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魔王がゆく!  作者: たられば
■第1章 冒険者になった俺
3/5

元魔王、レベル上げに苦心する。


 やあ、皆の衆。前回魔王から銃戦士に転職したケオだ。

 俺は今、重大な危機に瀕している。


「しまったな…。」


 今俺がいるのはローデリアの森という成り立て冒険者御用達の森だ。

 出てくるモンスター(人間以外の種族全部の総称)はすべて低級で、数さえ倒せばすぐにでも二つ、三つレベルが上がるというお得な場所…の、はずなんだが。


「エンカウントしては逃げられる。追いかけても逃げられる。追い詰めたら命乞いされ、挙句に本来ならドロップ品になるだろう物を譲渡されってお前…」


 俺は普通にLv.1の冒険者らしくレベル上げに励もうとしただけなのに! なんだこの仕打ち!

 だが、人間より遥かに鋭敏な感覚を持つモンスター達相手には、いくら隠していても俺は恐怖対象になり得るということがわかったのは収穫だな。亜人(エルフや竜人(ドラゴニック)のような知力の高い人型の種族)が相手なら、俺が魔王だということすらバレるかもしれない。


「くっそー…何という落とし穴。俺としたことが。」


 頭を抱えてしゃがみこんでみる。特に打開策は浮かばない。

 いざとなったら口封じってことで殺すことも視野に入れておこう。ほら、“普通”の人間だって自分にとって不利益な情報持ってるやつを殺すことってあるし。これで万事解決オールオッケー。

 じゃなくて、


「今はレベル上げだっての。あーどうすっかな。」


 視線を木々の根元にやると、こちらをびくびくと窺っているマッドスライム。

 あれは確か泥が主成分だから炎属性の魔法攻撃で干からびさせた後、剣や棍棒などの打撃攻撃でしとめるのが基本的な戦法だ。

 まあ、俺にかかれば魔法攻撃の段階で塵も残さず倒せちゃうんだが…。

(…あそこまでびくびくされると倒すのも憚られるな。)

 弱いもの虐めは趣味じゃない。

 向かってくるやつは面倒だが瞬殺させてもらっているが、向かってこないやつをいちいち追ってまで殺すことはしたくないんだよなー。追い詰めたスライムだって、反応が面白くてついやってしまっただけで殺しはしていない。


「いや、待てよ。」


 俺、弱いもの虐めしないとレベル上がんなくね?


 思い当たった事実にハッとなる。自分より強いものが存在しないということはつまり、そういうことだ。

(そうなると、)

 視線の先のスライムがびくりとその液状の体を震わせる。どうやら俺の視線に何かそれまでと違う色が宿ったのを感じ取ったらしい。弱者は強者の顔色を窺うのに優れているもんだなあと、感心する。生存本能は偉大だ。だが、


「すまんな。」


 殺すつもりは無かった。さっきまでは。

 ほら、さっきから言ってる通り俺は弱いもの虐めが嫌いだからな。そして何より平和主義者だ。自ら向かってくる勇敢(と書いて無謀と読む)なもの以外わざわざ相手にする気も無いほどの、な。

 だが、こればっかりは俺にもどうしようもないことだ。諦めてくれ。




「ふむ、こんなとこか?」


 カードに記されていたレベル欄。朝この森を訪れた時にはまだ見事な棒が書かれていたそこは、今や3に変わっている。こつこつ地道に! これだよこれ。俺が求めていた機械作業にも近い工程を踏む人間的生活!


