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「あらあら、お邪魔だったかしら」
からかいを含んだ声の方に目を向けると、そこには数人の衛兵を引き連れたジヴァさんがいた。その姿を視界に入れた途端、俺の涙腺は崩壊した。泣きながらジヴァさんに駆け寄り、抱きつく。女王だ女豹だと散々思っていたのに我ながら現金なことだ。
「あらあら」
そんな俺を嫌がることも引きはがすこともなく、逆にそっと抱き留めながらジヴァさんは困った子ね、と優しく呟いた。そんな俺たちの横では、酔っ払いから華麗に俺を助けてくれた男が衛兵に向かって酔っ払いを突き出しながら、事の顛末を説明してくれていた。
衛兵が俺たちに一声かけて酔っ払い共々立ち去ると、ジヴァさんは男に向かって礼を述べた。
「うちの子を助けてくださったようで、ありがとうございました。この子が居なくなったのに気付いて探していたのだけれど、あなた様が助けてくださって本当によかったわ。お名前をお伺いしても?」
「…シャーという」
「シャー様、本当にありがとうございました。ほら、ユウもお礼を言いなさい」
ジヴァさんから促され、その胸元から顔をシャーさんの方へ向けると再度お礼を伝えた。涙と鼻水でぐずぐずになった顔を見られるのは恥ずかしかったが、そんなことを言っている場合ではない。
「本当にありがとうございました。シャーさんが助けてくれなかったら俺…俺…」
「ユウ、というのか。礼には及ばない。当然のことをしたまでだ」
シャーさんはどこまでも紳士のようだった。ジーニーの一件があったのでイケメンに対してすっかり妙な偏見を持っていた俺だが改める必要があるようだ。そんなことを考えているとジヴァさんがシャーさんに向かって再度声をかけた。
「申し遅れました。私、そこの角の店を営んでおりますジヴァと申します。大したものも出せない店ではありますが、もしよろしければお寄りください。ぜひお礼をさせていただきたいわ」
そんなジヴァさんの誘いをシャーさんは折角ですが用事がありますのでと断り、またの機会にと言い残して去って行った。
「いい男だったのに残念ね。ねぇユウ」
「え?」
ふふっと艶めかしい笑みを浮かべるジヴァさんの意図が俺にはさっぱり理解できなかった。ジヴァさんの胸を借りて泣いたせいか、随分と気分が落ち着いた俺はジヴァさんの発言をとりあえず横に置いて、迷惑をかけてしまったことを謝罪した。
するとジヴァさんは、どうしようもないときがあること。そういうときは迷わず助けを求めることを俺に言ってきかせた。
「真面目なユウのことだから、どうせ私たちに迷惑かけたくないとか馬鹿なことを考えたんでしょうけど、いくら私だって傷ついてまで店に貢献しろだなんて考えてないわ。むしろそんな考えの方が迷惑よ」
そんなジヴァさんの厳しくも優しい言葉に俺は素直にうなずき、同じようなことが起きないよう周りの人を頼ることをジヴァさんに誓った。