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ゴシック・ロジック  作者: もみもみじ
3/4

第三話 剣越と白朱雀のポッシビリティ

「鍛冶屋に行こう!」

「はぁ?」

 今日の開口一番の言葉がそれだった。『おはよう』ではなく『鍛冶屋に行こう』である。ユイヤ、マナーがなってないぞ。一応、日本の文化なんだから。

「暇だから! だから、鍛冶屋に行こう!」

「いや、暇だが」

 ここに来てから一週間が経つが、最初の日以外に依頼という依頼は来なかった。

 金的な意味では充実しているらしいが、この、何と言うかニート的な数日は酷かった。ティーサイクルを繰り返し、暇があれば剣術練習をしたりしていたのだ。まぁ、ニートとは違うが、仕事をしていないのは事実だよな。まぁ、俺は高校生だから少し違うんだが。

「唐突過ぎるだろ! もう少し、何ていうか……順序はないのか、順序は!!」

「ん? カレンダーには書いているんだけど?」

 と、ユイヤ専用の机の上から色々書かれたカレンダーを素早く取り出した。

 いや、まぁ、書いてあるけどよ。見ねぇよ。つーか、ハートマークで囲うなよ。女子か! いや、体は女子か……、だが、中身は男だろ。

 と、我ながら馬鹿らしい脳内会議をする。

「第一、鞘がないと危険だろう? 非論理的だよ」

「まぁな」

 黒い袋じゃ、いつか切り裂かれて中身が出てしまうしな。なんだかんだで、姉さんも鞘を持ってたな。黒いやつ。

「金は、かかるのか?」

「コネで何とかするよ」

 酷い。これは酷いぞ。

 こいつの人望が厚いのは、この間アマルに嫌なほどに聞かされた。でも、そういう意味で信頼を勝ち取っているなら、俺は殴るぞ。ゲンコツ一発の刑だ。

 と、俺がわなわなと拳を震わせていたところで、ユイヤはいきなり懐かしむような顔で遠くを見た。

「信頼は全てを繋げるもの。それがあるから、自分は世界に存在できる」

 唐突にそうつぶやいた。

「ボクの知り合いの言葉だよ。いや、名言というかな」

「誰だ、そんないい言葉を作ったのは?」

 一瞬、中二病的なものを感じたが、よく考えてみるとそれはとても深い意味を持っているのが解った。

「ナギサ。風見鶏ナギサという変人だよ」

「ナギサ……。つか、変人て言うなよ」

 知り合いならそういう扱いすんなよ。

 ていうか、ナギサか。名前的には女なんだろうか? こいつの知り合いだから、また死神とかそういう部類な気がする。まぁ、もう驚かないがな。

「というわけで行こう!」

「何が“というわけ”だ。……まぁ、行くか」

 俺にとっては何も利益がないわけではない。むしろ、鞘が手に入るのだ。得だ、得。メリットだ。

 俺はそう思い、急いで刀を取りにいく。心なしか、ユイヤのテンションが上がっているように見えた。




 ユイヤの魔術探偵事務所から出て徒歩8分。そこから電車に乗って16分。そして再び徒歩で16分を費やし、計40分を使用し、目的地に着いた。

 場所はまさに山の中。周りは木だらけ。マイナスイオンがすごい。

 俺達はその山にある長々しい階段に登りながら雑談を繰り返す。

「この山は近衛山と言われていて、ボク達が会いに行こうと思っている人間の祖先、近衛信三の所有していた山さ。天性の鍛冶屋と言われていたらしいよ」

 ユイヤが得意げになって説明するが、正直な話よく解らん。

 整理はしないでおこう。興味が湧かないし。

「ユイヤ」

 ふと、俺は突然浮かび上がった疑問を口にする。

 ユイヤは、話を遮られたことに一瞬だが、ムカついた顔をしたがすぐに寛容的な顔になる。

「なんだい? 結城」

「いまいちよく判んねぇんだが、なんでユイヤの知り合いに鍛冶屋がいるんだ?」

 この俺の質問に、ユイヤは人差し指を上に上げて説明する。

「ボクは昔は剣士だったんだよ。君と同じ感じのね。んでさ、鍛冶屋の協力が必要になって、いろんな人に聞いてここに辿り着いたんだよ」

 そう言って、ユイヤはその人差し指をとある物に指す。

