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博士と助手の平和な時

 ため息をつきながら足を止める。

 そこは一見すると何の変哲もない廊下の壁だが、左右に二匹の竜の像があり、台座の上でしげしげと立ち止まったティアを見つめている。


 例によってここにも謎技術と無駄魔術が施されているので、唯の象ではなく、動く像なのだ。

 職人のこだわりらしく、話しかけると鳴いて答えるほか、内容によっては火を吹いたりもする。


 ただし対応しているのは帝国語だけらしく、見習い時代に初めて連れて来られた時は何とも言えない残念な気持ちを味わった。

 本家の竜語で話しかけても、つぶらな石の瞳で見つめ返されるのみ。

 横にいたニコにぽん、と無言で肩を叩かれたのが余計切なさを倍増させた。



 ティアはもう一度周囲に誰もいないか確認すると、彼らの間にあるこれまた竜が悠々と空を飛んでいる様を描いたタペストリーをめくりあげ、その裏の壁をノックして、しぶしぶ合言葉を言う。


「我らに麦を。彼らに雨を」


 ……思わせぶりな言葉だが、由来を尋ねたところ適当に会長がその場で思いついたものを採用しただけで、特に意味はないらしい。


 だったら毎回言わせる意味は、と思うが、そこは多数決での圧倒的支持で合言葉の使用が決まってしまったので仕方ない。


 全体的に子羊――拾われものたちは悪ふざけが好きな輩が多いのである。

 非生産的であればあるほど、無駄に本気を出したりする。

 逆に言えば、その無駄なところに注がれている才能をもっと別の適切なことに使える、と判断されたからこそ拾ってこられたとも言える。


 ティアは見習い時代にリリアナと大喧嘩をして仲直りしてから、無事に彼らの仲間認定され、こうして定例会の会場の場所と入り方も教えてもらっている。

 今回はパレード終了後、ニコとここで待ち合わせているのでやってきたわけだが。



 聞き届けた左右の竜がきゅーんと声を上げ、ノックしたあたりの壁が一度震えると、そこにどこかへの入り口が出現した。実に秘密基地っぽい。


 これで後から改造したものではなく、もとからあったものをちょっとだけ改良したものなのだというから、さすが王城、無駄技術の結晶である。

 一説によると魔王本人も把握していない隠し部屋まで存在するらしいが、何分初代魔王の時代の産物なので仕方のないことだ。

 初代魔王は理不尽と混沌の塊。ゆえに彼の作ったものも正しくそれらの成分でできている。



 ティアが迷わず入っていくと、再び背後できゅーんと鳴く声が聞こえ、入口も消える。


 石造りの階段を下って行ってその先の重たそうな扉を開けると、そこが定例会の会場――子羊たちの憩いの場だった。



 ただの秘密基地だと侮ってはいけない。


 入口から入ってすぐの部分はエントランス。玄関兼他のスペースに移動するための廊下のような部分だ。円形で、高い天井からシャンデリアが吊る下がっている。


 そこから会議室、談話室、炊事室、洗濯室、倉庫の5区画への扉が放射状に、入口も合わせて正六角形を描くようにずらりと並んでいる。


 もう一度言うが、確かにこの場を発見した子羊たちが次々に悪乗りして後で大改造を加えはしたが、基本的な構造――つまり六つの部屋の存在は元のつくりそのままである。

 開発者が何を思ってこの空間を作ったのかは、永遠の謎だ。



 ティアはその中で、談話室のマークが描かれた部屋へと更に足を踏み入れた。


「お帰りなさいっす、シーグフリード様!」


 中に入ると早速待ち構えていたらしいニコが、にぱっと白い歯を見せながら駆け寄ってきて、せっせと甲斐甲斐しく世話を焼こうとする。

 一見すると元のニコそっくりだが、よく見ればくしゃくしゃした髪の色がより明るい茶色である。

 彼はニコ一世の息子、ニコ二世。父親と同じ名前なので区別するため、ジュニア、と呼んでいる者もいる。


 短命種の入れ替わりは本当に激しい。

 一世がおれっちもそろそろ年なので、と引退を表明し、代わりにと息子がやってきたのはほんの数年前の事。ティアが見習いから騎士に昇格するのと同時に交代した。


 見た目といい性格といい言動といい、あまりにもそっくりなので皆ほとんど違和感なく受け入れたものだった。

 ただ、一世に比べると母親の血の効果なのか、十代にしてはよりしっかり者で落ち着いている気がする。

 50過ぎても変わらぬ父親を反面教師にしたのかもしれないが、残念ながらうっかりものの性質はちゃんと受け継いでしまったらしい。息子の方も定期的に何かやらかすのだった。



