第一話 始曲と剣越のプロローグ
この作品は、私もみもみじのブログである、『もみじ300%』(名前はよく変わる)にて書かれた小説である。
今回は、復帰を含めてなろうに投稿させてもらいました。
未だに未完結ですが、どうぞよろしくお願いします
もみもみじのブログ↓
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東京の春。夜だと言うのに星が見えない。少し肌寒いが、それは春に入ったばかりであろう。都市に入ったからかもしれないが。
俺の知る限り、この季節を実家はとても花粉が強く、両親が苦しそうにくしゃみをしていた印象がある。ただ、この東京ではそういうことはなさそうだ。それゆえに、少し戸惑いを覚える。
「東京に出るなんて、あの時は考えてすらいなかったな」
俺は好きでこの町に来たわけではない。できれば、実家にずっといたかった。
でも、俺には使命がある。
「姉さん……」
行方不明となった姉さんを探すこと。そして、連れ帰ることである。
ただの姉貴ならここまでのことはしないだろう。でも、彼女は普通ではない。否、この俺も普通ではない。
剣越者。剣を越える者と書いてケンエツシャと呼ぶ。この肩書きを持つ者は、一言で言うなら世界一の剣士だ。いや、世界一は語弊かもしれない。現在我々が観測できる剣士の中で一番強いものを指す、と言った方が正しい。
俺の姉さんはその剣越者の一位である。候補者とも言えるのだが、まぁ、現在の剣越者ということだ。
しかし、姉さんは5ヶ月前に家を出たばかりで連絡がなく、流石に危険を感じたのか、父が俺に連れ戻すように言った。
そして、俺はこの東京の地に立っている。父曰く、とある助っ人を用意しているそうだ。
「ここか……」
俺は父から手渡された住所が書かれたメモを現在地と照らし合わせながら、そうつぶやいた。
そこは一言で言うなら事務所。加えるなら探偵事務所というべきか。とにかく、そういう雰囲気の場所だった。
「確かに探偵なら姉さんを探すには楽になるかもな」
素人より、そういう作業が得意そうな人間のほうがいい。父はそれを見越して言ったのだろう。
俺は恐る恐る事務所の扉を開ける。
「ご、ごめん、くださ~い……」
そこにあったのは黒を基調とした机、ソファなどと大量の本棚。そして、探偵が座っていそうなところにあるゴシックロリータと言う種類の人形。
「……留守か」
「そうとは限らないんだよ」
静かな室内にそんなソプラノ質の声が響いた。
俺は身震いし、事務所から出ようとした。
が――
「なっ!?」
扉が開かない。まるで扉自身が壁となったように動かないのだ。
「魔力を行使したら、そういうこともできる」
再びソプラノの声が響く。冷たく、だが少し楽しんでいるような声だ。
俺は扉を開けることを諦め、とりあえずこの事務所の主の名前を呼ぶことにした。
「ユイヤ・オルコット……。出てこい!」
静かな部屋で聞こえるのは大きな俺の声のみ。しかし、その声が反響するかしないかのうちに、
「君の目の前にいる」
と、返答してきた。しかも、例によってソプラノの声で。
俺は戸惑う。父からはユイヤ・オルコットは男と聞かされていたからだ。
俺が動かないのを見て、ソプラノの声はため息をついた。
「しょうがない。動いてあげる」
短く、そしてなんだか残念そうな声を出しながら、ソプラノの声は止んだ。
だが、それと同時に目の前にいたゴシックロリータの人形――否、人間が動き出した。
そして、俺の目の前に立って可愛らしく一回転し、
「ボクの名はユイヤ・オルコット。魔力を行使する魔術探偵さ」
と、ソプラノの声をあげながら微笑んだ。
「魔術探偵?」
それは俺が聞いたことがない単語であった。否、聞くどころか存在するのか疑ってしまう単語である。俗に言う、厨二病という単語だとも考えた。
しかし、それよりも俺にとっては父から聞いた情報が違うことが衝撃的だった。
「俺が知っているユイヤ・オルコットは、男であり、普通の探偵である」
「その情報は誰に、いつ、聞かされた?」
この自称ユイヤ・オルコットは、その可愛らしい声でそう問いてきた。
「俺の父親……羽馬 祐平からの情報だ。一週間前から聞かされた」
「祐平……。剣越者のかい?」
俺の父は元剣越者である。詳しくは剣越者の証を姉さんに明け渡した人間である。更に追加するなら、元一位である。
「あぁ。元、だがな」
「彼に最後に情報を与えたのはおよそ3年前だから、この情報は聞かされてないね。まぁ、流れないようにしただけなんだけどね」
話が見えてこない。何を言っている? 3年前?
解らん。実に解らん。
「まぁいいや。とりあえず君の話を――」
その瞬間、俺の後ろにあった扉が破裂音に等しい爆音と共に、吹っ飛んできた。詳しくは、ような気がした。なぜなら、その扉は俺の後頭部に思いっきり当たり、意識が一瞬朦朧としたからである。
つーか、あの扉って開かないんじゃなかったっけ?