 そこには、木造というか、THE 道場って感じの神社的なノリの建築物があった。神秘性を感じるが、ここが鍛冶屋だと言うならそうは思わないだろう。

「ホホー! いるかーい?」

 ユイヤがその可愛らしい声でそのホホという存在を呼ぶ。が、反応はなし。聞こえるのはウグイスの、ホーッホケキョ、という泣き声だけだ。

 カラスでなくてよかったな。

「いないのかな? それとも寝てるのか」

「アポなしかよ」

 アポありだと思っていたんだが。いや、まぁ、こいつの性格なら後先考えずにしそうだがな。

「ホーホォー!」

 ユイヤがもう一度大きな声で呼ぶ。

 すると、ウグイスの泣き声が止み、代わりにその木造建築物からドタドタ、と激しい音が聞こえる。しかも、その音が近づいてくる!

「あっ、き――――」

「ユゥーイヤァー!!!!」

 突然、その建築物の扉らしきものが勢いよく開かれ、そこから黒い影が奇声とともにユイヤに抱きついた。俺はとっさに、背中につけていた黒い袋から刀を抜く。

 が、倒れそうなユイヤが両手でバツマークを作る。いちいちカワイイな、おい。

「ユイヤ、そいつは誰だ?」

 俺は握っていた刀を袋に直し、そう問いかける。

 今更ながらだが、その影の姿は人間であり、俺より歳が上のような外見だった。そして、女である。

「か、彼女の名は近衛穂々。この山の持ち主であり、鍛冶屋であり、まぁ……こういう女だ」

 最後のこういうは、すごく複雑そうな顔をして言った。まぁ、嫌われてはいないがくっつきすぎ感は否めないからな。つか、ユイヤを頬ずりしてるし。

「こら、ホホ。止めなよ~」

 約16歳で尚且つ小さめの少女に怒られる推定20歳ぐらいの女性の画。色んな意味でシュールだ。

 そして、今更ながら巨乳と気づく。悲しいな、男としては複雑な気分だ。つか、残念ながら大きすぎるのは苦手なんだがな。

 そう変な脳内整理をしていると流石に諦めたようで、ユイヤを離す。

「…………」

 そして、今更ながら俺を発見したようでなぜか睨んでくる。

「お前、誰だ!」

「気づくのが遅すぎねぇか?」

 ツッコみ辛いな、こういう人は。つか、関西人の血は入ってないから自信がないんだよ、ツッコミは。まぁ、東京をなめてるわけではないんだがな。

「名を名乗っとく。羽馬結城。剣越者第八位だ」

「羽馬の息子か」

 と、ユイヤの頭をなでた後その凛とした目で俺を見る。すると、いきなり俺の刀が入った袋を取り上げる。

「あっ」

「ふん、鞘なしか。だが、手入れは行き届いている……。錆もないな」

 勝手に言葉を並べがら俺の刀を振ったり色々し始める。

「大事に使っているな。だが、鞘はいるだろ。作ってやる。あと、鍛えてやる」

「さすがホホ。頼れるな~」

 ホホはフフッ、と微笑んだ後、その木造建築物の中に入っていった。

 俺は唖然としていた。つか、展開が速い。解らん。速すぎて解らん。思考が追いつかん。混濁してる。情報の渋滞を起こしている。

 そんな俺をユイヤは手を握り、

「彼女は鍛冶屋で、初代からずっと剣越者の刀を鍛えているんだよ」

 そうつぶやいた。少しずつだが情報が整理されていって、現在状況をつかむ。

 ていうか俺、頭が悪いからいろんなことがあるとパニくるからな。そういうところは直していかないとな。

「見に行くかい?」

 ユイヤは穏やかに、優しくそう聞いてきた。あのときの冷たい声は微塵もない。

「あぁ」

 俺は短く、そう答えた。




「この刀の名は?」

「白朱雀」

「誰に渡された?」

「親父」

 そんな会話をしつつ、剣を鍛えるホホはなんというか美しくて、凛々しくて、すっごく頼れる姉さんタイプな人だった。

 と、普通の人間ならそう言う。いや、俺も普通な人間だが、俺はむしろその手際に目が行っていた。早い、というか綺麗だ。刀が整えられていくような気がする。

「ユイヤ。この刀、ダイアモンドだよ」

「やっぱり」

「はぁ?」

 ダイアモンド? よく解らん単語が出てきたぞ。

「君は本当に無知だね。剣越者にはそれぞれ専用の刀を持たせられる。君の場合の白朱雀だよ。そして、その刀の刃には鉄以外に特別な成分が入っている。君の場合は、それがダイアモンドなのさ」

