け惜しみか? 俺の勝ちだぞ」
言いながら、ツゾは紙幣を四枚放る。
「どうも流れはこっちにあるみたいだからな。四枚だ」
「お前が勝っていることに、どうかなと言ったんじゃあない。俺が疑問なのは、これが知的ゲームだという話だ。まあ、いい。まだ感覚が掴めた確信はない」
言いながら、ヒーチはカードを引かず、紙幣を二枚、ツゾに直接渡す。
「フォールドだ。カードを捨ててくれ」
それから、数セット。
デッキの残りカード数は五枚。ツゾのバンクには紙幣が五十五枚。一方、ヒーチのバンクは五枚。圧倒的にツゾが勝っている。
だが、ツゾの顔色には次第に追い詰められた表情が浮かびつつある。
その理由は、墓場の捨て札だ。もう使われて捨てられているカードのうち、表を向けて数字を確認できるものは十枚。残り五枚はフォールドによって捨てられたカードで、裏が向けられている。そして、表を向けてあるカードの中に、1はない。もしも、1がデッキの中にあったら、と思うとツゾは気が気でないのだろう。
そして、ヒーチが親だ。
「五枚、は無理なのか、偶数じゃないとな。じゃあ、四枚だ」
ほぼ全財産の、紙幣四枚を場に出す。これで負けた場合、片方の紙幣が一枚ではゲームが成立しないために自動的にゲーム終了となる。
ヒーチは残り少ないカードを引く。確認する。カードの数字は、十四。悪くない。
一方のツゾは、唸りながら
「コールだ」
実際、ツゾの立場からすると受けるしかないのだろう、とヒーチは推測する。もしも1だったら、フォールドした時点で負けがほぼ決定する。なにせバンクの内容が全て入れ替わるのだから。もちろん、これが演技の可能性もある。つまり、実はツゾがフォールドして裏向きで捨てたカードの中に1があるのかもしれない。だからツゾは、もう1がないことを知っている。知っていて、自信があるからコールしたのかもしれない。
勝負。互いカードを裏返す。
ヒーチは十四。ツゾは十二だ。
「くそっ」
悪態をついてツゾは四枚の紙幣を渡してくる。
「二枚だ」
唸りながら今度は親になったツゾが紙幣を二枚放り、カードを引く。
これで残りカードは二枚。これで、ヒーチが勝負を受ければこれが最後のセットになる、が。
「フォールド」
ヒーチはさっさと紙幣を一枚放る。ツゾは当てが外れた顔をしてぽかんとする。
特に、戦略があってそうしたわけではない。ただ、いろいろとパターンをためしているだけだ。
そして、ヒーチは親になってから、
「全額だ。八枚」
「ぐう」
唸るツゾを見ながらヒーチはカードを引く。数字は二十。ここにきて最強のカードだ。
さて、思案のしどころだな。ヒーチは考える。
これまでにフォールドで裏向きにしてツゾが捨てたカード、その中に1があったのであれば、ここでフォールドしてしまえばいい。今、ツゾのバンクは五二枚。一方、ヒーチは八枚。だが、なかった場合、今ヒーチが持っているカードが1の可能性があるために、ツゾはフォールドをためらってしまうのだろう。バンクが逆転すれば負けだ。
「コール、だ」
言って、ツゾはカードを引くと、裏返す。数字は十だ。
「俺の勝ちだ。ちなみに、1のカードは数セット前に俺がフォールドで捨てている」
ヒーチは二十のカードを裏返すと、ツゾの紙幣を受け取る。それでも、結果としてはツゾの勝利だ。ヒーチは十六枚。一方のツゾは、四十四枚だ。
「は、はっはっは、勝った、勝ったぞ。おい、ほら見ろ勝ったぞ馬鹿が。何だ偉そうにしやがって底が浅いんだよお前ら、この十四枚は俺がもらうからな、おい、約束だったろ」
飛び跳ねて喜ぶツゾを横目に、ヒーチは目を閉じて目頭を指で揉む。ずっと集中していたために、少し疲れた。
「ひ、ヒーチさん、こういうこともありますよ。そんな気を落とさずに。いい大人が泣くなんて」
おろおろとしたリゼの声に、
「泣いてない。何てことを言うんだ」
「いやいや、悔しすぎて泣いてんだろ、分かるぜ、偉そうにしていてぼろ負けって超恰好悪いもんな」
調子に乗ったツゾがまたリゼに棒で殴られ、気絶して椅子にすとんと座る。
「頭の中だけで考えただけじゃあと思って、実際にやってみたが」
目を開き、ヒーチはリゼに顔を向ける。
「どうでした?」
「予想通りだった。このバンクってゲームは、言い方は悪いが、かなり雑なゲームだな」
いわゆる不完全情報ゲームの一種であることはあるのだが、ルールを聞いた時点でヒーチはかなり洗練されていないゲームではないかと予想していた。そして、それは今プレイしてみて確信に変わっている。
