表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不思議の国のアリス様っ!?  作者:
第1章 ヘンテコな少女様っ!?
12/13

2-3、尊大なウサギ様っ!?


「……は?」


 思わず全身に漲らせていた緊張を解いてしまう。

 アンは銃を構えたまま、問いを繰り返す。


《あなたは殺せたはずよね? なぜ、殺さなかったの?》


 こいつ――。

 よりにもよってその問いを俺に投げかけるのか。


 この場を本当に切り抜けたいのなら、出来るだけ会話を長引かせる必要がある。それぐらい、嫌というほどディークには分かっている。

 それでも、『アリスを殺さなかった理由』は、ディークにとってもよく分からない衝動から来るものであったから、説明がとても困難で、なにより面倒だった。


 正直に答える必要はないが、目の前の無機物――アンは、嘘偽りを決して許さない威圧感を持ってディークを圧倒していた。

 つ……っと額を伝う汗を気持ち悪く思いながら、ディークは口を引き結んだ。

 応えないディークに焦れたのか、引き金にかかったアンの指がわずかに動く。それを認めて、ディークはやけくそな気分でぶちまけた。


「――っ、あいつは、俺を殺そうとしてなかった! それが理由だ!!」


《はぁ?》


 心底訳がわからない、といった声音にディークはイライラと足を踏み鳴らした。

 舌打ちをして、無機質な黒いボタンの瞳をまっすぐに射抜く。


「おまえは……あいつの旅の目的を知ってるのか?」


《…………》


 沈黙は肯定の証か。黙したまま先を促すアンに、ディークは言葉を繋いだ。


「あいつは、あの目的を果たすために生きてんだろうが。それを失くせばあいつは生きる理由を失う。違うか」


《何が言いたいの……?》


 生き物でないはずのウサギの背から、邪悪な気配が立ち上る。

 ディークは雪原に落とされたままの長剣を見、それを握っていたアリスに思いを巡らせる。


「あいつは、認めたくねぇが相当の手練だ。あいつの目的を果たす上で、その力は有効に働くだろう」


 全く無駄のない剣捌き。子ども、というより常人離れした身体能力。ディークとサシでやり合った、あの肝の据わりよう。

 それらは普通の人間には持ちようのないものだ。


《……だから?》


「だが、それだけじゃあ駄目なんだよ。あいつには決定的に足りないものがある」


《偉そうに……》


「事実だ。俺は、そいつに気づかせるチャンスをやっただけさ。殺してもよかったが、あいつには俺を殺そうっていう気配がなかったし、一時とはいえ、俺のキャンディの良さを理解した奴だから、まぁ命だけは助けてやった」


 じり、と僅かに足を動かして、ディークは口端を吊り上げる。

 アンは、何かを考え込んでいるのか動きを見せない。

 ディークは、先ほど目に付いたものとの距離を目測で図る。ちらりとアンを見るが、ディークの企みに気づいている様子はない。


《あんたは、何に気づかせたかったっていうの?》


 躊躇いがちに訊ねてきたアンに生じた、一瞬の隙。

 それを見逃すディークではない。鼻を鳴らして、たった一言返してやった。


「こういうことさっ!」


 足を蹴り上げ、雪原の雪をアンに向かって飛ばす。

 それと共に素早く身体を伏せ、雪原に転がしたままだったアリスの長剣に手を伸ばす。


《!》


 ディークの動きを追ってアンが銃口を向けるのと、ディークが長剣の柄を握るのとが同時だった。

 再び響く発砲音、そして耳をつんざくような金属音。――銃弾をギリギリ弾き返した鞘が跳ねる音だ。


《猿真似を……っ》


 苛立ちに震えるアンが再び引き金を引こうとする前に、ディークは鞘から長剣を抜き放った。


 慣れない獲物だが、四の五の言っている暇はない。

 長剣の良い所はリーチが長いということだ。この距離なら――切っ先は届く。


 迷わずにディークは長剣を横一線に閃かせた。

 ディークの目測は誤ることなく、長剣はアンの頭と胴を切り離す――。

 はず、だった。


「!」


 剣を振りぬいた瞬間、目の前にいた筈のアンが消えた。

 目玉が零れ落ちんばかりに驚くディークの背後で感じる殺気。

 振り向く前に後頭部に走った衝撃に、ディークは倒れ伏した。

 起き上がる間もなく、後頭部に銃口が突きつけられる。


《ふふふ》


 人の――、いや、ウサギの笑い声がこんなにも恐ろしいと感じたのは、人生で初のことだ。


《よぉくわかったわ。あんたが言いたかったこと。……さて、じゃああたしはあんたを許してあげるかな?》


 ねぇ、どっちだと思う?

 嬉々として訊ねてくるアンに、ディークは視界が真っ暗になるのを感じていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