「割り切ってからは順調極まりないな。犠牲になったスライム(あれら)も浮かばれるだろ。多分。」


 身勝手な論理と言うなかれ。俺は結構本気でそう思っている。

 俺より強いものがいない以上、俺が殺されることはありえない。そんな俺に倒されたのだから光栄に思えば良い。

 人間だってレベル上げの為にスライムを倒すんだ。俺が倒したところで大差無いだろ。


「あ゛」


 何の気無しにカードを眺めていると、不意にレベル欄の隣に目が行った。そこに目が行った瞬間、思わず変な声が出る。

 職業欄。そこに燦然と輝いて見える銃戦士(ガンスリンガー)の文字。

 ……そういえば俺、今日銃使ってないな。


「やってしまった。」


 レベル上げと同時に、創ったばかりの装飾魔銃を手に馴染ませるのが今日の目的だったことを、俺はこの時ようやく思い出したのだった。




 結局あの後、銃を使ってスライムを倒して回った。多分あの森しばらくスライム出てこないな。すまん、他の冒険者諸君! 俺と同時期にギルド入りした自分の不運を呪ってくれ。

 そんなこんなで俺のレベルはさらに上がり、今ではレベル5! 結構良い感じじゃないか。

 順調に経験値がたまっていくのが面白くなって、ついつい夢中で狩りまくっているうちに日が暮れていた。あまり遅くなると宿屋の主人が心配そうに声をかけてくるので、早々に街へ戻ることにする。

 どうやら俺の見た目は相当弱そうに見えるらしいな。まぁ、俺の中の“人間はか弱い”というイメージをそのまま具現化している以上仕方ないことか。

 だからといって無駄に心配されるのも変な気分ではある。

(俺がその気になれば、あの街くらい指先一つで滅ぼせるんだけどなー。)

 まぁ、する気は無いが。


「おや、おかえり。夕飯はどこかで食べて来たのかい?」


「ええ、まあ。そういえばギルドって何時まで開いてますかね? 明日あたり仕事取ろうと思ってるんですけど。」


「ん? 冒険者ギルドなら年中無休、何時だって開いてるよ! なんだったら今から仕事貰いに行って、明日の午前で装備整えて午後から仕事に出る、なんてことも出来るね。冒険者になったばかりの子らは、自分達のペースが出来るまで大体そんな感じででやってるよ。」


「なるほど、ありがとうございます。」


「いやいや、そんな畏まった喋り方よしてくれよ。こんな宿屋の親父相手に。」


「そうですか? ええと、じゃあ、これからは出来るだけ“普通”に喋る。」


「おお、そうしてくれ!」


 気の良い人間だと思う。しかし、結構困ったことを言われてしまった。

 “普通”に喋るって難しいんだぞ? 俺は今まで自分より立場が下のものしかいない中で生きてきたんだ。敬語は取ってつけたようにですます付けてりゃある程度誤魔化しが利くんだが、それ以外で喋ろうとすると大体偉そうに聞こえるような尊大な口調になってしまう。なんかもうこれ癖なんだよなぁ。だってな? 魔王ともあろうもんが、こんな内心で語ってるみたいな砕けた口調でベラベラ喋ったらイメージ総崩れだろ。神のやつにもうるさいくらいに忠告貰ってるし。

 そんなこんなで俺は、人間として“普通”の生活をするに当たって魔王的な尊大上から目線口調を封印しようと決意した。

 ぶっちゃけ銀行カード作ったり冒険者カードを作る際には状況についていくだけで精一杯で、思わず慣れた口調が出たりもしたが、途中でどうにか敬語にしたし。許容範囲ということにしておく。

 とにかく、口調はこれからの課題だな。それと、忘れないうちに冒険者ギルド行って仕事の依頼取って来るか。




「あら、ケオさん。こんばんは!」


「こんばんは。俺のレベルで請け負えるお仕事ってありますか?」


「ええと、今現在ケオさんは…5レベル!? え、えーっと、昨日カード取得なさいました、よね?」


「はい。」


「もう、5レベル?」


「今日一日かけて森でレベル上げしてたもので…。何かおかしいですか?」


「い、いえ! そうですね、5レベルなら…今だと『ローデリアの森にいるジャイアント・ビー討伐』、『回復薬の材料になる薬草の収集』、『隣町までの護衛』、ですね。ちなみに護衛依頼は5レベル以上の冒険者を三名以上という条件でになっているので、ケオさんのようにパーティを組んでいない方は他の方とご一緒する形になりますね。」