 ニコはせっせとティアから剣を受け取ったり上着を受け取って畳んだりしつつ、話しかける。


「なんかパレード中にルーティークが暴れたとかいう話があったっすけど、大丈夫っすか?」


「……どこから聞いた?」


 さっき帰ってきて師父に軽くパレード中の出来事を報告したばかりなのに、とティアは首をひねる。


「短命種の召使仲間っす。シーグフリードさんはファンが多いっすから、変なことしたらすぐわかるっすよー」


 下働きは何気なくそう答えた。

 今何かおかしなことを言われたような、と思っていると、奥の方から妙な音が聞こえてくる。


「ふっふっふ……ふーははははは」


 どう聞いても構ってほしいに違いない、わざとらしい笑い声だった。


「なんすか……えーと、博士」


 ティアの荷物をしっかりまとめ終わったニコが面倒くさそうに声をかけると、三人分座れるソファーを占領していた男がこっちに指を突きつけてくる。


「行き過ぎたファン活動はただの暴力に等しいのだぞー、ニコジュニア。わかっているのだろうなっ?」


 聞けば聞くほど腹の立つ発音である。

 正しく煽られたニコは肩を震わせて答えた。


「言われたくないっす。あんたには、あんただけには言われたくないっす!」


 ニコの言うことはもっともである。


 このやたらと人を苛立たせる言動をかましている男は、自称ドクターエックス。

 角なしの魔人で、あとはその見るからにパッパラーなくるくるの頭とくたびれた白いコートに似た上着――本人いわく、白衣(神聖なる探究者の衣)と呼ぶらしい――が特徴である。


 またの名を開発局長。この空間の魔改造に一番貢献している人物であり、有益なものも無益なものも様々作り出してきた。

 たとえば、ニコが他の拾われものたちと連絡を取るときに使っている通信機。

 たとえば、本人いわく偶発的奇跡の産物、客観的に述べるなら盗撮画像を生み出す撮影機カメラ


 そのようにして、無力で善良な一般人に行動の契機を与える魅惑の男、それが自称ドクターエックス。

 変態(殿下ファンクラブ会員)の行動を悪化させている要因の一つである。しかも故障の修理まで手厚くケアし、ユーザビリティを充実させるためバージョンアップを怠らない。

 言い換えれば、より気軽に手軽に変態に勤しめる手助けをしているのである。


 また、博士だのドクターエックスだのは捕捉通り自称であり、本名を呼ぶと激しく嫌がるので、大方は大人の余裕を見せ、優しく彼の意向を汲んでやっている。


 いや、訂正するべきだろう。大方はそっと、博士(笑)と語尾に含みを持たせ、3割の親しみ、1割の敬意、6割の生温かいまなざしでもって彼の言動を見守っている。

 それもこれも最初に博士(笑)と呼び始めた会長のせいなのだが、偉大な発明を補って余りある痛々しい言動のせいでほとんどは(笑)を忘れず呼び名の後にくっつけている。


 ちゃんと彼の望む通りに呼んであげているのは、博士に従順な助手と誰に対しても素直に反応するニコ、この二人くらいしかいない。


 だからか知らないが、ニコがいるとドクターエックスは何かにつけてこんな風に絡んでくるのである。


「ふっ……雑魚め。助手、来い!」


「合点であります!」


 声をかけられると、博士が占領していたソファーの下でお菓子を貪っていたらしい助手は、ウサギ型の獣人の敏捷性を活かしてひらりと上に舞い上がる。

 博士がソファーの上に立ち上がってなんかかっこいいポーズ(と嗤い混じりに前に会長に評された)を決めると同時に、その足元にひらりと同じくポーズを決めて着地する。


 ぽよん、と一拍遅れて立派なボディーが揺れた。

 助手の服装は上着は博士と同様の白衣だが、前開きの上着の下に見えるのは付け襟にカフス、レオタードと網タイツ――いわゆる一種のバニー服、と呼ばれる扇情的なデザイン故、余計にどきりとさせるものがある。

