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「ユウ?」
その声に振り替えるとシャーさんが部屋から顔を覗かせていた。
「すみません、お待たせして…」
「ユウ、何があった。顔色が悪いぞ」
何でもありません、と何とか笑みを浮かべながら俺は部屋へと足を進めた。そんな俺をシャーさんは無言で迎えいれてくれる。部屋へ入り酒を置き、席につく。同じように腰をおろしたシャーさんが心配そうに俺を見ていた。その視線に俺は苦笑し、観念してワケを話すことにした。
「今、そこでお客さんに道をきかれて。それに俺ビビっちゃって」
誤魔化すように笑ってみたけれど、シャーさんの表情は変わらなかった。
「思い出すのか?」
主語はなかったけれど何のことか明らかなので、そのまま話を進める。
「そのうち慣れますよ。最初よりだいぶ良くなってきたし」
「荒療治だな」
「良薬は口に苦し、ってね」
ようやく心配顔をといて苦笑いするシャーさん。今度は呆れているかな。でも自分でもどうしようもないのだ。催眠術でもかけれもらえば解決するのだろうか。この世界に催眠術があればの話だけれども。
「あぁ、でもね」
「ん?」
口を閉じたままシャーさんが返事をする。この一見素っ気ない返事を俺は気に入っていた。
「こんなに平気になったのはシャーさんのおかげだよ。俺が嫌がらない範囲で優しく接してくれたから、大丈夫だって思えるようになってきたんだ。良薬だったけれど苦くなかったし。むしろ甘すぎ?本当、感謝してる。ありがとう」
「ユウ…」
ちょっと茶化しながら感謝を伝えてみた。結構、恥ずかしいな。ちらりとシャーさんを見るとイケメン面がだらしなく緩んでいた。背後に花が見えるのは気のせいだよな?