「あら? 内側から魔術をかけたのになー」
なるほど。理解はできた。
俺は奇跡的に角に当たらなかった扉にありがた半分、憎しみ半分で一瞥しながらその扉があった部分を睨んだ。
まだ、頭が痛いけどな。
「ユイヤァ・オルコットォの、事務所はここかぁ?」
低くて、尚且つドスが効いた声が静かな部屋中に響く。五月蝿い。
「うわぁー。ダルいの来たよ」
その可愛らしい声で棒読みをしたゴシックロリータ――通称、ゴスロリ少女は不敵に笑った。自信があるというか、余裕がある感じだ。
「あぁ? 女……?」
低い声の主は、複雑そうな感じになっている。よく見たら、その姿は筋肉質なスキンヘッドの男だった。
「お前って……なんかしたのか?」
明らかにおかしい。喧嘩でも売ったのかもしれない。でも、その喧嘩を買うのは如何なものか。まぁ、確かに言い方はムカつくけどさ。
「こいつは一言で言うなら、邪魔者だよ。いるだけ無駄」
こ、攻撃的だな。火に油を注ぐなよ。
「チッ。魔術師ユイヤ・オルコットは男だと聞いてたが……。とんだ情報違いだな」
情報が違う? それは俺と同じ情報?
「間違ってはいない。魔術師ユイヤ・オルコットは、確かに男だった」
少女が淡々と知ったように言葉を並べる。
俺とスキンヘッドはそれを静かに聞く。
「だが、一年前にユイヤ・オルコットは禁術を犯し、一つの罪を与えられた」
そう言って、少女はなんとも悲しいそうな表情になりながら告げる。
「それがこの姿。強き肉体は弱き女の姿になり、魔術のみしか使えない存在となって現在に至る。実に悲しいが、倫理に適っているから何も言えないけどね」
そう言い終えると、少女は大きくため息をつく。
「どう? もう戦う気はなくなった? じゃあ、帰――」
「ということは、今は抵抗できねぇ、ということだよな?」
変な捉え方した! こいつ、エロスティックな捉え方した!
つーかこいつHENTAIだ!!
「正真正銘の変態だね、君は。嫌いだよ、君みたいのは」
正論である。
「変態で何が悪い!」
逆ギレである。
なんだこのコントは?
「ボクは元を辿れば男なんだよ? いいのかい?」
「今が女なら、問題なしだ!!」
駄目だ。こいつはヤバいな。色んな意味で。アッー的な意味で。
って、おい対話が戦闘する前の対話じゃなくなってるぞ。
「ガーーーーー! お前ら、真面目に戦う対話をしろ!!」
あっ、声が出てしまった。
「あぁ? やんのか? てめぇみたいなやつは引っ込んでな!」
少しムカッとするな。確かに、客観的に見れば俺の容姿は白いポロシャツとジーパンを来て、背中に長細い黒い袋を肩にかけている、少しやんちゃな感じを思わせる(らしい)ただの少年だからな。
でもヤバイな。これは、俺も戦わないといけない感じだぞ。
まぁ、いいか。か弱い女の子を守るぐらいならできる。
「じゃあ、やらしてもらうか。ただ、」
俺は、大声を出した俺を丸い目で見つめる少女を見る。
「ユイヤ・オルコット。こいつを追い払ったら、俺の依頼に条件無しに飲むこと。いいか?」
金を請求されたら堪らんからな。
「うん、いいよ。でも、どうやって戦うのだい?」
「俺の父は剣越者である。そして、俺も姉さんほどではないが剣越者だ。故に、剣で戦わせてもらう」
俺は背中に背負っておいた一つの袋を取り出す。その中の物は俺の背丈の2/3ぐらいの物だ。言うまでもない。俺の剣が入っている。
「剣越者、第八位、羽馬 結城。いざ参る!!」
俺はその声と共に、剣を抜き、スキンヘッドへ立ち向かった。
俺が抜いた剣は刀の形をしており、白き刃と柄が目立つ姿になっている。名前は『白朱雀』。俺が剣越者になった時に渡された相棒とも言える存在だ。ついでにネーミングは、父である。
俺はその剣を構え――
「実に下手な構えだね」
お、俺はその剣を構えて――
「まるで素人だ。倫理に適っていない」
……そう、ゴスロリ少女が言うように、俺の構えはおよそ素人、いやそれよりも劣るほど不可思議な構えである。その型は存在しない。
剣越者には独自の構えが存在する。霞の構えを代表に、様々な構えが存在する。そして第八位である自分の構えは、一言で言うなら無。加えるのなら何もない。ただ純粋に自由な構え。ゆえに、素人。ゆえに、おかしい。
自分で自分を傷つけていく気がする……。もうやめよう。
とりあえず、俺はその剣を素人に等しい構えで攻める。相手の懐まで近づき、まずは横なぎ払い。
「なめんなよぉ!!」
それを右腕で受け止められる。よく見ると鉄製トンファが握られている。
「なら!」
受け止められた剣を軸に右足で相手の腹を蹴る。威力は低いが、それでも相手から離れることに成功する。
「次!」
再び迫り、縦なぎ、斜めなぎ払い。そこからアッパーの如く下からのなぎ払い。攻撃は全てかわされるか、受け止められる。
