執事→学生
不安を解消するためには経験者から話を聞くのが良い。そこで山田を頼ってみようと考えた。別館の一室で山田に相談してみる。
「山田、俺来週から学園に行くことになったんですけど」
「そうか、おめd」
パーン!パーン!
なぜか山田の頭上からタライが降ってきた。さらに、俺の頭上にも降ってきた。痛い。
「おやおや、侵入者用トラップが誤作動を起こしたみたいだ」
と冷静に言い放つ山田。彼にとっては日常茶飯事らしい。
「気を取り直して、おめでとう。で、いつから行くんだ?」
「来週からです」
「そうか、あの学園は色々t」
ヒュッ!ヒュッ!
今度は矢が飛んできた。すんでのところで回避し、矢は壁に突き刺さった。危なかった。
「危ねえな、全く……」
と言いつつ慣れた手つきで矢を回収する山田。これも日常茶飯事なのか……?
「あら、二人でなにしてるのかしら?」
山田と話していると、葵さんがやってきた。
「ああ、智久が学園に行くことになっt」
ビュー!ビュー!
突如、強風が発生。葵さんのロングスカートがめくれ上がって……見えた!と思ったのも束の間、
「! ……///」
「ぐふっ!」
「がはっ!」
俺と山田は葵さんの見事なボディーブローで吹っ飛ばされて、そのまま気を失った。目に焼き付いたのは綺麗な赤でした。
葵さんに謝り倒した後、聞いた話によると、山田の不幸体質は一緒にいる者まで不幸にしてしまうらしい。タライや矢がこちらにも飛んできたのはそのせいだろう。なので、山田には申し訳ないが、もう頼ることはないだろう。
次の週、俺はついに転校することになった。元いた学校から何かしら苦情を入れてくるかと思われたが、そこはお嬢様がうまく根回ししておいてくれたらしく、それは一切なかった。
初登校日の朝、お嬢様に呼び出された。
「ついにこの日が来たわね」
「できれば来ないでほしかったです」
「ひどいこと言うわね、こっちも色々大変だったのに」
「お嬢様が決めた事でしょう。それに不安なんですよ、色々と。俺だって人間ですし」
「えっ……」
「そこで意外そうにしないでください! 俺のどこが人間じゃなく見えるんですか!?」
「だって、誘拐されて執事になるなんて普通の人間がすることじゃないじゃない」
「それはアンタが全部仕組んだんだろ!?」
「いやん、恥ずかしい///」
「照れるところじゃねえよ! むしろ反省するべきだろ!?」
「嫌どす」
「京都弁!? そこまで反省するのが嫌なのかよ!?」
「はエス」
「はいとイエスを混ぜんなやあああああ!!!!!」
「で、学園についてだけど」
やっと本題に入る。かと思いきや……
「もうこんな時間ね。まあ、口で教えるよりも実際に行ってもらった方が早いわ」
「こんな時間って、まだ6時30分ですけど……」
「自転車で1時間かかるのよ」
「はぁ!? なんで1時間もかかるんですか!?」
「とにかく学園が遠いのよ。まあ案内は葵に任せるから安心して。まずは道を覚えてもらわないと」
「1時間もあの人と一緒にいなきゃならんのか……」
「じゃあ山田に案内させる?」
「それだけはご勘弁を! 命がいくつあっても足りないです!」
事故に遭わない未来が想像できない。
「なら決まりね。私は車で行くから次会うのは学校ね」
「ドライバーは山田ですか?」
「バカ言わないで頂戴。私だって命が惜しいわ」
山田ボロクソである。
「じゃあまた学校で会いましょう」
そう言って出て行った。さて、俺も行きますか。
「葵さん、ペース速すぎです……」
学園に着いた直後、息も絶え絶え、なんとか声を出す俺。それもそのはず、1時間かかるところを40分で来たのである。よく生きてるな、俺。
「仕方ないじゃない、まさか山田に出くわすとは思わなかったもの」
「まあ、不幸に巻き込まれるよりかは良いですけど……」
そう、通学中の山田と出くわしたのが運の尽きだった。彼が一緒についてこようとしてきたので逃げ出したら追いかけてきたのである。しかも、向こうは善意でついてこようとするのでタチが悪い。もちろん山田はその間、電柱にぶつかったり、トラックにはねられたりするのだが、驚異的なスピードで復活してくるのである。
命がけの鬼ごっこは結局、学園まで残り数kmの辺りまで続いた。のだが……
「なんであそこで山田を振り切ったのにスピード緩めなかったんですか……」
「あなたは山田をナメているわ。あの異様な頑丈さをあなたも見たでしょう?」
「そりゃまあ異常ですけど……けど山田にも諦めっていうのはあるんじゃないんですか?」
最後はカーブを曲がり切れず池に突っ込んでそのまま浮いてこなかったが、まあ大丈夫だろう。
「彼は一度決めた事をねじ曲げようとしないの。見つかったらまた追いかけてくるかもしれない、そう思ったら安心なんてできないわ」
どうやら葵さんは過去に山田関連でトラウマになるような出来事があったっぽい。
「で、これからどうするんですか?」
「学園の案内でもするわ。まあ、全部回るには時間が足りないけどね」
「あれ? 葵に智久じゃないか、いい加減一緒に行k」
気がつけば俺達は全力で走りだしていた。
「もういないわね……」
葵さんがそうつぶやく。今回はスタートダッシュが良かっただけに、早めに振り切ることができた。気がつけば学園の広場らしきところまで来ていた。
「もう……限界ですよ……」
そして全力を2回出し尽くした俺は思わず地面に倒れ込んだ。もう動けねえ。
「オヤ、アオイチャンデハアリマセンカ!」
幻聴か?なんか片言の日本語が聞こえてきたんだが。
「面倒くさい人が来たわね……」
葵さんが嫌そうな顔をする。その先にはスーツ姿にアフロでサングラスをかけている男がいた。
「ソンナカオシナイデチョーダイ!シカシキョウモカワイイネ、アオイチャン!」
あ、これ面倒くさい人だ。
「あなたは今日も気持ち悪いわね」
葵さんが毒を吐く。
「ワーオ!キョウモキレテルネ、アオイチャン!デモソコガイイ!」
ただの変態じゃねえか。
「葵さん、この変態外国人は何者なんですか?」
「初対面でそれは失礼よ。ねえ、学園長?」
「ゼンゼンカマワナイヨ!キミハアノユカチャンノアタラシイシツジサンダネ!」
「これが学園長!? 嘘だろ!?」
この学園大丈夫か!?
