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「何をしている、ときいているんだ」
「うるせぇっ!邪魔するんじゃねぇっ!!」
突然の乱入者に酔っ払いは俺を拘束しながら、怒鳴り返した。
「合意ならともかく…明らかに嫌がっているだろう。いや合意だとしても場所を選ぶべきだ」
「うるせぇって言ってんだろうが!俺がどこでナニをしようが勝手だろうがっ!!」
淡々と酔っ払いに説教をかましながら近づいてくる男に、俺は繰り返し助けてと叫んだ。すると再び酔っ払いに頬を叩かれた。パンッという乾いた音が路地に響く。
「いい加減大人しくしてろっ!!」
「いい加減にするのはお前の方だ、酔っ払い」
その言葉が耳に届いた瞬間、俺を押さえつけていた酔っ払いの力が緩み、そのままズルズルと地面に伏して行った。何が起こったのか把握できないまま、俺はただただそこに突っ立っていた。
「おい、大丈夫か?」
ふいに男が声をかけてきた。俺にきいているのか、と少し遅れて理解しゆっくりと視線を声の主に向けた。見上げなければならないほど高い位置にある男の瞳は、砂漠ではめったに見ることのできない優しい緑色をしていた。柔らかそうな黒髪と褐色の肌によってその瞳はより一層美しく見えた。
「えぇ、だ、大丈夫です…助けていただいてありがとうございました…」
震えが止まらない声と身体を必死に宥めながら、俺は男に礼を述べた。
「無理をするな。震えているじゃないか」
そう言うと男がこちらに向かって手を伸ばすのが見えた。その瞬間、俺は思わずその手を叩き、振り払っていた。反射的に自分がとってしまった行動に驚きながらも、慌てて俺は謝った。恩を仇で返すようなことをしてしまった自分に戸惑いながら。
「すみません!!振り払うつもりは…本当にすみません!!」
両腕で自分を抱きしめながら俺は何度も何度も謝った。すると男は気にするな、と殊更優しい声色で俺に語りかけた。
「あんなことがあった後だったのに俺が浅慮だった。気にするな」
その声色につられるように、俺は再度男の顔に目を向けた。するとそこには優しい微笑みがあった。その表情に少しだけ恐怖が拭われたような気がした。