元の世界のポーカーや麻雀といった不完全情報ゲームに比べて、運の比重がひたすらに大きい。
「このゲームでは、親は子の行動からはそのカードがいいかどうかを予想することができない。なにせ、勝負になるまで子自身が自分のカードを知らないわけだからな」
「そうですね」
「で、子からしても、親が最初にいくらベットするかから、親のカードを予想できない。その時点では親は自分のカードが分かっていないんだ。せいぜいが、その後でカードを引いた時の親の表情から読むくらいだな。ただ、それについてもある程度経験のあるプレイヤーなら防御策を持っているだろう」
つまり、結局のところ、親も子も、互いの行動から相手のカードを予想できないというわけだ。
「例外は、親のベットに対して子がレイズして、それに親がどう対応するかという局面だが、今プレイした限りでは、その局面に突入する確率はそこまで高くない」
「確かに、さっきのプレイでは二回か三回くらいでしたね」
ふむふむとリゼは頷く。
「とすると、相手の持っているカードを相手のベットから読み合うというゲームではないということだ。かといって墓場のカードから今デッキにあるカードを想定して、どのカードを引くかと確率を計算するゲームでもない」
「え、そうなんですか? ぼくは、てっきりそういうゲームだと思ってました。だから、こいつが勝っているのが腹が立って仕方がなかったんですけど」
まだ気絶しているツゾをちらりと見てリゼが頭をかく。
「まず表向きで捨てられているカードについてはどちらのプレイヤーにも平等な情報だ。そして裏向きで捨ててあるカードについては、自分が捨てたカードの数字はそりゃあ覚えていないとまずい。が、それを覚えておくのはそんなに難しいことじゃあない。そして、表向きの捨てたカードと自分の捨てたカードの数字から残りの、今デッキにあるカードが何かを予想するのも、初心者じゃない限り普通にすることだ」
「それは確かにそうですね。ルールを聞いて、ぼくもやるならそうしなければと思っていました」
「だろう? じゃあ、どこで差がつくかというと、相手の捨てたカードの数字を読む能力になるが、これもなあ。そもそも相手がフォールドすればこちらのカードは弱かろうが強かろうがフォールドするわけだ。弱いからという理由で自分の判断でカードを墓場送りにするケースは、まず親側に限られるし、その中でも半分くらいのケースだろうな」
「じゃあ、完全に運任せのゲームですか?」
「完全に、と言うわけでもない。特にダウトだ。終盤になれば1がまだデッキにあるのかそれともないのかが焦点になる。ダウトがある限り、優勢劣勢が一気に逆転するからな。墓場に1がない限り、1がまだデッキにあるのかそれともないのかの情報を持っている方が駆け引きできる。そこの駆け引きの技術は確かに、関係するとは思う、が」
「ああ、そうですよね」
リゼは納得したのか大きく頷く。
「その駆け引きの大前提の、1に関する情報は、完全に運ですよね」
「そう。その駆け引きができるかどうかは、自分が親の時に1を引けるかどうかって、完全な運に依存してる。そして、その運の比重がひたすらに大きい。ダウトだけで勝負が決まるようなものだからなあ。感覚的には、運は九割、どころじゃあない。ある程度の経験者同士なら、運が九割九分くらいだ。何百セット単位でプレイして、ようやく駆け引きが得意な方が『僅かに』勝ち越すかもしれない、くらいじゃあないか?」
「はあ、なるほど」
「酒場で生まれたのも納得の雑なゲームだ。貴族まで浸透しているなら、これから時間をかけてもっと洗練されたルールになっていくとは思うが」
そこで言葉を切り、ヒーチは近くのテーブルから水の入った瓶を掴み取ると、ぬるい水を喉に流し込む。
だとすると、やはりルオ・ガリイがこのゲームで勝ち続けているというのはおかしい。
「何か特殊なルールを採用しているのか、あるいは」
イカサマか、だ。
実際、ゲームの感覚を掴むのと同じくらい、ヒーチが期待していたのはツゾのイカサマだった。このバンクというゲームで有益なのは、一体どんなイカサマなのか、だが。
まだ気を失っているツゾを見て、ヒーチは肩をすくめる。
「イカサマ、しようにもできなかったんだろう、こいつは」
「え、こいつやっぱ、イカサマしようとしていたんですか?」
リゼは汚らわしいものでも見るかのような目でツゾを見下ろす。
