8月31日
8月31日、本日は晴天なり。繰り返す本日は晴天なり。
それはもう、うっとおしい程に空は高く太陽は近年いわれる地球温暖化とやらの影響か例年よりもさらにその輝きにみがきをかけたかのようにみずからの存在を主張している。おまけにこれでもかいう程のセミたちの大合唱ときたもんだ。イライラしてしまうのは仕方ない事だろう。
東雲 鈴――花も恥じらう高校3年生、17歳。いわゆるJKというヤツだ。だが私の周りの友達から言わせると、女子高生らしくない女子高生らしい。意味がわからん。
とりとめもない思考に気をとばし、夏休みの課題がたっぷりと入った重量5kgオーバーのリュックを背負い、私立図書館からのクソ暑い帰路につくことはや20分。
「……迷った。」
別に自分は壊滅的に方向オンチということもなく、ほぼ夏休みのあいだ週3で通っているような道を忘れるほど残念な頭をしているつもりもない。だが前を見ても後ろを見ても見覚えのない景色がつづいているのみ。
「最悪だ。」
本当、最低の気分だ。
取りあえず喫茶店でもどこへでも入ってちょっと休憩してからどうするか決めようと思い、すでにくたくたの体に鞭を打つ思いで足を踏み出した。
じりじりと体を浸食するような疲労感と、日本の夏の特徴との言える様な肌に絡みつくねっとりした湿気にどんどん体力を奪われていく。
そう言えば喉が渇いたな、なんて少し意識するとと体が水分を欲しがっているのにきずいてしまう。するととたんに思考がそれに埋め尽くされる。そしてその揺れる思考に引っ張られるように自分の視界がゆらりゆらり、と船の上に乗っているかのように揺らめきはじめたのにきずいた。
陽炎のようにぼやける視界にこれはまずいと思い、気合いを入れるために力強く足を踏み出そうとした、時。
ぐらり
ひときわ大きく視界が乱れ、一気に体重を支えていた方の足から力が抜ける。
「あっ…?!」
とっさに反射で突き出した腕が自分の全体重によって勢いよく押しつぶされる痛みを覚悟しきつく両目をとじた。瞬間、想像していたものとはまるで違う泥沼にたたきつけられたような衝撃が全身に走った。
「いっ?!…は、なにこれ?!」
目を開けて瞬時に飛び込んできたのは、周囲約三メートル程の真っ黒なアスファルトが荒波のごとく私を飲み込もうとしている光景だった。あまりの出来事に思考も体も全く反応できず、私はあっけなくアスファルトの波に飲み込まれてしまった。
うねる黒波は容赦ない力で私の足あるいは腕あるいは髪をめちゃくちゃなほうこうへひっぱる。あまりの圧力になんとも矮小な私の体はボロ雑巾のように翻弄され痛めつけられ、声にならない悲鳴が気泡とともに自らの口からこぼれた。
(あぁ、ほんと最高に最悪だ!!)
そうして私は気を失った。