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「ユウ、久しぶりだな」
ジヴァさんに連れられて入った上客向けの部屋にはシャーさんがいた。たくさんのクッションが置かれている長椅子のうえで、お酒を呑んでいる。アルコールのせいか助けて貰ったあの日より、シャーさんの纏う空気はどこか柔らかだ。
「お久しぶりです。先日は本当にありがとうございました」
あなたのおかげで今日も俺は元気に働いています、という気持ちをこめて改めて感謝を伝えた。するとシャーさんはそれはそれは本当に素晴らしい笑顔を浮かべた。俺のボキャブラリーでは伝えきれない素晴らしさ。
「気にするなと言ったのに、ユウは律儀だな」
気にするなと言われても普通は気にしますよ、とは言い返せなかった。
「ユウ、シャー様はわざわざあなたの様子をたずねていらしたのよ。そんな辛気くさい顔してないで、元気なら笑いなさい」
そんなに辛気くさい顔をしているだろうか、とジヴァさんに頬を引っ張られながら思案した。だいたい辛気くさい顔ってどんな顔だろう?
「ジヴァ殿、そんなに引っ張ってはユウの頬が赤くなってしまう」
苦笑いを浮かべながらシャーさんがやんわり手を離すよう言ってくれたおかげで、俺の頬の平和は保たれた。
「あら、やだゴメンなさい。どうせ赤くするならもっと色っぽい理由がいいものね」
とジヴァさんは口の端をあげた。
「色っぽいって、俺には一番縁遠い言葉だってよく知ってるくせに」
最近の俺は甘えただ。ちょっと拗ねてみる。とはいえ色っぽい理由なんて俺は欲しくないからあくまで演技だけど。ジヴァさんはそんな俺をみながらいつもみたいにあらあらと楽しそうに声をあげた。
「ユウってば、いつまでたっても初心なんだから」
もう少し大人の魅力をつけなさい、なんて言ってくる。そんな俺たちのやり取りをシャーさんは何だか楽しそうにながめている。
「あぁ、そうね。折角だからシャー様のお酌でもしてちょっとは成長しなさい」
「え゛」
ジヴァさんの突然の発言に固まる俺をかまうことなく、大丈夫手は出さないように伝えたしユウの持ち場には私から言っておくから感謝しなさい、なんて耳打ちしてくる。
「では、後はお若いお二人で。ごゆっくりー」
「え、ちょ、まっ、ジヴァさん!」
こうして俺はイケメンオブザキングなシャーさんと二人きりになってしまった。どうしよう。