「ウソジャアリマセーン!ワタシハアンダーソントイイマース!コノガクエンノガクエンチョウデース!」
「残念ながら本当よ。これでも学園長なの」
「アオイチャン、アンマリイジメラレルトキモチヨクナッテシマイマース!」
誰かコイツ止めろ。
「……学園長、なぜ俺のことを知っているんですか?」
「ソレハネ、ゼーンブユカチャンガオシエテクレタカラダヨ!ユウカイサレテシツジニナルナンテ、ジンジョウジャナイネ!」
尋常じゃない変態に言われた。ショック。あと、あのお嬢様、誘拐の件バラしやがったな。
「マアイロイロタイヘンソウダケド、ガクエンカラサポートデキルコトガアレバイッテネ!ダイタイノコトハナントカシテアゲルカラ!」
悪い人ではないようだ。変態なところを除けばだが。
「そろそろ教室に行かないと遅れてしまうわ。智久は転校生だから、学園長と一緒に職員室に行って頂戴」
「わかりました。じゃあまた後で」
「ええ」
葵さんは校舎の方へ向かっていった。
「ジャアボクラモイコウ!ショクインシツハコッチダヨ!」
俺は学園長に案内されて職員室へと向かった。
職員室で一通り説明を受けた後、今日入る2−Aの教室の前まで来た。中では教師が何かを話している。恐らく、俺が転校生として来ることを話しているのだろう。ああ、緊張する。
「中に入ってください」
ドアが開いた。俺は覚悟を決めて中に入っていった。
中には40人ほどの人がいた。その中には、お嬢様と葵さんもいる。
「では、まず自己紹介をお願いします」
「はい、今日からアンダーソン学園に転入することになりました、上村智久です。よろしくお願いします」
とりあえず、用意していた台詞は言えた。
「智久君は誘拐されて執事になったそうです。みなさん、仲良くしてあげてくださいね〜」
「なんでそれ言っちゃうわけ!? アンタ仲良くさせる気ねえだろ!?」
思わず教師にツッコンでしまった。
「よっ、誘拐執事!」
とどこからか声が上がった。
「誘拐執事!誘拐執事!」
この日から、俺のあだ名は誘拐執事になった。
一日の授業が終わり、放課後の教室。
「いいあだ名じゃない、誘拐執事。あなたらしいわ」
「どこがですか……そもそも、お嬢様が教えなければこんなことにはならなかったんですよ?」
「私は学園長にしか教えてないわ」
「あの学園長が言いふらさない訳がないじゃないですか!」
あんなに口の軽い奴はなかなかいない。
「ということは学園長に会ったのね。なかなかの変人だったでしょう?」
「変人というか変態ですよ、あれは。葵さんがあそこまで露骨に嫌な顔するの初めて見ました」
「葵は災難だったわね。私はそこまで嫌いじゃないけど、彼女は生理的に受け付けないみたい」
「むしろ、それが普通だと思いますよ」
「あら、じゃあ私は普通じゃないって言いたいのかしら?」
「はい、というか本気で自分が普通だと思っていたんですか?」
「まあ、自分でも普通じゃないのはわかっているけどね」
そう言って窓の外を見つめるお嬢様。夕日に映える姿を見てドキッとしたのは内緒だ。
「そろそろ帰りますね。葵さんも待っているでしょうし」
行きは山田から逃げるのに必死だったので、道を覚えられていない。なので、帰りも葵さんに案内をお願いしている。
「ええ、また屋敷でね」
それを聞いた後、俺は教室を出た。
帰りは山田に出くわすこともなく、無事に帰れた。
葵さんと別れ、屋敷に入ると、執事長が出迎えてくれた。
「おかえりなさい。初の学園生活はどうでしたか?」
「学園長のインパクトがデカすぎました。あんな変態がよく学園長やってられるなと」
「僕も卒業生ですからわかりますが、学園長は良い人ですよ。ただ、美少女に目がないのが悪い所ではありますが」
「美少女限定なんだ……というか、執事長はあの学園の卒業生なのか!?」
「ええ、ですからお嬢様の送り迎えも僕が担当しています。通い慣れた道ですからね」
知らなかった。知ってたら山田になんか頼らなかったのに。
「そうだったのか……学園長の他に要注意人物はいるのか?」
「腐るほどいますね。まあ学園長ほどではありませんが」
経験者は語る。
「とにかく、今日は疲れたでしょうから早めに休んでください。仕事は僕がやっておきますから」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
「はい、ゆっくり休んでください」
こうして俺の学園生活初日が終わった。




