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閑話:キューピッドの企み

「それで、何がわかった?」


 広い拾い王城の一角、とある個室にて男は尋ねる。


 相手はまったく姿の異なる獣人のメイドや召使達だったが、その誰もが彼と同じく、時々虹色に変わる目を持っていた。三人はお互い目を合わせてから、口々に答える。


「あれから何度かテュフォンと一緒に来ているみたいだけど、王は意地悪してこっちのことは教えてないみたいだ」


「あ、つまり殿下の事だよ、パパ上」


「殿下の事以外だったら、ふつうに対応してるけどね」


 三人が言うと、ヒューズは肩をすくめる。


「まあ、陛下は親馬鹿ですからね。当然ありえるでしょう」


「だけど、跡継ぎの方の竜が王城に来るついでに色々なヒトに話を聞いていったらしいから、大体のことは伝わってると考えてもいいんじゃないかと」


「ほー。たとえば誰に?」


「もうほんと、すっごくいろいろ。社交中のご主人様を待ってる従者だとか、俺のメイド仲間も聞かれたし、下級貴族にも何人か話を付けてる。

で、話した奴らの話だと、すっごい気さくって言うか馴れ馴れしいって言うか、よく喋る奴」


「あとね、パパ上。跡継ぎの方は雌だったよ。話はしてないけど、俺たち三人とも姿は見た」


「フェイル、それって必要な情報?」


「ディル、あのヒト、おっぱいおっきかった。たゆんたゆん、とても大事」


「それを言うなら露出多かった。生足、脚線美、そしてふともも万歳。ぷにぷにぷに」


「お前ら、どっちも鍛え上げられたむきむきの筋肉の塊だっただろ、いい加減にしろ。

畜生、なんであんなにあってほとんど揺れないんだ、詐欺だ。一瞬、理想のむっちりに出会えたと期待した俺のときめきを返せ」


「おいこのバカ息子ども……竜族に脂肪要素を期待するのはやめなさい。筋肉が種族特性なんだから」


 ヒューズはよほど悔しかったのか涙目になって三人で手を取り合っている子どもたちにため息をつき、気を取り直してつぶやく。


「しかし、身内のために情報収集しているのだと考えると、なかなか心強い味方があっちにはいるのかな」


「うーん?」


「……単に本人の性格って感じみたいだけど、おしゃべりなのは?」


「だよね」


「別にどっちでもいいんだよ、それは。そういう知り合いがいるってことが、大切なんです。――で、肝心のはどんな調子だ?」


 子どもたちは獣の耳をぴょこりと動かせて顔を見合わせると、一番落ち着いた風のメイドが代表して口を開く。


「跡継ぎは青い竜、テュフォンは見たことがある、ってことで消去法であれだと思うんだけど――白子なんかじゃない、黒龍の雄だったよ。それも、珍しい全身黒の純粋な奴。

やっぱ竜の中でもさらに迫力が違うね、睨まれただけでちびっちゃいそうっていうか。

ああそう、ヒト型の変化も完璧だった。テュフォンの当主も変化した後も尻尾はくっついてるのに、奴は隠してたぜ。もちろん翼も」


「おやおや、なんだか予想してたのと随分違うんだな」


 父親の言葉に、途端に三人は首をかしげる。


「でも、なんかパッとしないって言うか?」


「そうそう、ボーっとした顔してるっていうか?」


「俺、歩いててぶつかったところ見た。普通に壁に当たったぞ、あいつ。派手な音の割に無傷だったけど」


「そうそう、見た目はすごくておおっ、てなるんだけど、よく見てみたら割と人畜無害そうって言うか」


「――ああうん、なるほど。それならリリアナ様の証言と一致する。

だけどお前たち、油断しすぎだぞ。相手は黒龍なんだ。どれだけ温和な性格をしてようと、その気になれば大災害を起こせる個体なんだから、あまり見くびるなよ。

……そもそも黒龍に、人畜無害で温和な個体がいればの話だけどな」


 はーい、と子どもたちは素直に言う。直後すぐに、三人の中で一番若い顔をしている召使がそういえば、と切り出す。


「テュフォンがね、御前試合の事について、詳しく確認して帰っていったって」


「――ああ、なるほど。そう来るのか」


 すぐに納得した表情になったヒューズに、若い召使は言いつのる。


「パパ上、どういうこと?」


「キオル、御前試合には飛び入りっていうか、外部の参加も許可されている。それで、勝ち抜きで軍のやつらを5人倒したら、王族と会食の権利が与えられるんだよ」


「で、その場所には陛下だけでなく、殿下も出席することになっている。今までにも何回かあったろ? 

……まあ、殿下は相手が気に入らないと、すぐに理由つけてさっさと帰っちゃうけどさ」


「要するに、御前試合で勝ち抜いて会食の権利を得たら、さすがの陛下もごねられない」


「いや、ごねることは可能だけど、殿下の出方次第だ」


 二人の兄弟が末弟に説明すると、父親が補足する。


「だったら殿下は必ず出席するよ。向こうだって気になって仕方がないんだから。娘が出ると言い張ったら、陛下も折れる。

要するに、勝ち抜けば必ずリリアナ様には会える」


 ヒューズは言ってから腕組みし、あごに手をやってにやりと笑う。


「となると、益々楽しいことになってきましたね……。さて、我々はどう動いたものか」


「パパ上、基本方針は?」


 息子の言葉に、ふっとヒューズは息を吐いてから、徐に吸い込んで、そして力強く握りこぶしして宣言する。


「そんなもの、決まってます。全力で殿下を弄っていく方針で」


「つまり俺たちは、キューピッドになるってことだね?」


「いやいや、若い者同士の恋と言うのは障害があればあるほど盛り上がるもの。ここはあえてお邪魔虫をだな」


「すれ違いが波乱を呼ぶ、だね。うえっへへへへへ、超やる気出てきた……」


「俺たちだけじゃなく、みんなにも伝達したほうがいいよね、パパ上?」


 きゃいきゃいと盛り上がる三人に、ヒューズはうなずく。


「こんな面白いこと、みんなで楽しまずにどうするんですか。まあ、当座は無事に再会できるまで、引き続き相手の出方をうかがいつつ様子見ってところにしましょう」



 こうして、当人達のあずかり知らぬところで、勝手に二人をバックアップする態勢が整えられていったのだった……。

彼らの種族特性:ゲス

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「種族特性:ゲス」でめちゃくちゃ笑ってしまった! リリアナ姫も、ものすごい拾いものしちゃったもの……。
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