12
叩き起こされた俺はベットに座ったまま、両脇からジヴァさんとシャーさんに見下ろされていた。
「えっと…」
相変わらず全く状況が見えない。どうしてお二方がここにいらしゃるのでしょうか、とジヴァさんの顔を伺いみると艶やかな笑みが返ってきた。なんだかとっても嫌な予感。
「ユウ、あなたの荷物ってこれだけでいいかしら?」
ジヴァさんが流れるような動作で指さした方に目を向けると、俺の私物がまとめられていた。とはいえ大した量はない。ジーニーに貰った服と自分で買い足した服が二、三あるだけだ。仕事着はお店の貸与だったからね。
「えぇ、はい。でも何で荷物?」
「それはね…」
「ジヴァ殿、それは俺から説明させてくれ」
「…それもそうね」
シャーさんはジヴァさんの言葉を遮ると、その視線を俺に合わせてきた。その真剣な眼差しに俺の心拍数が右肩上がり。何を言われるのだろうかと思わず身構える。
「ユウ」
「は、はい」
名を呼ぶと同時にベットに腰かけたシャーさんがその日に焼けた大きな掌で俺の手をすくいあげる。こうして見ると俺ってば結構色白。
「私と一緒に来てくれないか?」
「一緒に?…えぇ、はい。仕事までなら付き合いますよ?」
そんなこと言うためにわざわざ朝から来たのだろうか。昨夜だって結構遅くまで話をしていたのに。でもシャーさんと出かけるのと俺の私物にいったいどんな関係があるんだ?
そんなことをつらつらと考えていると、ジヴァさんが大きなため息をついた。何か残念な顔でこちらを見ているんですけれども。
「ユウ、あなたって子は…」
「な、なんですか…」
ビビってちょっとどもってしまう。
「いい?シャーさんはあなたを身請けしに来られたのよ」
ちょっとは空気読みなさいよね、というジヴァさんの呆れた声がきこえた気がしたが俺はそれどころではなかった。
「み…うけ…?」
呆けたようにシャーさんを見上げると苦笑しながらあぁそうだ、とうなづいた。
「私はユウと話をする時間が気に入っている。ユウの声で起きてユウの声で眠りにつけたならと思うぐらいに…」
「シャーさん…」
あなたはいったい俺の話の何を気に入ったのでしょうか。と思わず問いただしたくなったが雰囲気的にそれは憚られた。それともあれか。俺ってば結構な聞き上手だったのかしら。いやいやそれはないな、と考えている間にもシャーさんの口は動き続ける。
「今朝も一番に考えたのはユウのことだった…ユウはもう起きているのか、それともまだ眠っているのか…そのとき気づいたんだ…私はユウのことをほとんど知らない」
俺の手を優しく触れていたシャーさんの手に力が入るのを感じた。
「私が知っているのは夜、店に出ているユウ。そこで見たユウだけだ…そう考えたら居てもたってもいられなくなった。もっとユウの傍に居てもっとユウのことを知りたいと思った」
自分の顔がだんだんあつくなるのを感じた。なんか、すげぇ恥ずかしいんですけれども!!
「ユウの気持ちをきいてもいないのに早急だとは思ったのだが…なぁ、ユウ。どうか私と共に来てはくれないだろうか?」
シャーさんの真剣な雰囲気にのまれた俺が首を縦にふるまでに大した時間はかからなかった。