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「ごめんなっ、急に泣いたり…して。泣いたって、何も、変わらないのに…」
必死に笑おうとするけれど、そうすればするほど嗚咽が酷くなり、涙も鼻水も気前がよくなるようだった。
恥ずかしくて、カッコ悪くて腕で顔を覆ったそのとき、イケメンがすっとその手を俺の頭に伸ばすのを感じた。
そして、子どもをあやすような優しい手つきでポンポンっと頭をなではじめた。
途端に、俺の涙腺は完全に崩壊した。懐かしく、優しいリズムを感じながら声を出して泣いた。
その間中、イケメンが手を休めることはなかった。
目がはれているのがわかるほど泣いて、俺はようやく落ち着いた。
落ち着いたっていうより、疲れたって方が正しいかもしれない。もう、泣く元気もない。そんな感じだ。
泣き声の途絶えた室内はしんと静まり、外はいつのまにか薄暗くなっていた。
街灯の光だろうか、バルコニーからわずかに差し込む光がイケメンを照らしている。
"ねぇ"と、イケメンの唇が動くのが見えた。
「俺はニホンという国を知らないし、だから帰してあげることもできない」
それはそうだ、とぼんやりした頭で考えた。
「でもね、ここでの仕事を世話してあげることはできる。まだ、混乱しているときにこんなことを言うのは酷かもしれないケド、ここで生活しながら帰り方を探したらどうかな?」
君がいったとおり泣いていても仕方ないだろ、と決意を促す声がきこえた。
「仕事、世話して」
彼の言う言葉に完全に納得したわけじゃない。
帰り方を探せばいいというが、見つかる保障なんてない。何せ世界地図には見たこともない大陸が描かれ、自分がどこにいるかもわからないのだから。
それでも…それでも、明日からは1人でどうにかしなければいけないのだ。
その気持ちだけが俺をうなずかせていた…
などというセンチメンタルな気持ちに浸っていられないほどムカつく出来事が待ち受けていようとは、夢にも思わない俺であった。