「フンッ。一発は重いが、当たらねぇぜ!」
「チッ」
思わず舌打ちをしてしまう。
すると、後ろから少女が余裕を含む笑みを浮かべながらこう言う。
「協力してあげようか?」
小馬鹿にされている気がした。少しムッとした。
「大丈夫だ。切札は残しておく主義なんだ」
第一、こんなやつに幾つもある切札を最初から見せるなんて楽しくないだろ。
「おぅらぁ!!」
相手のトンファに思い切り刃を当てて、その衝撃で一度間合いを空ける。
スキンヘッドはトンファを再び構える。手順は整った。
「やるか……」
俺は素人に近い構えをとき、普通に剣を横に持ちながら構える。
「普通にできるんだ」
後ろのゴスロリになんか言われたがとりあえずツッコまないでおこう。
スキンヘッドは警戒するが、それは無駄に終わる。速度が違いすぎるのだ。
「羽馬流、初中段構え、『雪』。そこからの派生奥義!!」
俺はその構えのまま相手の懐へ踏み込む。
スキンヘッドは何とか止めようとトンファを構えるが遅い。
「翼越っ!!」
それはまるで翼を斬るかのごとく。そして、翼を折るかのごとく、その技は炸裂する。この技を簡単に言うなら横なぎ払い。だが、徹底的に違うのはその速度。元々変な構えゆえに速度が遅い無の型を利用していたが、あくまであれは枷であり、この構え『雪』に変えることで速度が上がる。
人は誰だって得意の型が存在する。俺は無の型を得意とするが、それでも『雪』の型のほうが強い。ゆえに俺は剣越者の中では異端者扱いをされているらしい。異名は『二重型の八位』。自分の誇りと言っていい異名だ。
「がっ……」
スキンヘッドはトンファを十分に構えることができずに、腹を横一線に斬られた。痛かっただろう。苦しいだろう。だが、それまでだ。死にはしない。
「俺の刀、白朱雀は人を殺めることはできない。詳しくは、血を流さずに人を殺めることができる」
俺は倒れた敵を見ながら、矛盾した説明をする。実際、俺はこの刀の原理はよく解っていない。結果論を言うと、斬られた人間は肉体的に死にはしないが、精神的には死ぬ。手加減すると戦闘意識がなくなったりする。今回も手加減してやった方だ。
俺は刀を袋にしまい、ゴスロリ少女のほうを見る。スキンヘッドは意識を失ったので、大丈夫だろう。
ゴスロリ少女は、興味深げに俺を見る。
「精神魔術論……って知っているかい?」
唐突にそう聞いてくる。俺は知らないと、短く言う。
「精神は魔力でできているという説だ。勿論、“表”にはこの説は通じない。だから、ここから言うことは“裏”のことだが、魔術というのは存在する」
それはなんとなくだが知っていた。半信半疑だったが、扉の件で確信した。
「人間には一人一人魔力を持っている。それが精神という理論だ。勿論、これは科学的にも魔術的にも解明されていないけどね」
ただ――
と、少女は繋げる。
「君が持つその刀、白朱雀はその原理を加えるのなら証明できる。その刀は、魔力を斬る剣だ」
……俺はそう言われても何も返答できなかった。理解はした。だが、それがどうした。特に何かあるわけではない。
「興味深い。倫理に縛られず、尚且つ自由な型、無を切札にせず敵を倒す君の技術と、その考え。そして、その刀。ゆえに、君を助手に迎えたいわけだが――」
「いや、依頼者なんだが」
ていうか、約束を忘れられている気がする。
「や・く・そ・く!!」
「ん?」
あぁ……忘れられているな、完璧に。
「あぁ、あれか。うん、いいよ。でも、条件付き」
条件付き?
「依頼を聞いてあげるから、ボクに協力してくれないか?」
「助手か?」
「うん。倫理には適っていると思う」
どうやら順序が違うようだが、少なくとも協力はしてくれる感じだ。
探偵の助手か……。ホームズでいうワトソン的な存在になれ、と。
……無理な気がする。だが、まぁ、悪くはない。時間をかけても支障はないだろう。
「その条件、飲ましてもらう」
そして目の前にいるゴスロリ少女は、満面の笑みを浮かべながら頷いた。
「自己紹介しとくよ。ボクは魔術探偵のユイヤ・オルコット。よろしく」
「俺は剣越者の第八位であり、魔術探偵ユイヤの助手の羽馬 結城だ。よろしく」
そして、俺達は共に握手をした。
こうして、俺は自分の運命を狂わせ始めたのだった。
運命というものはあるかどうか判らない空想の言葉です。
だから今回はその空想の言葉があると仮定して話します。
人には様々な道があります。
それを選択して生きるのが運命です。
また、人生と言ってもいいでしょう。
人は選択者です。
決めるのは己です。他の人ではありません。
結城も、選択をしました。
しかし、彼の選択は果たして彼自身が決めたことでしょうか?
そう考えると、人間の選択は難しいと思えませんか?