「そこまではな。チャンスがあればやっていただろうと思うが。このゲームで有用なイカサマは、一番はカードに目印をつけておくことだろう。仕込みカードだ」
いわゆるジュースカード。裏からでも、そのカードの数字が分かれば、このゲームでは圧倒的に有利になる、が。
「この酒場にあったカードを使っているから、仕込みのあるカードは使えない。あとは、傷でもつけてゲーム中に自分で目印をつけていく方法だが、こいつそんな記憶力なさそうだから無理だろ」
「確かに」
深く深くリゼは納得した表情をする。
「しかし、それはルオも同じなはずだ。百戦百勝のプレイヤーだというなら、相手だって警戒する。ルオのところにあるカードには警戒するだろうし、ゲーム中に傷をつけるような行為を今までの相手全員が見逃してきたとも思えない。イカサマしたなら、別の方法だろうな」
あるいは、とヒーチは考える。
もう一つ考えられるのは、積み込みだ。シャッフルをする際に積み込んで、その順番を覚えておく。そうすれば、印をつけるまでもなく何のカードなのか分かる。
だが、シャッフルをしながらの積み込みは困難だし、その後にカットもある。もちろん、それらを何とかする技術はいくらでもある。元の世界で言うところのブラインドシャッフルやブラインドカット。あるいはカードを元々掌に忍ばせて置いて紛れ込ませるパームトリックを使うことも可能だろう。だが。
「このゲームは、カードの枚数が少ない」
「え? カードは全部使っているじゃないですか」
思わずのヒーチの呟きにリゼが不思議そうに反応して、ヒーチは笑う。
「ああ、確かに、二十枚全部使っている」
もちろん、ヒーチが比較しているのは元の世界のカード、日本でトランプと呼ばれている物と、だ。あちらはジョーカーを含めずとも五十二枚。一方、こちらのカードは二十枚。ブラインドシャッフルやブラインドカットはやりにくいし、余計なカードを紛れ込ませたら違和感に気付かれ易いはずだ。
「独創的なイカサマがあるんじゃあないかと思っていたんだ。上品な貴族連中は逆に知らないような、安酒場の荒くれ者だけしか知らないものがな。が、どうやらそんなものはないらしい。少なくとも仕込みなしで使えるようなものは」
「ツゾが知らないだけかもしれませんよ?」
リゼは棒で気絶したツゾをつつく。
「確かに、そいつがダーティーな業界での最先端のイカサマを知っているとは俺も期待してないさ。さあて、どうだろうな、イカサマではなく、特殊なルールでゲーム性を高めているのかもしれない。これ以上は、ここで考えていても無駄か。情報収集といこう」
ヒーチはツゾの額を思い切り指で弾く。
ただ指で弾いただけとは思えない音が響いて、
「痛ぇ!」
ツゾが飛び起きる。
「おい、寝太郎」
「いてて、ねたろう、って何だよ?」
「話は決まった。お前はギャンブルの天才だ」
「あん? ああ、へへ、ようやく認める気になったか、無能どもが」
「認めるよ。だから、お願いがある」
ヒーチは目覚めて即座に調子に乗るツゾに軽く尊敬の念を抱く。
「俺の今、現金で所持してる全財産をお前に預ける。ルオとギャンブルをしてきてくれ」
「えあ?」
自慢げに笑っていたツゾの顔が固まる。
「ヒーチさん、それは」
リゼが血相を変えるが、
「最初から言っていただろう、そうすると。で、どうだ? 道中贅沢な旅をして少々金を使ってもいいし、もし勝ったなら勝ち分の、そうだな、半分をお前にやる。悪い話じゃあない」
ただし、と軽くヒーチはツゾの肩に手を置いて、
「金を持って逃げ出したら、どこに逃げようが何があろうがお前を探し出して殺す」
目は静かなままに、口だけで笑みを作る。
ツゾは強張った顔で、壊れたように何度も頷く。
「まあ、実際、金を使って逃げ出すよりも戻ってきた方がお前にとっても得だ。辺境の地とはいえ城主なんだ。俺と一緒にいれば、一時の金じゃあなく、ずっと甘い汁を吸えるぞ」
飴と鞭。
あまりにも古典的ではあるが、つまりは古くから今まで使われるほど効果的だということだ。
ツゾの強張った顔が緩むのを確認して、ようやくヒーチは目でも笑ってみせる。
「頼んだ。ギャンブルに関しては、お前が頼りなんだ」
これがとどめとなって、ツゾがとりあえず言われた通りに動こうという方向に心が振れるのを、ヒーチはじっと目で観察している。
これでいい。さて、あとはどうなるか、だ。
久しぶりの勝負。その予感に、ヒーチは舌なめずりしたいのをこらえる。