 ダイアモンドは確か、宝石の一種だったはずだ。地球上で一番硬いやつなんだよな。確か、ダイアモンドカッターというやつもあったはずだ。

「恐らくだけど、その刀の特性『魔力を斬る』はそこから来ている。石言葉は確か、『純潔 不屈 永遠の絆』だったはずだから」

「最初と最後はよく解らんが、不屈なら納得だな。魔力にも屈しない剣か。やっぱいいな」

 カッコイイし、なんかいい。不屈かぁ……。

「ていうか、ユイヤ――」

「ホホ。ちょっと耳貸して」

 と、ユイヤがゴニョゴニョと、ホホに近づいて耳に何かをささやく。ていうか、ホホ、ユイヤに抱きつこうとするな。

「――解った」

 ホホが短くそう言った。なんだか、隠し事をされているみたいで嫌だな。でも、誰だってあるもんな。だから、責めるのは止めよう。

「羽馬結城。君はまだ白朱雀の可能性に気づいていない」

「可能性?」

 ホホが俺を見ずに刀をハンマーで叩きながらそう言う。相変わらず凛々しく、その言葉には力と迫力がある。

「剣越者と認められた人間には、少し変わった能力がある。剣越者は剣士を超えた存在。剣に純粋になれる人間を指すんだよ。そして、その存在は剣を知ることができる」

「剣を…知る?」

「……鍛冶屋の人間だから言えることだが、剣には少なくとも意思に近いものが存在する。その意思を感じ取れるようになれば、君は白朱雀と共に新しい領域に行ける」

 ……全てが初耳だった。俺はあくまで肩書きだけのものだと思っていた。でも、内容が凄すぎた。

「新しい領域を知りたいなら、今後特訓の仕方を変えな。やり方はユイヤが知ってる」

 ユイヤ、がか。

 今の俺は純粋にその新しい領域を目指したかった。ゆえに、俺はその秘密を知っているであろうユイヤに視線を送る。

 ユイヤは微笑む。

「元より、ボクは君に力を知ってほしい。そして、一緒に戦ってほしいんだ。今のボクには戦う力がないからね」

 魔術はどうした、魔術は。と、口からは出なかった。

「ボクのために、一緒に着いてきてもらえるかい? 結城」

 ユイヤはそう言って、手を差し伸べてきた。

 答えは一つだった。

「……あぁ」

 それはもちろんであった。俺はお前を守る。戦ってやるよ。

 だから、俺は力を求めてやる。ユイヤを護るため。剣越者として更なる領域に立つため。そして、姉を見つけるために。

 俺は新しい決意を胸に、ユイヤの手を包み込んだ。




 帰り道、俺は新しく作ってもらった白を基調とした鞘と、削れた刃部分を使ってついでに作ってもらったナイフをマジマジと見つめていた。どっちも俺の好みだ。

「このナイフの名前は……『白弱朱雀』だな」

「漢字、間違っている気がするけどね」

 解っているよ。薄弱だろ。でも、こういう名前しか思いつかねぇんだよ。

 俺は鞘をとりあえず黒い袋に直し、白弱朱雀を懐にしまう。

「帰ったら特訓だな」

「その前に紅茶だよ」

 へいへい。了解しましたよー。

 と、俺は電車に乗るためにプラットホームでゆっくりしていると、

「あっ!!」

 ユイヤが大声を出した。周りには他の客がいなかったので、その声が空しく響く。

「どうした?」

「いけない、忘れてた!」

 俺はユイヤの方を向きながら頭の上に?マークを浮かべる。忘れもんでしたか。

 だが、ユイヤは俺を見て、すごく悲しいそうな顔をしながらこう言ったのだった。



「アマルの契約が切れるの、あと二日だ……」




人には、可能性という特別な力があります。

力があっても発揮できない者や、しようとしても動けない者を指します。

ただ、その人間には希望があります。出来るのです。


だから、希望を諦めずに可能性に賭けてみるのはどうでしょうか?

そう考えると、人間ってすごいと思いませんか?

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