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キン キン キキン ガキン
「一本!」
王宮内に設置されている鍛錬所から聞こえてくるのは、兵士たちの戦いの音。
その中で一際大きく、そして注目されている武官がいる。
名を偉裂翔。名門偉家の次男坊であり、若くして隊長格に就いた非常に優秀な武官である。愛想が悪いが、男らしく整った顔、均整のとれた体躯、それに加え、剣の腕は王宮で一、二を争うと言われている。そんな彼の試合となれば、腕前を見たさに集まる若い衆や、彼に恋焦がれている女達が仕事の合い間をぬって、見に来るなどし、毎回多くのギャラリーが集まり、非常に注目度が高いものとなってしまう。それは今日の試合も変わらなかった。
自分より二階級も下の武官と手合わせをし、軽やかに一本を決め、わーわー騒ぐギャラリーを放って、いつも通り早々と鍛錬所を出た。
文官と違い武官は体を鍛えること、強くあることを本職としている為、日中を鍛錬所で過ごす者がほとんどだが、ある程度の地位にいる者には、部下の育成法や戦術確認、武官の状況把握など机に向かって仕事をしなくてはならないことが多く、裂翔も例外ではなかった。
書類仕事に少し嫌気がさし、息抜きにと、鍛錬所に足を運んだまでであって、そうそうに執務室に戻らなくてはならなかったのだ。