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息抜きにと思っていた部下との手合わせを終え、好きではない書類仕事をこなしていると「コンコン」と扉をたたく音が聞こえてきた。
「入れ」
そう短く返事を返すと綺麗な青い目をした美丈夫が入ってきた。
「やあ。邪魔するよ。裂翔」
ニコニコと愛想のいい笑顔を浮かべながらのんびりとした様子で裂翔の前までやってきた男。
名を蒼月快心。緑王国最高位巫女千華の息子であり、王宮の文官である彼は、変わり者として有名な男である。優秀な文官であるにも関わらず、興味のないことには全くと言っていいほどやる気を見せず、さらさらの腰まである青みがかった黒髪をゆるくひとつに結び、上背はあるが華奢な体躯から女に見られることも多く、女だと思って自分に惚れた相手には、限界までだまし続け、最悪なシチュエーションで自分の正体をばらすというのを趣味にしている奴である。
そんな彼だが、意外にも武官である裂翔と仲がいい。仲がいいというか、裂翔の生真面目さに興味があり、勝手に懐いているという表現が正しいのかも知れないが、今回のように暇を見つけては、彼の執務室や自室に押し掛けるというのは珍しいことではないのだ。
「なんの用だ、快心。俺は今、忙しい。冷やかしに来たならさっさと帰れ」
いつものように邪魔をしに来たのだと思い、顔すら上げずに冷たく言い放つ。
そんな様子を楽しそうに見つめたあと、のんびりと楽しそうな口調で話しだす。
「えー。相変わらずつれないねぇ~。でもねぇ~残念でした~。今回わ~つまんないことに~お仕事でれっくんの部屋にきたの~」
にへらぁと心底楽しそうに持ってきた紙を裂翔に見せた。