 耳は自前だ。獣交じりの魔人でもないのに、わざわざその部分だけ器用に変化させている。


 ニコは真っ赤になってせき込みながら顔をそらし、ティアはそんな彼を不思議なものを見る目で眺めている。

 バニー服ごときで惑わされる男ではないし、脂肪の塊が揺れようとまったく興味はない。



 竜にとっての絶対正義は筋肉。正確に言うのなら、その筋肉が生み出す力強さと飛翔美。

 たとえ豊満だろうが、エッカのような惚れ惚れするほどの大胸筋でなければ揺れても揺れなくても特に意味はない。


 乳は吸うためのものでなく、飛行のための力を収める部分である。絶壁だろうが、等しく無価値。吸わないから、乳首もない。

 そんな生態を把握した一部の先輩からは、なんて夢のない生き物なのだと理不尽な罵りを受けたこともある。


 それくらいで価値観が揺らいだり自信を喪失するティアではないが、ふと気になったので、念のためリリアナに胸部の好みについて聞こうとしたら、知り合いの子羊全員に止められた。


 胸の事だけは聞くな。地獄を見たくないのなら、そのネタだけはやめておけ。

 どうしても聞きたいのなら、自分たちで原稿とマニュアルを書いてやるから一字一句違えず行動しろ。


 いつになく全員――あのヒューズですら、据わった目の笑顔で言いつのってきたので、それ以来深入りはしていない。

 魔人業界では胸の問題は相当にデリケートなことらしい。



 そんなどうでもいいことはさておき、物々しく派手に飛び上がったものの、やったことを冷静に見直すならもといた地点から跳躍して同じ場所に着地しただけだ。

 この博士にして、この助手である。

 飛び上がった拍子にお菓子を入れていた籠が飛び散って若干動揺したが、それでもポーズを優先させるところに助手ながらプロ意識が伺える。


 早速茶番を強制的に見せられているニコとティアの目が死んだ魚のように濁っていくのをどこ吹く風、当人たちはノリノリで口上を述べている。


「我々は定例会(殿下ファンクラブ)の会員以前に、リリアナ様に忠義を誓う者」


「そして主の状態のチェックは、臣下たる我々の使命なのであります!」


「ゆえに、我々が逐一殿下の状況をチェックして情報共有しあうことは、正当な行為!」


 ティアがふーんそんなものかと思考放棄気味に思っている一方、ニコ二世は半眼になった。


「風呂場に撮影機カメラを潜入させようとするのも正当な行為なんすか? ……あっ」


 短命種はおのれの失態に気が付くがもう遅い。

 振り返ると新米近衛は腕を鳴らしながら歩き出そうとしていた。


 この男がかなり短気で嫉妬深くて暴力的であることは、入会して数年ですでに子羊全員の知るところである。

 何かあると大体腕力に頼ろうとすることも。

 そしてその腕力から生み出される破壊の被害が尋常ではないことも。



 二人は先ほどの威勢はどこへやら、ソファーの後ろに回り込み小さくなって震えている。


「馬鹿でありますか、なんでよりによって、そのヒトがいて、会長がいないときに言うのでありますか!?」


「そ、そうだぞニコジュニア、私たちを殺す気かい!?」


「わっわわわわわー、ストップ、シーグフリードさん、ストップっすー!」


 ニコは必死にティアの腰のあたりに飛びついて止めようとする。縋りつかれて、どうしたものかなとティアは困った顔になった。

 未だに短命種の扱いを心得きれていないのだ。


「大体あの時狙おうとしたのは風呂上がりの水も滴るいいうなじだって、さすがに裸は自重するよ! 


