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「それではお世話になりました」
店の前に勢ぞろいしたお姉さま方に元気よくお辞儀する。途端にそれまで飛んでいた野次が止まる。いい男捕まえたわねとか、どんなワザを使ったのよとか、本当凄かった…
「元気でね」
「ジヴァさん…」
長く美しい指先が俺の頬をなでる。目じりから今にもこぼれそうな涙を必死でこらえる俺は相当変な顔をしていると思う。うっかり売られた先とはいえ、良くしてもらったのは確かだ。
「本当にお世話になりました…平凡で凹凸もなくて、終いには裏方しかできなくなったのに…」
「そんなこと気にしていたの…馬鹿な子ね…」
「…っつ」
ジヴァさんが俺の額に繰り出したデコピンは、我慢していたものを溢れ出させるのに十分な威力だった。
「いい、ユウ」
少し冷たい掌が俺の頬を包み込む。そうして覗き込むように俺を見つめるジヴァさんの瞳は、捕食者を
見つけた肉食動物のようにギラギラと輝き…ん?ギラギラ??
「身請けされたからといって腰を落ち着けてはダメよ。この世は弱肉強食。何があるかわからないのだから、精一杯女を磨きなさい。そしてシャー様の友達をこの店に送り込むのよ。いいわね?」
無言の圧力に俺の首は知らず知らずのうちに縦に動いていた。女豹だ。女豹がここにいる。涙もついでに鼻水も引っ込んだ俺は、女性という生き物…いやジヴァさんという生き物の強かさに今度は冷や汗を流していた。