「そうですか。…やっぱりパーティを組んでいる方が有利なんでしょうか?」


「うーん、別にそうとは決まってませんよ? 一人で活動してらっしゃる方でも功績を残している方は山ほどいらっしゃいますし。ケオさんだって昨日の今日で四つもレベルが上げられて…あら?」


「ん?」


「能力値、…故障かしら? えぇと、少しお預かりしてもよろしいですか?」


「あ゛……い、いや。別に今のところこれで困っていることも無いし、このままで構わない。」


「え、ですが…」


 失敗した。隠すの忘れたわーうわー。思いっきり疑いの目で見られてるじゃないですか、ヤダー。ってふざけてる場合じゃない。どうする? 殺す? …いや、こうやって真っ先に殺すって選択肢が出るのは俺の悪い癖だな。うん。記憶改竄くらいに、…いやいや、それもどうなんだ?

 どうこの状況を切り抜けるか思考を巡らせる。その間僅か一秒足らず。

(そうだ!)

 閃いた瞬間、指先をサッと能力値欄へ滑らせる。それと同時にそこに書かれた文字がすべて大体基準値通りの数値に変わったように見える(・・・・・・)


「俺の数値はそんなにおかしいでしょうか?」


「え、ええ! だってこんな…あら?」


 すっかり彼女にとっての“普通”通りの見慣れているだろう数値に変わったそれを驚いたように見つめている。よしよし、最初っからこれ使っとけば良かった。

 【幻惑(イリュージョン)】によって書き換わったそれを返してもらいながら、そっと気づかれないように笑う。

 常時これをかけておけば、いつ誰に見られても問題は無いだろう。

 魔力探知にひっかかっても、冒険者カードだ。まず取り上げられることは無い。何事か咎められたなら、壊れないように【補強リーンフォース】の魔法をかけてるんだとでも言えば良い。よし、これでいこう!


 それにしても俺、昨日からうっかりしすぎじゃね?

 自分の迂闊さを若干呪いながら、今後はもう少し注意してから行動しようと思う。

 その為にも、まずは仕事に慣れないとな。どうにも俺はアドリブに弱いみたいだし、慣れればもうちょっとこう、上手いこと考えて行動も出来るだろう。それまでは、…行き当たりばったりも味だと思おう。


「…じゃあ、今回は『ジャイアント・ビーの討伐』で。」


「はい! では、この依頼書をお受け取りください。大体の依頼には期限が設けられていますので、その期日を過ぎても結果報告、成功にしろ失敗にしろ無いと違約金が発生致しますのでご注意ください。報告はこの隣のカウンターです。」


 受け取った依頼書。期限は請け負った日から三日以内と書かれている。なるほど、これなら明日の午後でも十分だな。そんなに時間もかからないだろうし。

 明日は装備を充実させよう。武器は魔導弾を打ち出す特別製の装飾銃で攻撃面は充実し過ぎとも思うが、一応ナイフとかも装備してみたい。冒険者っぽいし。

 後は防御面だよなぁ…。【補強(リーンフォース)】を自分にかければそれだけでそこらの(シールド)(アーマー)なんかよりよっぽど強いし、別にこれといって必要ではないか? でもなぁ、そんなん全然“普通”っぽくない。

 俺の職業は銃戦士。機動力が武器ってことになるわけだが…そうなると、回避か。ヘタに重い防具を身に付けるより、身の軽さを活かして攻撃をかわす。おお! 冒険者っぽい! これだ!


 方向性も決まったことだ。明日に備えて今日は休もう。

 ぶっちゃけ俺の体は休養を必要としないんだが、まぁ気分だ気分。人間はこういう時そういう行動を取るんだろ?


 さーて、明日からが楽しみだ!




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