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ひとしきり笑ったあと、シャーさんがそうだと小さくつぶやいた。
「今日はユウの話がききたいな」
「え?俺の??」
ここは遊女の身の上話など…とお約束なセリフを口にすべきなのか。実際、俺の話なんて大したことない。いきなり変な世界に来ちゃったこと以外は。
とりあえずシャーさんの空になりつつある杯に酒をそそぐべく、俺はデカンタのような水差しのような容器を手にした。同時にシャーさんが注ぎやすいように杯をこちらに向けてくれる。
「俺の話なんてつまんないですよ」
視線は杯にやったまま、シャーさんにこたえる。飲みづらくない程度に酒をなみなみと注ぐ。
「そんなことはない…ユウの故郷にも語り部がいたか?」
「語り部…ですか…」
酒の入った容器をもとに戻しながら、おそらく俺が話しやすいようにシャーさんの振ってくれた話題に考えをめぐらす。本当にできた人だ。
「語り部って言っていいかわかんないですけど、いましたよ」
その名もジュンジー。そう、うさんくさいヒゲ面で真夏の暑さも吹っ飛ぶような怖ーい話をするアノ人だ。俺ってば幽霊とかお化けとかその類が嫌いな癖に、怖い話は好きなんだよな。自分でもよくわかんないんだけれども。なもんだからジュンジーのCDも何枚か持っていたりする。初めて買ったとき開けた瞬間にお守りが出てきてビビったのはいい思い出。アレはなかなか秀逸な演出だと今でも思う。
「そうか…その語り部はどんな話をしたんだ?この辺りのと同じ話か?」
「いや、全然違う話」
そう言うとシャーさんはこちらに身を乗り出し、どんな話だと詰め寄ってきた。なにその積極性?と若干逃げ腰になりながら俺は怖い話です、とこたえた。うすうす感じていたけれども、この人結構な物語好きだ。
次回は8月2日にUP予定ですm(_ _)m