私が求めるのはギリギリ、そう、こう、見えるか見えないかのライン、時には全く見えないところに無限のエロスを感じ、私が作るものも願わくばそうありたいと、だから全裸写真なんてけしからんものは撮るつもりがない――」


「やめるであります、博士! 余計怒らせているであります!」


「なぜだ!?」


「今の発言のせいで、今まで撮った健全画像も、全部不健全要素が出てくるってことに彼が気が付いてしまったせいであります!」


「もう博士は黙れっすー!」


 ニコは引きずられつつも、必死に腰のあたりを掴んで離さない。

 ますますティアは困り顔になり、博士と助手はこそこそとソファーの後ろで話している。


「くっ、私としたことが……だがまだチャンスはある。

ニコジュニアよ! そいつをこんな無駄なことで人殺しにしたくなかったら全力で庇え!」


「駄目でありますこの博士、完全にヒトとしてどうかしているであります」


「今の言葉のせいで、おれっちは猛烈にあなたたちに味方したくなくなってきたっす――あっ、ダメっすシーグフリードさん、それでもだめっすー!」


 奮闘の末そっと壊れ物を扱うように、しかししっかりと引きはがされてしまったニコは慌てて今度はティアの前に立ちふさがり、両手を広げてソファーの二人を庇う。

 黒龍は立ち尽くして首をかしげている。


「シーグフリードさん、大丈夫っす! 不健全行動は全部事前に会長が差し押さえてるっす、だから未遂なんす!」


「そもそもそう言う発想に至る頭をつぶしておく必要があると判断した」


「物理的にっすか!?」


「……他に何か?」


「知ってるっすか。いくら長命種とはいえ、普通頭部をパーンされたら生きてはいけないっすよ!? それ以上に城内での殺人は――」


「生きているか死んでいるかなんて、リリアナ様の風呂場に侵入しようとした大罪に比べれば些細な問題だ。そうだろう……?」


 ぽん、とソファーの後ろの助手が手を叩いた。


「確かにやらかした事が事だけに、陛下に助けを求めることもできないのであります!」


「殿下本人にもだね。まさかご自分が盗さ――いや、奇跡的画像を撮られたことがあるなんて知らないだろうし。……知ってても知らないふりをしているのかもしれないけれど。


ともかく、もしも真相を知った暁には、きっと虫けらを眺めるような目になって、私たちが喚こうと悲鳴を上げようと聞き流してくださるに違いない。スイッチ入るとSだからねー」


