15
冷や汗をかきながら店を後にした俺と相変わらずイケメンフェイスなシャーさんは、二人並んで通りを歩いていた。これからシャーさん宅に向かうとのこと。
通りを見渡すとまだ人通りはまばらだった。割合早い時間に歩いているからだろうか。空を見上げれば雲一つない晴天が広がっている。
「ユウ」
ふいにシャーさんに呼ばれその横顔に視線をやる。鼻筋が通っていると横顔が美しいね。思わず指先でなぞりたくなる。
「なに?」
「身請けはしたが私はユウがいいと言うまで何もしないから…その…安心してくれ」
「へ?」
口をぽかっと開けたままシャーさんを見上げる。口内が渇くのを感じて慌てて口を閉じると、ちょっと赤くなったシャーさんの耳先が目に入った。
何もしない…
何もしない……
何もしない………!?
カッと顔面が熱くなるのを感じた。なぜ今までそこに思い至らなかったのか、と自分に呆れつつ穴に入りたい衝動にかられる。身請けって、そうだよな。映画とかドラマの知識から考えるに、その、何だ、男女の関係になったうえでだし、ね。
しどろもどろになりながら、どうにかこうにか俺はシャーさんに返事をした。
「お、お気づかいありがとうございます…」
シャーさんは俺の言葉にはにかむと、豪快に髪の毛を掻き揚げた。照れているのだろうか。この人に俺はいつか手を出してもいいよ、と言える日がくるのかな。
考え事をしながら歩いているうちに俺たちはいつの間にか夜の街を出て、この国の政をつかさどる城にほど近い商業地区へと足を踏み入れていた。一気に人気が増え、歩くのに気を使う。
「ユウ、離れるな」
その言葉と同時にシャーさんの長い腕が俺の背に伸びてきた。嫌な感じはしなかった。が、なんだかとても恥ずかしかった。さっきの話の後だし。近づいてきたシャーさんの身体は温かくて、ジヴァさんとは違った柔らかさがあった。筋肉質で固そうなのに変な感じ。
呼吸や心臓の音がシャーさんに届いて不快な思いをしたら嫌だな、なんて考えてしまい自然にふるまえなくなる俺。乙女かよ。
「ユウ?」
大丈夫?、そうシャーさんの瞳は尋ねている気がした。平気だよ、という思いをこめて俺は微笑んだ。
シャーさんのリードはとても素晴らしく、まるで通りに人がいないかのようにスムーズに先へと進むことができた。周りの様子を伺う余裕が生まれるほどに。
店舗型のお店とテントのお店が混在しているその通りは、いろとりどりの果物や銀色の装飾品まで様々な物が売られていた。
「凄いなぁ…」
思わずこぼれた一言をシャーさんがすかさずキャッチする。こういうところが凄いと思う。
「何か面白いものでもあったか?」
「いろんな物が売られていて面白いなって。仕事で忙しくてじっくり見てまわったことが無かったから、なんか新鮮」
そうか、とシャーさんはこの国は貿易が盛んなこと、たくさんの人が国外から入れ替わり立ち代わり来るから品ぞろえも目まぐるしく変わることなんかを説明してくれた。
「落ち着いたら二人で見てまわろう」
「…はい!」
こういう気遣いも素敵。やっぱりモテる(俺予想)男は違うね。
「さて、着いたぞ」
そうこうしているうちに俺たちは目的地に着いたらしい。いつの間にか門兵さんらしき人に挟まれた、鉄扉が目の前にそびえたっていた。
「あれ?」
この扉の向こう側にあるものを思い浮かべて、俺は声をあげていた。
「あぁ、裏門ですまない。あまり騒がれるのは好かないのでな」
「裏門?って、いやそうじゃなくて…」
シャーさんは俺が建物の正面から入らないことを疑問に思っていると勘違いしているみたいだ。俺が疑問に思っているのは…
「ここってお城、だよね?この国の??」
「そうだが…」
あまりに当たり前のことを尋ねたせいか、シャーさんの麗しき眉間にしわがよる。
「シャーさんの家に行くって…」
その言葉にシャーさんはなんだか合点がいったようだ。
「そうか…ユウは異国の出身だったな」
正確には異世界の出身だけれども、素直に頷いておく。
「ここが私の家で間違いはない。何せ私はここの王をしているからな」
「………え?」
変質者から俺を颯爽と救ってくだすった白馬の王子様ならぬ褐色の王子様は、正確には褐色の王様だったみたいです。まる。
シャーさんの正体が判明しましたところでストック切れ…ただ今続きを書いておりますゆえ、お待ちくださいませm(_ _;)m
よいお盆休みを!!