1
俺をが泣いたり、わめいたりしているうちにすっかり日が暮れてしまったため、仕事の話しは明日にまわし、とりあえず眠ることとなった。
「女の子なんだから、少しは警戒しなよぉ。まぁ、間違いは起こらないと断言できるけど。平凡だし」
などと言われながら、イケメンのベッドの片隅を間借りした俺は、おやすみと言ってからもしばらくの間、どうしようもない不安な気持ちからとても寝付けそうになかった。他人の横で寝るっていう緊張も多少あったしね。
けれど、それもほんのわずかの間。イケメンの気持ち良さそうな寝息にひきずられるように俺は夢に落ちていった。今日会ったばかりの人にこんなに頼ってしまうなんてよっぽど不安なんだな俺、なんて思いながら。
そして翌朝、バルコニーから差し込む光を感じながら俺は目を覚ました。
「おはよ」
朝の光のなかでもイケメンはイケメンだった。
「おはようございます…」
ぼんやりとした頭のまま、挨拶をかえす。どうも朝は苦手だ。
一方、イケメンはすでに身支度を整えているように見えた。こざっぱりとした白い木綿の長袖シャツに、同色の腰元と足首意外がダボッとしたズボンをはいていた。シャツの襟は詰め襟のように立っていて、ワイシャツとはすこし異なる形をしていた。
昨日は気にかける余裕もなくて気づかなかったけれど、イケメンの服装は昔絵本で見たアラビアの国の服によく似ていた。
「さて、朝食に行く前に君に贈り物があるんだぁ。じゃじゃぁーん」
そう唐突に宣言すると、イケメンは自身の後ろから何かを差し出した。朝からにぎやかな人だな、と思いつつイケメンが差し出したものへと視線を向ける。紫色のそれは、どうも服のようだった。
「君の格好じゃぁ、またすぐに倒れてしまう。たまたま持ってた女ものの服なんだけどねぇ、大きさも君にぴったりそうだし、ちょっと着てみて」
女ものの服をたまたま持ってる男ってどんな奴だよ…と、いぶかしげな目でイケメンを見ると、ぴんっと立てた人差し指を唇にあてながら「ヒ・ミ・ツ」とのこと。まぁ、いいけど。
ブレザー姿であの日差しの中をウロウロするのは、俺も得策とは思えなかった。
それに、イケメンがブレザーのことを「見かけない服」って言ってたあたりも気になった。変に目立ってしまうのは嫌だ。
したがって、俺はありがたく服を頂戴したのだった。