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「まぁ、君がどこから来たにせよだ、これからどうするぅ?今日一晩ぐらいなら面倒見てあげられるけど」
「ありがとうございます。…できれば、これから日本の大使館に連れていっていただけませんか?そこからは自分でどうにか…お礼は家に着いたら必ず…!」
「ちょっと待って。ニホンのタイシカンって何?」
思わぬ質問に驚きながらも、俺は答えた。ってか、大使館ってどう説明すればいいんだ?
「え、えっと、日本が自分の母国名で、大使館は…日本からこの国に派遣された人が住んでるところです」
「ニホン…ニホンねぇ…俺、旅するのが仕事みたいなものだから地理に結構詳しいけど、そんな国名きいたことないよ。ちなみに、タイシカン?とか言うのもこの国には無い」
「………え?」
傲慢かもしれないけれど、地理に詳しいと言う人が日本を知らないわけない。なのに知らないという。それって、どういうこと???
しばらくの間フリーズしていると、目の前に皺くちゃの紙が広げられた。
「ほい、これ世界地図。ニホンってどの辺かわかるぅ?」
「…これが、世界地図…?」
そこに記されていた世界の形は、見慣れた形ではなかった。というか、初めて見る形だった。
一瞬、からかわれているのでは?という考えがよぎったが、目の前にいるイケメンがそんなことをする理由も無い。
ーいったい今、俺はどこにいるんだ…?
身体中の毛穴が開き、一瞬にして体温が下がるのを感じた。同時に、両の手に制御できない震えが襲い掛かる。
「だ、大丈夫ぅ?どうしたのぉ?」
砂漠ではターバンに覆われていた髪の毛も、今は風にそよいでいる。
青空と同じ色をした髪の毛はフワフワしていて、触ったら気持ち良さそうだと頭の端っこで思った。
髪の毛と同じ色の瞳をぼんやり見つめながら、
「地図に日本が載ってない。っていうか、その世界地図、俺が知ってる地図と違う…」
こんなこと言っても、イケメンさんは困るだけだろう。そうわかっていても、口にせずにいられなかった。
「今、俺、どこにいるのかな?帰れるのかな??」
次の瞬間、情けないことに俺は涙をこぼしていた。