「つまりはこういうことでありますね……詰んだな、我が人生。嗚呼父上母上、申し訳ない。

助手が上司の選択を間違えたばっかりに、このような最後を迎える羽目になってしまうとは……」


「諦めたら首が飛ぶんだよ。必死に状況を好転させる起死回生の策を思いついておくれ!」


「うぬう……主に博士が悪化させているでありますが……助手もこのまま死にたくはないので、考えるのであります」


 二人がのんきに言っている間に、ティアはニコをそっと持ち上げてその辺のクッションにやさしく投げ出し、ソファーのすぐ前にまで迫っていた。


「やめたげて、やめたげてっすー!」


 クッションの上でニコがもがく。振りかぶられた拳を前に、助手がぽんと手を打った。


「あ、思いついた。今まで撮影した殿下の画像の中から、非公開厳選コレクションセットを差し上げるであります!」


「なっ!?」


 ニコが驚愕の顔になる一方、博士は会心の笑みを浮かべた。


「でかした助手、その手があったか――今なら貴重な音声サンプルも付ける! ちょっとエロい奴!」


「そんなことまでしてたんすか!?」


「いやー、ルーティークに話しかけてた声を、録音して抽出してちょっと加工して切り貼りしたら、思いのほかうまく行って……。

あ、でもさすがに公に流布したら会長に絞められそうな気がするから、個人的趣味にとどめているぞっ!」


「でも二人ともやっぱりアホっす! そんなことでシーグフリードさんが止まるわけ――止まるわけ……あれ?」


 ニコが目をこすってしっかり確認すると、ティアは止まって、助手がおもむろに取り出した音声再生装置をじっと眺めている。

 助手が操作すると、まもなく手のひらサイズの丸いその物体から、愛しい愛しい彼女の声が再生される――。


「そんなところを噛むんじゃ――ひゃあっ!? やっ、やめっ――あっ、ダメ――そんなことしたら服が――!」


 これだけあれば脳内再生なんて朝飯前だ。お釣りがくるレベルだ。

 妄想が現実になった瞬間である。


 殴ろうとしていたモーションから、ティアの右手が流れるように握手へと変わり、ついでにブツももう片方の手でしっかり受け取っている。


 助手の横で調子を取り戻した博士が言う。


「おめでとう……これで我々の利害は一致した。

これからも音声データを差し上げよう。その代り、我々の活動を見逃してくれ」


「ちょっ、シーグフリードさん!?」


 ニコの呼びかけには応じず、ティアは幸せそうに音声再生装置を撫でると大事に懐にしまっている。


「フッ、チョロい奴め! 弱点がわかりやすいと、扱いが楽だな」


「博士、思いついたのはこの助手でありますー。

それと、この計画にも穴は存在するのであります」


「なんだそれは」


 ぴっと人差し指を立て、助手は言い切った。


「殿下にバレたら、渡した博士も受け取った彼も提案した助手も、全員お仕置き不可避であります!」


「……シーグフリード君、くれぐれも内密にお願いするよ……特に殿下には……」


 こくり、とティアがうなずく一方、彼の隣に帰ってきたニコは顔を覆っておいおいと泣いている。


「シーグフリードさん、おれっちは悲しいっす……あなたの殿下に対する愛はそんなもんなんすか!? 自分の欲望を優先するなんて!」


「ニコ。これも俺の自主鍛錬のためだ。

そして俺の自主鍛錬は、すべてリリアナ様のためだ」


「殿下のために欲望を抑え込むということは?」


「ニコジュニア、諦めるんだね。たぶん彼、現時点で臨界点まで我慢していると思うよ」


「いやいやそんな御冗談を――」


 博士に言われてニコは彼の顔を見つめる。

 ニコはティアと違い、それなりに察しのいい男である。

 正しくそこに書いてある答えを読み取って、再び両手で顔を覆った。


「殿下……おれっちは恐ろしいっす。

何が一番恐ろしいって、シーグフリードさんの目が、今この瞬間も一点の曇りなく、殿下への愛で輝いていることっす……」


 短命種はよよと泣いていたが、周りが平常通り好きなことをし始めると、自分も気を取り直してせっせとそのあたりの片づけを始める。

 その辺に座り込んでうとうととし始めているティアの頭を、どこから持ち出したのか櫛で弄りながら、再び口を開いた。


「それにしても、最近みなさん忙しそうっすね……」


「それは我々に対するあてつけなのかなー、ニコジュニアよ」


「博士は自分にあてがわれた元の場所より居心地がいいからって、半分くらいこの部屋に入り浸っているでありますからねー」


「いや、そうじゃなくてっすね……」


 櫛で梳かれて気持ちよさそうに目を細めているティアの横で、ニコと博士たちは話し込んでいる。


「確かに、最近ここに来る回数が皆減っている気がするねえ」


「一番気になるのは会長っすよ、会長! いったいどこに行ってしまったっすか?」


「一応生存報告なら、僕のところの受信機に数日おきに来ているんだけどねえ……」


「極秘任務でありましたっけ? そう言えば、しばらく姿を見ていないのであります」


「今までもフラフラしているヒトではあったけど、城内のどこでも見かけないからなあ。一体、何を――」


 博士が言いかけて黙った瞬間、ティアもぱちりと目を見開き、警戒の体勢に入った。


「? あれ、みなさんどうしたっす――」


 ニコが喋っている途中に、ごごごごご、と何か重たいものが動くような音が響く。

 直後、全員の足元が、最初は気が付かないほどさりげなく、まもなく立っていられないほど激しく揺れ始めた。

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