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イケメンさんは片手で俺の背を支え、もう一方の手でコップを持ちながら、俺の顔を覗き込んでいた。どうやら、俺に水を飲ませてくれていたらしい。
「水…どうもありがとう。でも、アホじゃない…と思う」
「どういたしましてぇ。で、アホじゃなかったら、どうして砂漠にあんな格好でいたのぉ?とっても優しい俺に会えたからよかったものの、君あのままあそこに居たら死んでたよ」
そっと俺を横たえさせながらイケメンさんは、本当に危険だったんだからね、と付け加えた。
されるがままに横になった俺は、ようやくここが砂漠ではないことに気がついた。自分がいるのが砂の上ではなく、ベッドの上だということにも。
薄茶色の煉瓦壁で囲われた室内は、強烈な日差しと外の喧騒をほどよく遮ってくれているようだった。砂漠とは段違いの心地よさ。
部屋の一角に儲けられているバルコニーからは、ときおり生温い風がふきこんできた。
「迷惑かけて本当にごめんなさい。でも、自分でもどうして砂漠にいたのかわからないんだ。気づいたら砂の上に倒れていて…」
ーしかも、女になっていた。
その言葉は、グッと飲み込んだ。これ以上変な奴だと思われるのも嫌だし、信じてもらえないと思ったから。
「確かにその服、この辺じゃ見かけないつくりだしなぁ。人買いの落とし物かなぁ?君、不器用そうだし、その容姿じゃねぇ…」
「(売れないってか)ハハハハハ…」
人買いというご職業の方がいるのにもビックリだけれども、それ以上に失礼極まりないイケメンの発言に、俺は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
ごめんなさいね、何のとりえも無さそーな平凡くんで。