1-9、ヘンテコな少女様っ!?
ずっ……ずり、ずっ、ずり……。
何かを引きずるような音が聞こえる。次いで全身を襲った鈍い痛みに、泥のように眠り込んでいた意識が覚醒する。
重い瞼を開けて、アリスは眼球だけを動かし周囲の様子を見る。あまりの痛みに手足が全く動かなかったからだ。
ディークとの戦闘。頭に血が上って冷静さを失っていたといっても言い訳できないほどの実力の差に、アリスは完膚なきまでに敗北し、そして徹底的に痛めつけられた。最後に覚えているのは、傷ついたアリスを愉快そうに見つめるディークの赤茶の瞳。そこで記憶は切れている。
(ここは……)
動かない身体に内心舌打ちながら、アリスは鈍い頭を必死に働かせる。
自分は、とりあえずは生きている。ディークの考えは分からないが、止めを刺さなかったようだ。
そして自分は今、何者かに引きずられている。
「い……か、……に気を……ろ、まだ近くに……い……かもし……な……」
頭上で聞こえる濁声は、ディークのものではない。一体こいつは誰だ?
顔を上げて確認しようにも、意識が近づいたり遠のいたりを繰り返し、身動き一つ取れない。
首根っこを掴まれてひたすらに引きずられるアリスの体。雪と土に汚れ、体温はどんどんと奪われていくばかりだ。
「それにし……、とんでもない上玉……売れ……値にな……」
「あい……も、ようやく……に立った」
「確かに! こ……拾って育ててやった……がありま……ね」
数人の男の会話が途切れ途切れに聞こえる。朦朧としながらも、アリスはその会話の断片から、この男達がどうやらあの少年の仲間であり、そして人身売買に手を出すような碌な人間ではないことを理解した。
だが、理解したところで何が出来るわけでもない。この状態で、成人の男を複数相手出来ようはずがないのだ。
万一身体を動かせたとしても、とアリスは自分の腰に目を落とす。攻撃の手段の一つであるトランプはディークの手によって奪い取られ、ベルトには引きちぎられたポーチの欠片が引っかかっているだけだ。
では、長剣はどうなったのか、と行方を低い視界から確かめようとするが、あれを男達は持っていないようだった。ということは、ディークに持ち去られたのか、とアリスは推測する。
これは、本気で助からないかもしれない。
わかってもどうしようもないことを考えて、ついに限界が来たアリスの意識はまた暗闇の中に落ちていった。
随分久しぶりの更新になってしまいました……(汗)